識者「申請期限の延長など特例措置を」

 新型コロナウイルスの経済対策として、1人当たり一律10万円を配る「特別定額給付金」を、受給できない人が出ている。給付は市区町村に住民登録していることが条件で、住居のない路上生活者(ホームレス)は受け取れない例が目立つ。自治体への申請締め切りは8〜9月中が大半。最も助けが必要な人に届いておらず、支援者は批判の声を上げている。

 4日夜、九州最大の繁華街、福岡市・天神。NPO法人「福岡おにぎりの会」のスタッフが、ホームレスにちらしずしやゆで卵を手渡して回った。受け取った男性(69)に10万円のことを聞くと、「まあ予想通り、もらえんかった」。

 男性は30年以上、路上で暮らす。支援者の助けで、出身地の自治体に住民登録があるか調べてもらった。しかし、長く住んでいないため、削除に当たる「消除」の手続きが取られており、申請できなかった。

 年金も生活保護もなく、食事は炊き出しのみ。夜はビルの谷間で過ごす。台風10号が近づき、「さあ、どうしようかねえ」。

 10万円があれば弁当を買えると期待したが、「身分証明書もない。だめやろな、とは思っとった」。路上の仲間も受け取った人はいないという。

     ∞∞

 給付金は基準日の4月27日時点で住民登録のある人が対象。総務省によると、9月4日時点で予算額の99・1%が支給された。

 ホームレスも、どこかに住民登録があれば申請書を取り寄せて手続きできる。ただ居住実態がないと消除されていることがあり、受給できない人が出ている。

 基準日以降でも、現在暮らしている市区町村で住居を構え、期限内に申請すれば給付対象になるが、公園や路上は住所にできない。総務省は対策として、住居として見なす例に、行政の自立支援センターやネットカフェ、社会福祉法に基づく無料・定額宿泊所などを挙げている。

 それでも壁は高い。福岡おにぎりの会の巡回にやってきた男性(67)は路上生活が5年になる。住民登録は消除されていた。公的な自立支援施設に入り、施設を住所として給付申請するよう勧められたが、「施設に入る気はないので、しょうがない。これも自業自得。(国は)冷たいな、と思うけど」。別の男性(70)も「いまさら新しい家を決めるのもね」と首を振った。

 会の相談員、木戸勝也さん(36)は「『借金の取り立てが来る』など、みんな事情があって住所を決められない。住居の設定を給付条件にするのは酷です」。

 この間、東京や大阪など全国の支援団体は、ホームレスが今の生活のままで受給できるよう求めてきた。現在の居住地で受け取る一方、戸籍の付票などで本人と確認し、二重給付を防ぐ方法も提言。だが総務省は「二重給付や、なりすましの恐れは残る」と応じていない。申請期限の延長も、7月の豪雨で被災した地域以外は認めていない。

     ∞∞

 厚生労働省によると、全国のホームレス数は3992人(今年1月現在)。九州では福岡県が最多で260人。福岡市は184人、北九州市は58人に上る。

 8月31日が申請期限だった福岡市は、ホームレスの相談が12人にとどまった。受給や申請ができたのは11人で、残る1人は住民登録が消除されており、給付対象外となった。相談せず、受け取れなかった人は多いとみられる。

 支援に携わる高千穂大の木村正人教授(社会学)は国の対応を「ホームレスの状態にある人は困窮して住所を失ったのに、住民登録がないという理由で給付しないのはおかしい。法の下の平等を定めた憲法に反する」と批判する。

 国が対策として挙げた各種施設の活用も疑問視する。例えば、ネットカフェや漫画喫茶約千店が入る一般社団法人「日本複合カフェ協会」は「加盟店の中に、住所にすることを受け入れている例はない」と取材に答えた。

 木村教授は、無料・低額宿泊所も同じように拒む施設があるとし、「国が例に挙げた施設があっても、住所を設定できない人がいることを重視する必要がある。申請期限の延長など、今からでもいいので特例措置を打ち出すべきだ」と訴えている。 (編集委員・河野賢治)

【ワードBOX】住民登録

 本人の氏名や住所、生年月日、性別、家族構成などを記録しており、国民健康保険や国民年金といった行政サービスの基礎となる。本人が住所地に住んでいるか分からないという情報があると、自治体は現地調査し、居住実態がないと判断すれば住民登録を消除する。住民票は住民登録の内容を書面にして発行する。