「この女、なんかムカつく」って思われるほど、羨望される存在になりたい…

結局、自己PRの上手い「あざと可愛い女」がいいところを持っていくのが世の常

真面目に生きてるだけじゃ、誰かの引き立て役にしかなれない

そんな自分を卒業し『人生の主人公』になるべく動き出した女・夏帆(26)がいた…

◆これまでのあらすじ

片思いの相手・淳太(31)と友達が付き合ったことを知りショックを受ける夏帆。久々に、淳太を交えた数人と飲みに行くことになったのだが…。

▶前回:「こんなところ、恥ずかしい…」アプリで出会った男に、2回目に連れて行かれた意外な場所




「おめでとー!それにしても、企画が通って本当によかったね」

金曜20時@恵比寿。

夏帆は、『大口案件決定祝い』という名目で、淳太も交えて同僚と久々に食事をしようという話が持ち上がり、恵比寿のイタリアンに集まっていた。

「そういえば夏帆さん、彼氏でもできたんですか?なんか最近雰囲気変わりましたよね。可愛い系から、美人系になったって感じ!」

開始早々、後輩から突然の指摘を受け、夏帆は慌てて否定する。淳太のほうをちらりと見るが、どうやら今の話は彼の耳に届いていないようだ。しかし、夏帆の耳には気になる会話が飛び込んできた。

「あ、そういえば、淳太さんって今彼女とかいるんですか?」

淳太の隣をちゃっかりキープしている同僚の女性が彼にそう問いかける。夏帆は素知らぬふりして後輩とワインを飲みながらも、意識は完全にそちらに向いている。

だが、淳太は話をうやむやにしてその場をやり過ごすだけで、決定的な言葉は出てこない。

ーやっぱり、あの作戦でいくしかない。

夏帆はひっそりと、帰り道で淳太に、あることを仕掛けようと決意した。


淳太と2人きりになれるチャンスを狙っていた夏帆がとった大胆な行動とは!?




「今日は、ありがとうございました!あ…私酔い覚ましもかねて中目黒まで歩いて帰るので!」

夏帆は、恵比寿駅東口の改札に入っていく同僚たちにそう言って、彼らを見送った。

だが、酔い覚ましなんてもちろん嘘だ。

本当は、恵比寿在住の淳太が電車に乗らないことを分かっていて、その場に残りたいがための作戦だった。

「夏帆ちゃん、大丈夫?送ろうか?」

「全然大丈夫です。あ、あの…淳太さん」

そう言って振り返ると、淳太はにこっと笑って「どうしたの?」というように首を傾げる。

「ほんとは、淳太さんと2人で話したかったんです。…ちょっと散歩でもしませんか?」




しばらく散歩して恵比寿ガーデンプレイス近くの店に入ろうとしたが、このご時世お店が閉まるのが早く結局どこにも辿り着けなかった。

「少し座る?」

キラキラと光るジョエル・ロブションの前で、夜風に吹かれながらベンチに座った。最近は22時にもなるとこんなに人通りが少ないのかと、目の前の景色を眺めながら夏帆はぼんやりと思う。

さっきまでは、「2人きりになれたらアレを聞きたい」「ついでにコレも聞いておきたい」と散々思考を巡らせていたのに、いざこうして彼を前にすると当たり障りのない会話しか出てこない。

―こんなんじゃダメ。せっかく2人きりになったんだから、ちゃんと悠乃とのこと聞かなきゃ!

何度もそう自分に言い聞かせる。

段々と鼓動が早くなるのを感じるし、握り締めた手のひらには、うっすらと汗が滲む。

そして訪れた、ひと時の間。夏帆は思い切って口を開いた。

「あの、淳太さん。最近、悠乃とは…」

まるでその言葉を待っていたかのように、彼は「ああ」と答えた。

「そうだね、俺もその話をしなきゃと思って」

淳太が視線を落とす。どこか重苦しい彼の雰囲気につられて、夏帆は小さく固唾を飲んだ。

「彼女とは、距離を置こうって話になった」

「…え?」

「喧嘩とか、問題が起こったわけではないんだけど。でもお互いに、なんか違うなって」

数週間前、六本木で偶然悠乃に会ったとき、彼女は「優しいだけでつまらない」と既に淳太を見限っていた。

彼がどれほどの未練を抱えているかは分からないが、その状況を寂しく思っているのは間違いないだろう。

「でも、今日報告できてよかった、ちょっとスッキリした。みんなにも久々に会えて楽しかったよ。今日はありがとう」

淳太は夏帆の顔を覗き込み、微笑む。困ったような、諦めたような、そんな表情で。

「じゃぁ、駅まで送っていくよ」

彼は立ち上がり、来た道を戻るように歩き始めた。

「…待って!!」

夏帆は、咄嗟に彼の腕を掴む。淳太は立ち止まり、驚いた顔で振り返った。

「私……、もう少しだけ一緒にいたいです」


ついに勇気を出して引き留めた夏帆は、淳太の部屋にいくことになったが・・・




ガーデンプレイスの裏手、閑静な住宅街に彼の住むマンションはあった。

「あ、その辺適当に座ってて。コーヒーでいい?」

夏帆をソファに座るよう促し、淳太はキッチンへと向かう。その姿を目で追いながら、夏帆は溜め息をついた。

『もう少しだけ一緒にいたい』とは言ったものの、結局、彼の家に辿り着いてしまった。

―いくらなんでも、勢いに任せて行動しすぎたかも…。

メゾネットタイプのスタイリッシュな部屋を見渡しながら、夏帆はぼんやりと考えていた。

「お待たせ〜」

悶々とする夏帆をよそに、淳太がコーヒーの入ったマグカップを持って戻ってくる。

「ありがとう」

夏帆はうつむきながらコーヒーを受け取った。




「…家まで来てしまってごめんなさい。私、すぐ帰るので」

淳太は夏帆の隣に腰をおろし、優しく笑う。

「何か、話したいことがあったんじゃないの?」

いくら鈍感な淳太といえども、夏帆の気持ちには薄々気付いているのだろう。コーヒーを一口飲み、マグカップをテーブルに置く。夏帆は一息ついてから、ぽつりぽつりと話し始めた。

「…実は私、ずっと好きな人がいたんです。でも、その人にフラれちゃって。それから新しい出会いを探し始めたんですけど…」

淳太は、静かに夏帆の話を聞いてくれた。

「…今までは、あざとい女が得をすると思ってました。私もみんなの中心にいるヒロインのような女性になりたいって。色々、小手先のテクニックを盗もうと躍起になってました。

でも本当に見習わなくちゃいけなかったのは…彼女達が持つ、揺るぎない自尊心だったのかもしれないって、最近そう思うようになって」

言ってしまった後で、夏帆は急に恥ずかしくなり、「ごめんなさい。淳太さんには関係ない話でした」と会話を切り上げた。

自分語りを後悔しながら恐る恐る淳太の顔を伺うと、彼は小さく首を横に振っていた。

その仕草にどんな意味が込められているのかを考えていた、その時。夏帆の手に、温もりが伝わってきた。

淳太の大きな手のひらが、夏帆の手を包んでいたのだ。

初めて感じる淳太の体温に、指の先から全身に熱が回っていき、夏帆の心臓が高鳴る。

夏帆の思考は停止して、無意識にただ、彼の手を強く握り返した…。

▶前回:「こんなところ、恥ずかしい…」アプリで出会った男に、2回目に連れて行かれた意外な場所

▶Next:9月23日 水曜更新予定
最終回:ずっと片思いをしていた相手から、不意に向けられた好意。そのとき、夏帆は…?



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