2020年、世界中が新型コロナウイルス感染拡大防止のため、新しい生活様式をはじめとし、働き方などにも変化が生じました。予測できなかった突然の事態に、皆さんのとまどいや不安、ストレスは相当だとお察しいたします。



現在は、店内をはじめとする公共の場に入るとき、検温や手の消毒、ビニールシートや飛沫防止パネル越しのお会計が当たり前になりました。当初は私もお客様から、違和感や面倒を感じるというお声も多く寄せられましたが、今ではその不便さが定着してきたように感じられます。

反対に、現場でお仕事をなさっている方々は、以前と比較し、行わなければならない仕事が増えました。前述の検温、消毒液の設置の他にも、お客様に手を消毒していただくためのお声がけ、さらに、以前に増しての清掃・消毒の徹底などです。

今まで通り、現場にてお仕事をなさる方も、テレワークになった方も、それぞれ形は違えど、働き方に変化が生じ、大変な思いをしていることに違いはありません。皆さん、本当にお疲れ様でございます。

○「相手の立場にたつ」マナーの本質に回帰を

このような状況だからこそ、今まさに「相手の立場にたつ」というマナーの本質に回帰しなければなりません。そう、"お互いに思いやる真心のマナー"が必要な時代になったのです。

今までのような、「とりあえず"型"をおさえておけばいい」「まずは、"型"を習得、体得しておけばなんとかなる」という考え方や、「今まで通りやっていれば大丈夫だろう」という気持ちでは、コロナ禍においては取り残されてしまいます。

表面的な体裁を整える型・形だけのマナーはもう通用しません。そもそも、これらは時代に即して作られたマナーであり、目まぐるしく情勢が変わる現代では、すでに通用しないものもあります。「相手の立場にたつ」というマナーの大原則から外れているものも少なくありません。言い換えれば、本来のマナーではないのです。そう考えると、今まさにマナーの真価の問われる時代が到来したと言えるでしょう。

では、私たちは今、どうすればいいのでしょうか?

ウィズコロナで生き残れる人材には2つの力があります。それは、「2つのそうぞう力」と「2つのこうどう力」です。

「2つのそうぞう力」とは「想像力と創造力」、「2つのこうどう力」は「考動力と行動力」を指します。そして、この時代において重要なのは「想像力と考動力」です。想像で相手の立場にたって考え、考動で実際にアウトプットを行います。これこそがマナーの真髄です。

お客様の求めるものをご提供しなければ、満足いただけないですし、リピートにもつながりませんよね。また、自分では一所懸命がんばっているのに、会社や上司や先輩の求めていることを行わなければ評価してもらえない現実に悩む方も少なくありません。お客様が満足し、リピートしてくださったり、会社や上司などから評価してもらったりする鍵。それこそが「マナー」なのです。

相手の立場にたって、相手が喜ぶことを想像し、実行するための創造を行い、考えた上で行動・表現する。このプロセスは仕事でもマナーでも変わりありません。

私はこれを「真心マナー」と呼んでいます。仕事もマナーも相手のニーズが最も大事。これが欠けていたら、健全な数字を出すことや真の収益を上げることは難しいと言えます。

今までは数字に直結することが優先されてきたため、ビジネスマナーは型ばかり注力され、仕事におけるマナーの立ち位置は二の次、三の次になっていた感は否めません。しかし、マナーという「相手ファースト」の素地がなければ、そもそも、お客様(相手)の喜ぶサービスをご提供することはできません。

何より重要なのは、マナーとビジネスマナーの根幹となる「心」「気持ち」「考え方」を身につけることにあるのです。

筆者も最近、こんな経験をしました。拙著『超基本 テレワークのマナー』が炎上したのです。それも発売前から。なぜ、誰も読んでいないはずの本が炎上したのでしょう? それは、前述した「想像力と考動力」がネガティブに機能したためです。

本のタイトルから、一部の方々がマナーに対する先入観から「型を押し付けられる」「けしからんマナーを勝手に作りあげる奴がいる」と誤解されたのです。そしてSNSで、本に書いていないトンデモマナーを拡散され、あっという間に炎上しました。

悲しいことに、根拠のない想像からデマが創造され、叩くための行動が行われたのです。しかし見方を変えれば、このプロセスをポジティブな方に使えば、成果を上げられることを逆説的に証明してくれたとも言えます。

○これからのビジネスマナーは自分で決める

コロナ禍のビジネスマナーは、それぞれのお立場や環境で、互いの立場にたち、互いに思いやりをもって、そのルールを決めていけばいい。そういう時代だと私は考えます。

だから「想像すること」「考えること」が大切な能力となるわけです。とはいえ一方で、「どうすればいいのかわからないから教えて欲しい」という声があるのも事実です。マナーコンサルタント 、ビジネスデザイナーとしての立場から、そのリクエストにお応えすると、やれ「創作マナー」だの「謎マナー」などと言われてしまうわけですが(苦笑)。

もしマナーが自分たちを苦しめていると感じているのならば、マナーを憎むのではなく、マナーと使うべき相手に向き合い、心地よくなるマナーを考えればよいのです。マナーは規則ではないのですから。

マナーは、「TPPPO」(Time(時)・Place(場所)・Person(人・相手)・Position(立場)・Occasion(場合))に応じて、その型は変化していいものなのです。だから、マナーの型にひとつの答えはありません。

しかし、マナーの心は万国共通。相手の立場にたってみるという思いやりの心ですね。ここでひとつ注意点があります。それは、自分たちで作ったマナーとは異なるマナーの人たちに対して、失礼な指摘をしないこと。それぞれの立場や状況、考え方は皆さん異なるわけです。だからそれぞれ型が異なることを覚えておきましょう。例えば茶道では、裏千家や表千家など流派によってその型は異なります。しかし、茶道の心=原点は同じなのです。

もちろん、受け入れられないマナーもあるかもしれません。だからといって、それをいきなり否定するのも失礼です。マナーを通じ、様々な価値観を受け止める度量をもち、人間力を磨く。これこそ相互理解の第一歩です。

コロナ禍において日本人は、家族はもちろん見知らぬ人に対しても思いやりの心で接しています。公共の場ではマスクをする、夜の飲み会の回数を減らす、あるいは自粛するといったことに表れていますよね。

つまり皆さんは本来、思いやりの心を持っていらっしゃいます。そのお心をぜひ、ビジネスシーンにおいても今まで以上に意識・発揮していただければ、仕事との向き合い方も相手からの反応もプラスになることでしょう。お互いのウインが生まれれば、お互いのハッピーも生まれます。こうしたお気持ちこそが、ウィズコロナ、アフターコロナ時代の"真マナー"なのです。

※TPPPOは、西出博子の登録商標

マナーコンサルタント・ビジネスデザイナー : 西出ひろ子 にしでひろこ ヒロコマナーグループ代表。大手企業300社以上のマナーコンサルティングをおこない、結果と成果を出すマナー講師としてテレビや新聞などのメディア800本以上の取材を受ける。NHK大河ドラマや映画、CMなどで超一流俳優や女優、スポーツ選手、タレントなどのマナー指導も多数。また、国内外で約100冊ほどの著書、監修本を手がけ、著者累計100万部を超える作家でもある。近著に、『50歳からのマナー』(ワニブックス)、28万部の『お仕事のマナーとコツ』(学研プラス)などがある。 この著者の記事一覧はこちら