(画像提供/NPO法人日本トイレ研究所)

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新型コロナウイルスが耳目を集めていますが、地震や大型台風などの自然災害への備えも忘れずにしておきたいところ。ところで、みなさんは災害発生時の「トイレ問題」について考えたことはありますか? 今回は災害時の「トイレ問題」と自身での備蓄・対策についてご紹介しましょう。

今は自宅避難が増える「コロナ時代」。トイレの備えは必須!

「新型コロナウイルス感染症が流行している今こそ、トイレの備えが大切なんですよ」と、その重要性を話してくれたのは、災害時のトイレ問題にも詳しいNPO法人日本トイレ研究所の加藤さん。加藤さんは環境、文化、健康などさまざまな観点でトイレを研究し、トイレを通して社会をより良い方向へ変えていこうと活動しているトイレ研究の第一人者です。

確かに、新型コロナウイルスの感染リスクを考えると、浸水など命の危険が迫るような事態でない場合は、学校などの避難所で集団生活を送るのではなく、「自宅避難」「在宅避難」を選ぶ人は多いことでしょう。筆者宅のように小さな子ども、動物がいるケース、高齢者がいるケースであれば、なおのこと「自宅避難」を選びたくなるもの。ただ、水害・地震などの大きな自然災害が発生すると電気・ガス・上下水道のインフラも被災するので、当然、トイレも使えなくなります。

では、避難は自宅で、トイレは避難所に設置される仮設トイレで済ますのでは、ダメなのでしょうか。

「避難所で設置されるトイレというと、イベントや工事現場で設置される『仮設トイレ』をイメージする人が多いことでしょう。しかし、今回の新型コロナ騒動ではマスクや消毒液などが軒並みスーパーなどから消えましたよね? このように外部から供給・提供されるものは非常に不安定なんです。道路状況や建物の状況、周囲の状況を考えると、仮設トイレが避難所に行き渡るのに1カ月以上かかることもありえるんです。外からくるものをあてにするのは、危険ではないでしょうか」(加藤さん)

東日本大震災発生時に仮設トイレが避難所に行き渡るまで、4日以上かかっているところが半数以上。もっともかかったところでは65日にも(データ:日本トイレ研究所提供) 
アンケート調査実施:名古屋大学エコトピア化学研究所 岡山朋子/協力:日本トイレ研究所/回答:29自治体(岩手県・宮城県・福島県の特定被災地方公共団体)

なるほど、災害が起きても「なんとかなるのでしょ」と軽く考えていたトイレ問題、実はずっとずっと深刻な問題なようです。

声をあげにくい「トイレ問題」。震災ごとに繰り返し深刻な問題を引き起こしていた

「阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、大きな災害発生時には必ずトイレ問題が起きています。トイレ・排泄は大きく語られることがない・声として出しにくいデリケートなテーマなんです。人の尊厳・羞恥心にかかわるので……。トイレの備えがなければ自宅で避難生活を送ることが出来なくなってしまいます」(加藤さん)

各地方自治体もこのトイレ問題を放置しているわけではなく、熊本市ではマンホールトイレを整備したり、富士市では簡易トイレを備蓄する、高知市では携帯トイレの備蓄、仮設トイレの優先供給など、独自に力をいれているところもあります。ただ、そうはいっても、自治体の備えには限界があります。だからこそ個人での備えも重要なのです。

(画像/PIXTA)

しかし、自宅で災害用トイレを備えている人は16.9%にとどまるといいます。この状態だと、災害が発生したときなんと、「8割の人がトイレを使えない」状況になるのです。その8割のなかには、子どもや高齢者、持病をもっている人、障がいをもった人も多数いることでしょう。運よく被災をまぬがれたトイレが近くにあったとしても、行列ができて、混雑するのは想像にかたくありません。

日本トイレ研究所が防災グッズとして自宅にあるものを調査した結果(単位:%)。災害用トイレを用意していた人は16.9%(2018年。東京都と大阪府在住の2000人対象のインターネット調査)

普段、「清潔で快適なトイレ」に慣れた私たちにとって「トイレが使えない」、「汚い」「危険」な状況は相当なストレスになることでしょう。こうしてトイレが使えない、使いたくない状況になると、水分をとるのを控えるようになり、その結果、脱水症状、熱中症、免疫力の低下などを引き起こすといいます。これがいわゆる「災害関連死」につながるのです。もちろん、トイレが不衛生だと感染症の温床となり、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎に感染することもあります。

食事、例えば多少の空腹はがまんできても、トイレだけはがまんできないもの。仮設トイレはいつ到着するか分からない、となれば、やはり自分で備えるのがいちばんでしょう。

個人で備えることができるのは携帯トイレ・簡易トイレ。一度、練習しておく必要アリ

では、どのようなトイレを、どの程度、備えておくのがよいのでしょうか。

「排泄の回数には個人差があります。適正な数がいくつとは一概に言いにくいので、自分がトイレにいく回数を数えるのが、いちばん確実なんですよ。一応、国のガイドラインでは、備蓄を考える際の目安としてトイレの回数は1日5回としています」(加藤さん)

……確かに1日のトイレは5回では、足りないという人もいれば多い、という人もいることでしょう。これを一週間分備えるとなると、35回分。家族がいればその人数分、用意するのが最低限となりそうです。

また、ひとくちに災害用トイレといってもさまざまなタイプがあります。選び方の目安はあるのでしょうか。

「ひとくちに携帯トイレといっても品質はさまざまです。吸水量や凝固期間、臭気対策の有無などの性能を公開しているものを、日本トイレ研究所のサイトで紹介していますので、ここから選ぶことをおすすめします。市販されている商品のなかには、凝固が維持できずに戻ってしまうものもあるんですよ。大切なのは性能なんです。あとは使い勝手です。停電で暗い、寒い状態などで使うことが予想されます。そのときにすぐに使えるか、安心して用便できるかを基準に選んでください。そして携帯用トイレは、トイレで保管しておくとよいでしょう」

個人で備えることができるのは、携帯トイレと簡易トイレの2種類。1回の料金に換算すると100円〜200円程度のものが多いそう。

さらに数だけでなく、自宅避難用と持ち出し用にわけて用意しておくと安心だそう。また、購入して満足するのではなく、一度、自宅のトイレに取り付けて使ってみて、と加藤さん。

「災害時のストレスは想像を絶します。暗い、怖い、この先どうしよう……。そんな極限状態です。せめてトイレくらいは安心して使いたい、というのが多くの人が思うことではないでしょうか。そのためにもぜひ一度、練習してみてください」と力説します。

実は筆者、トイレは猫砂と箱で代用すればいいかな、くらいの安易な気持ちでいたのですが、いかに考えが甘かったかを痛感しました。「備えあれば患いなし」です。今度の休日に携帯トイレと簡易トイレ、自分だけでなく家族で話し合い、使ってみたいと思います。

●取材協力
NPO法人日本トイレ研究所
災害用トイレガイド
(嘉屋 恭子)