【井上久男】銀行、投資家から見放された日産、「最終手段」でいよいよ万事休すか…! 「1兆円超社債発行」の背景

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海外に活路を求めるしかなくなった

日産自動車は9月17日、総額で1兆円を超える巨額のドルとユーロ建て社債を発行する。海外メディアはアジアの企業では過去最大のドル建て社債の発行規模だと報じている。ドル建てが80億ドル(約8500億円)、ユーロ建てが20億ユーロ(約2500億円)だ。

日産がドル建て社債を発行するのは1999年に仏ルノーと提携して以来、初めてという。この海外での資金調達の背景には、国内の金融機関が日産の経営状況を見て追い貸しを渋り始めたため、海外に活路を求めたことが背景にある。

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厳しい言い方だが、相変わらずコーポレートガバナンスが改善されない企業に銀行が金を貸すはずがない。

日産の格付けは低いため、金利が有利な条件で社債は出せない。「腐りかけの肉」は美味しいとばかりに、高い金利を狙っているか、日産の実態をよく知らずに日本を代表する自動車メーカーの1社だからまあ潰れることはないだろうと思っている外国人投資家向けを狙っているのだろう。

ドル建て社債の内訳は、3年債と5年債が各15億ドル、7年債と10年債が各25億ドル。10年債で金利は4・81%。日産は昨年、2500億円の社債発行枠を設定したが、西川廣人社長(当時)の社内規定に反した報酬問題があり、発行を延期していた。

今年5月には倍増して5000億円の社債発行枠を設定するも、700億円しか調達できなかった。国内の投資家は日産の底なしの業績悪化、崩壊したままのコーポレートガバナンスを見て社債がいずれ償還不能になるリスクがあると判断したのであろう。

手元のキャッシュは減る一方

日産の20年3月期決算は6712億円の最終赤字。カルロス・ゴーン元会長が新興国に無謀な拡大投資をした結果、世界で過剰設備に陥ったため、インドネシアやスペインの工場を閉鎖し、その減損処理をしたことで特別損失を計上したことが響いた。

そこに新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延による販売減が追い打ちをかけ、21年3月期は営業損益が過去最大の4700億円の赤字となる見通しだ。さらに構造改革費を積み増したことで最終損益も6700億円の赤字となる見通し。

特に収益源の北米で販売金融が痛んでおり、リースバックされた車の残存価格が中古車価格を上回る、いわゆる「逆ざや」状態となって、中古車を下取りして新車を売れば売るほど赤字になる状況に追い込まれている。

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工場の稼働率も50〜60%と見られ、損益分岐点とされる80%を下回る。世界で720万台あった生産能力を24年3月期までに600万台に落とす計画だが、過渡期の今は、生産能力はまだ700万台水準に近く、21年3月期の生産は380万台程度と予想される。

これでは到底利益は出ず、最終損益が1兆円程度にさらに膨らんでも不思議ではない。

こうした状況から想定して、日産は資金繰りがひっ迫し始めていると見られる。自動車産業は固定費が高いため、一度負のスパイラルに陥ると「キャッシュが蒸発する業界」と言われる。

トヨタ自動車で1ヵ月に必要なキャッシュは1兆円程度。トヨタの規模から推測して日産でも1ヵ月に3000〜4000億円くらいのキャッシュが必要だろう。売上が落ち始めている現状では手元キャッシュが一気に「蒸発」してしまう。

「新総理のお膝元」という面子

手元流動性から有利子負債を差し引いたネットキャッシュは、日産の場合、20年4〜6月期決算の時点で2352億円。前年同期から7651億円も減っている。今後一年はさらにネットキャッシュは悪化するだろう。

資金繰りの悪化に備えて、日産は今年5月から7月にかけて銀行から約8900億円を借り入れた。そのうち政府系の金融機関、日本政策投資銀行から1800億円、国際協力銀行から5億8200万ドル(617億円)借りた。

政投銀の融資1800億円のうち1300億円は政府保証付きだ。また、国際協力銀行の融資は、民間銀行との協調融資の一部であり、日産の米国法人経由メキシコの販売金融事業で使われる。

民間銀行が追い貸しを渋り始めた中、政府系金融機関に頼らざる局面に追い込まれている。

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日産の本社近くに、菅義偉首相の邸宅がある。新総理の選挙区内にある最も大きな企業が日産だ。政投銀の融資に政府保証が付いたのも、官房長官当時の菅氏の意向があったからと見る向きは多い。

