台風 今年は強敵 海面水温上昇で勢力増す

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 秋に入ると台風の襲来が増えるが、今年は特に警戒が必要な状況にある。日本の南海域の一部で海面水温が平年より高くなっており、ここを通過する台風は勢力を増す可能性があるからだ。気象庁によると、海面水温が高い状態は10月上旬まで続く見込み。避難場所の確保に加え、農作物や施設の被害防止などの備えが欠かせない。(松村直明)

日本近海 30度超す


 九州を中心に甚大な被害を与えた台風10号が発生した9月1日、小笠原近海の海面水温は30度を超えていた。平年はおおむね28度台で推移する。気象庁は「海面水温が上昇すると、台風の勢力はその分発達しやすくなる」(海洋気象課)と説明する。

 台風10号は沖縄に接近するまで、海面水温が平年よりかなり高い海域を進み続けたため、急速に発達した。ただ、台風9号の通過直後で海水がかき混ぜられていたため、海面水温が27度前後に下がったことなどが影響し、予想より早めに勢力が低下。特別警報の発表には至らなかった。

 勢力が低下したとはいえ、4〜6日は中心気圧920ヘクトパスカル、最大風速50メートルの非常に強い勢力で沖縄を北上。その後も勢力をほとんど落とさず九州に接近した。サトウキビの倒伏や果実の落果、ハウスの破損など各地に大きな爪跡を残した。

 4〜7日に最大瞬間風速の観測史上1位を更新した場所は、長崎市の59・4メートルをはじめ、九州を中心に、33地点に上った。

「記録的」10月上旬まで


 日本の南海域の海面水温は、8月の時点で関東の南東方沖、四国から東海沖にかけて、沖縄の東側3海域で過去最高を記録した。太平洋高気圧が日本側に張り出し、太平洋側の海域が暖かい空気に覆われたためだ。こうした状況は少なくとも10月上旬まで続き、台風発生時に勢力が増す環境が整う可能性がある。

 気象庁によると、14日時点の関東の南東方沖の海面水温は29・3度、四国から東海沖にかけては27・8度。今後、10月上旬までの間、両海域とも海面水温は平年を上回る高さになると見込む。高気圧が強く張り出す状態が続くことに加え、北からの寒気の流入が弱いことを要因に挙げる。

 日本の南海域などでは今後、対流活動が活発化する時期に入る。その結果、熱帯低気圧が生じ、台風になる恐れがある。同庁は「海面水温に加えて、湿度などの条件がそろえば、昨年の台風19号のような勢力となり、広範囲に甚大な被害が出る可能性もある」(天気相談所)と指摘する。

 最近5年間の台風の状況を見ると、9月に計22個、10月に計12個発生している。このうち9月の5個、10月の2個は発生当初から勢力を強めて上陸した。今後の台風には十分注意が必要だ。

予測活用 備えを 片田敏孝氏 東京大学大学院特任教授


 昨年の台風19号に続き、今年も既に最強クラスの台風が襲来した。毎年のように記録的な災害が起こる恐れがあることを前提に、備えを進めねばならない。堤防設置などのハード面はもちろん、住民の主体的な避難行動が重要になる。

 避難所ではコロナ禍で「3密」を避けるため人数を制限し、満員に達した所も出た。避難所の増設は必要。だが「3密」の完全な回避は難しい。親類宅や近隣のホテルなどに避難できないか確認し、それでも厳しいなら自治体設置の避難所に行く。特定の箇所に集中しない「分散避難」を考えていくべきだ。

 気象庁は今回、台風接近の数日前から繰り返し警戒を呼び掛けた。結果、行政や住民に早めの備えを促すことができた。今後は、台風に発達する前の熱帯低気圧の進路を5日先まで予測できるようになった。行政や住民は各種情報を生かし、命を守るための行動を早めに実行してほしい。