コロナ禍でもスタバは国内1500店以上と断トツ。最近では満席となる店舗も目立ち始めている(写真:スターバックスジャパン)

いつまで「スタバ一強」は続くか――。

カフェ業界は新型コロナウイルスによる大きな打撃を受けた業界のひとつだ。消費者がカフェに求めるのは、コーヒーや軽食などの商品だけではない。そこは待ち合わせや仕事で時間を過ごすための快適な場所であり、心地よい接客なども含めた総合的なスペースである。元来、どうしても店内利用が軸の営業になるため、公共空間などでは感染予防で密を避けたい利用者の心理が、カフェ業界にも強い逆風となった。

ただし近年、カフェの市場規模は増加が続いていた。日本フードサービス協会の調査によると、2019年の「喫茶店」の市場規模は1兆1780億円で、10年前と比較して約17%増加。同じ10年間で約10%増となった外食産業全体と比べても、カフェの成長は目立っていたことがわかる。食事は1日3食であるのに対し、コーヒーは嗜好品であるため、1人あたり消費量の伸びが市場の成長に寄与した。『会社四季報 業界地図2021年版』(東洋経済新報社、8月28日発売)では、カフェ業界を含む全173業界の現状と先行きについて、会社四季報記者が徹底解説している。

スタバは国内1500店超、個性が際立つ店舗も

中でもこの10年間の牽引役が「スターバックスコーヒー」(以下、スタバ)である。2010年に912店だった店舗数を、足元では1581店まで1.7倍強に増やした。コロナ前、スターバックスコーヒージャパンの水口貴文CEOは「ありがたいことに満席で席が取れないという声を多くいただいている」と語り、満席で逃していた顧客を確保するため、年間約100店ペースでの積極拡大を進めてきたのである。


そのスタバも、コロナ禍による緊急事態宣言中は、13の「特定警戒都道府県」で全店舗を一斉休業するなど、深刻なダメージを受けた。しかし、宣言解除後は、客足が順調に戻ってきているようだ。もともと固定客が多かったうえ、ソーシャルディスタンスを保つために席数の間引きもしており、現在また満席になっている店舗がしばしば見られる。

2018年からスタバは「2021年末までに1700店」という店舗数の目標を掲げてきた。コロナ禍を経た今も、この方針を変えておらず、積極的な出店を継続している。6月27日には東京・国立で、聴覚に障害のある従業員が中心となり手話で接客する、「サイニングストア」を開業。7月30日には東京・銀座で、メガネチェーンJINSとコラボしワーキングスペースを設けた店舗を開業するなど、意欲的な店舗の取り組みに余念がない。

日本国内のカフェチェーンで1000店を超えるのは、スタバと「ドトールコーヒー」の2チェーンのみ。ドトールコーヒーの店舗数が横ばいが続く中、カフェ業界では「スタバ一人勝ち」が強まっているのが現状だ。

とはいえ2位のドトールも、グループ全体で見れば合計2010店(2月末時点)となり、スタバを上回っている。運営するドトール・日レスホールディングスは、1100店のドトールコーヒーだけでなく、より単価の高い「エクセルシオールカフェ」を都市部で121店を展開するほか、郊外を中心にハンドドリップコーヒーとスフレパンケーキを売りにした「星乃珈琲店」を253店展開している。


路面店(通りに面した1階の店舗)が中心のドトールコーヒー、エクセルシオールカフェに加えて、より集客の難しい空中階(ビルの2階以上の店舗)に出店するための新業態「ドトール珈琲農園」も、現在12店舗まで増強。次の成長軸として試行錯誤を重ねる。あくまでカフェ、喫茶店という軸を維持しながら、立地や物件に応じて最適な業態を出店できる強みを生かす考えだ。

駅から離れ、地元オーナーがFC展開するコメダ

現在3番手のコメダ珈琲店(以下、コメダ)も、スタバに負けず劣らず成長著しい。コメダは1968年に名古屋の喫茶店として生まれた。名古屋名物のモーニングサービスは、スタバやドトールにはない特徴だ。開店から午前11時までの時間帯にドリンクを1杯注文すると、トーストとゆで卵が無料でついてくるというもの。雑誌や新聞も多く取りそろえられており、モーニングと新聞を目当てに毎朝のように来店する固定客も多い。

コメダが関東地方に初出店したのは2003年と、ほかのチェーンと比べると比較的最近である。2012年にはまだ435店だったが、毎年50〜70店の果敢な出店を続け、今年2月には896店となった。わずか8年で倍増する急成長ぶりといえよう。

ただし、積極的な新規出店を続けるスタバとコメダだが、両社の戦略は驚くほど「正反対」だ。コメダの主要立地は、駅周辺や国道沿いなどの一等地ではなく、駅から少し離れた場所や住宅街。工場でコーヒーをドリップして各店舗に配送する仕組みを採用している。スタバが大半の店舗を自社の直営で運営するのに対し、コメダは約95%の店舗が地元のオーナーによるフランチャイズ展開だ。

スタバと同様、コメダもさすがにコロナ禍の4月には、既存店売上高が46.9%減(前年同月比)と低迷。が、郊外中心の立地が奏効して立ち直りは早く、8月には7.5%減(同)まで持ち直した。今年度も店舗数を30店程度増やす見込みで、このペースで出店を続けられれば、いずれ国内2位のチェーンになる日も近そうだ。真逆とも言える戦略を採るスタバとコメダの両社がカフェ市場を引っ張る存在になっている。

そのほか、スタバと同時期に日本に上陸したタリーズコーヒー(タリーズコーヒージャパン)、昼はカフェ、夜はバーとして運営する特徴を持つプロント(プロントコーポレーション)も、店舗数を拡大中である。

コロナショックからの回復は一様でなく、立地やブランド力、カフェ業界は各社の取り組みで大きく差がつきそうだ。『会社四季報 業界地図2021年版』とともに、最新の業績予想や取り組みを掲載した『会社四季報』2020年4集秋号についても、ぜひ参考にしていただきたい。


『会社四季報 業界地図2021年版』のカフェ業界地図(抜粋)。これ以外にも、話題の業界から、ニッチな業界、重厚長大の業界まで、全173業界が網羅されている