首相のお膝元の有名大企業の経営危機は、面子をかけても避けたいところだろう。今後、政府がどのような大義名分で日産の救済に走るか注目されるところだ。

そして筆者が強調したいことは、日産のコーポレートガバナンスがいまだに健全化していないので、投資家からそっぽを向かれ始めている点だ。たとえば、業績悪化を受けて無配に陥ったのに、退任役員に高額の退任時報酬を払う感覚自体に危機感がないと言わざるを得ない。

退任時報酬にみる「腐敗」の原因

日産が今年7月に開示した有価証券報告書によると、今年2月に退任した西川廣人前社長兼CEOに対して2億9800万円、西川氏の辞任後に暫定CEOを務めて同じく2月に退任した山内康裕氏に対して4億1900万円の総報酬を支払った。

実は総報酬が、格下の山内氏の方が多く支払われることが決まった過程の背後には、日産のカバナンスの異常さや組織の「腐敗」の実態が隠されている。

無配であるのに、この巨額報酬額を決めたのは、社外取締役中心に構成される報酬委員会(委員長・井原慶子社外取締役)だった。ガバナンス改革を目指して経営の透明性を高めるために導入した指名委員会等設置会社が全く機能していないのではないか。

山内康裕前暫定CEO(Photo by GettyImages)

山内氏の総報酬4億1900万円の内訳は、「退任時報酬」が3億400万円、基本年棒が4600万円、その他報酬が6900万円。西川氏の総報酬の内訳は、「退任時報酬」が2億円、基本年俸が9800万円。

この「退任時報酬」こそ大問題だ。報酬委員会の裁量によって支給額を決め、役員が退社後に競業他社に転職しないことや守秘義務を守ることなどを条件に支払われる。報酬委員会の裁量という匙加減が何とでもなる手法で決まり、社内規定で決まっているわけではない。

社長兼CEOよりも格下の暫定CEOの方が、「退任時報酬」が多いのは何とも不自然だし、日産は07年に退職慰労金制度を廃止しているのに、業績が低迷して無配に転落している中で、退職慰労金と似ている退任時報酬を新たに設け、しかもその額が多額であること自体、ガバナンスが機能していない、と言わざるを得ない。

山内氏の退任時報酬が西川氏より高いワケ

これには理由がある。西川氏が辞任した後の新社長選びの際、指名委員会のメンバー6人が投票した結果、関潤専務(当時)が3票、アシュワニ・グプタ三菱自動車COO(同)が2票、山内暫定CEO(同)が1票を獲得した。

関氏が新社長に決まりかけたが、それにルノーのスナール会長が猛反発したため、新社長選びは振り出しにもどった。山内氏に一票を入れたのが、指名委員も兼任する井原社外取締役だったとされる。

「井原氏は『反西川』。その西川氏を追い落とした山内氏を評価して、退任時報酬を西川氏よりも増やしたのだろう。同じ購買出身で内田誠現社長を引き上げたのも山内氏なので、井原氏は内田氏の意向も忖度したのではないか」と、元日産幹部は説明する。

井原慶子社外取締役(Photo by GettyImages)

この「退任時報酬」は他にも軽部博・前CFOに対して1億9300万円、川口均・前副社長に対して1億6000万円がそれぞれ支払われた。「退任時報酬」を得たのはいずれも経営会議メンバーだ。

「退任時報酬」や基本年俸とは別に、07年6月の株主総会で退職慰労金廃止が決議されたことに伴う打ち切り支給として、当時役員だった西川氏に1億1400万円、志賀俊之元COOに1億5200万円も支払われた。

本来であれば、業績悪化や混乱の責任を取って報酬を返上すべき経営会議メンバーの役員が高額の「退任時報酬」を得ることに違和感を覚えるし、その額が権力闘争や好き嫌いで決まるということ自体が異常としか言いようがない。

さらに、この期に及んで非常識極まりない「退任時報酬」を支払うことを率先して決めた社外取締役は全くもって信用できない。日産の今の社外取締役を監督する新たな「社外取締役」が必要なのではないか。

繰り返すが、こんなけじめのない会社に銀行が金を貸すわけがないし、投資家が社債を買うはずもない。

経営状態が悪化し、迷走している日産自動車は実は、16日に新内閣を発足させた菅義偉首相と非常に親密な関係にある。菅氏の小選挙区、神奈川2区内に日産の本社があるからだ。

日産への政府系金融機関からの融資に政府保証が付いた背景についての詳細を、9月18日発売の「週刊現代 9月26日号」で筆者がリポートしている。菅政権が今後、日産救済にどのように動くかも注目される。