国境も、時間も、次元も自由に飛び越えるような旅に出た。そう決心させたのは、さまざまなモノとの出合いだった。「これさえあれば」「これと一緒に」──そんな思いを繰り返すうち、呪縛されていた内なるWanderlustが、宙へと放たれた。旅することへの欲望をかき立てる衣服やグッズの数々を紹介する。

イノヴェイティヴなモノたちに誘われて

ある日、愛用の眼鏡ブランドでクリップオンのサングラスを見つけた。必要なときだけ、いつもの眼鏡に装着すればいいのだから、旅行中のさまざまなシーンに対応してくれるはずだと考えたが、これが大正解。寒冷地でも使えるし、思いの外エクスペディション向けダウンウェアとの相性もいい。

「トラヴェルノートにつづる “世界”を旅するモノローグ:METHOD #12」の写真・リンク付きの記事はこちら

雪山にはクラシックな顔の“オリジナル”をベースにした、最新のダウンウェアでチャレンジした。極寒地において、コレを超えるアウターは存在しない(はず)。最高のパフォーマンスと環境性能の両立は、これからの時代におけるものづくりのニューノーマルになるべき指標だ。

今回の旅のコンセプトに、繊細な機械式腕時計なんて似合わない。毎日のライフログは継続したいし、ソーラー充電機能やアクティヴィティトラッカーとしての機能だって欲しいから。雪山登山でもマリンスポーツでも、耐衝撃性能で世界的に知られる“権威”の安心感は絶大だった。

1/3AHLEM
リゾート地に限らず、サングラスは必要だ。でも視力に問題を抱える人にとって、眼鏡とサングラスとコンタクトをすべて持ち歩くのは煩わしい。そんなとき重宝するのが、クリップオンのサングラス。オプティカルのアイウェアに、強い日差し避けやメイク前の目元隠しをしたいとき、ワンタッチで着脱できるシェイドをつければいいだけ。旅こそクリップオン。使ってみて初めてわかる便利さだ。眼鏡 \52,000、サングラス \23,000〈ともにアーレム〉、グラスチェーン \32,000〈ラ・ループ〉2/3THE NORTH FACE
見た目がカッコいいモノは、案外“デザイン”されていないことが多い。装飾に見えても、実はすべて機能的必然性から発現した意匠というわけだ。1994年の登場以来、命の危険と隣合わせのプロフェッショナルたちに選ばれてきたザ・ノース・フェイスのヒマラヤンパーカは、その最たるもの。オリジナルをベースにしたクラシカルな見た目だけれど、防風性や撥水性といった機能は最先端。クリーンなリサイクルダウンを採用するなど、環境への配慮も十二分。機能性の頂点とサステイナブルなアウトドア・アクティヴィティを同時に目指す、TNFの旅に終わりはないのだ。\62,000〈ザ・ノース・フェイス〉3/3CASIO G-SHOCK
光学式心拍計、3軸加速度センサー、温度センサー、GPSなど日々のワークアウトや特別なエクスペディションに役立つ機能が、「G-SHOCK」クオリティの堅牢性と両立。これならどんな過酷なフィールドにも飛び込んでいけそう。スマートウォッチと呼ばれる製品はごまんとある。だがどこにいようとも毎日のライフログを途切れることなく記録でき、どんなに過酷な環境でも安心して使用できる。そして傷や破損の心配もない。最強の旅のお供として認定したい名機である。「GBD-H1000-1JR」 \50,000〈カシオ〉

道中、よく着ていたのはタウンでもアウトドアでも着られるフィールドジャケット。なんて上品な“白”なんだろうと思うし、聞けば白漆という無着色の漆にインスパイアされた生地なのだという。どこに行っても「どこの服?」と尋ねられる。漆器は英語でJapanだけど、このジャケットもどこか日本人の精神性を象徴しているようで、ちょっと自慢気にブランド名を告げた。

スカーフや腰巻き、さらにはクロスボディのミニバッグとしても活躍したのが「スカーフバッグ」。もし忍者が現代に存在したら、こんな装備を身に着けているかもしれない(レタリングはないだろうけど)。かさばらないから、次の旅も必ず持って出ることにしよう。

旅の思い出が、目に見えて増えていくのは楽しい。だからヴィンテージのワッペンが目を引くこのベレーには、ピンズやバッジを付けることに決めた。極上のアルパカセーターと合わせて着ても、絶妙な感じでほっこり感が出る。南米の生産者たちの就労環境、生活水準改善の賜物でもあるこのセーターは、買う人も、売る人も、つくる人も幸せにする。これぞラグジュアリー。

1/3ATON
日本古来の伝統的な素材として知られる漆は、その防水・防湿・防虫性の高さから主に食器や装飾品に用いられてきた。でもCOVID-19が蔓延る現代においては、むしろ衣服にこそ採用するべきなのかもしれない。樹液である漆本来のナチュラルな色みを生かすため、色粉や顔料は使用せずコーティング剤に練り込み生地に塗布。そんなオリジナルファブリックを使用したフィールドジャケットだから、撥水性に加えて抗菌・防臭性を発揮してくれる。だから汚れに強く着ているだけで安心感を得られ、都市部でもアウトドアでも、スマートかつ快適に過ごすことができたというわけ。\160,000〈エイトン〉2/3YOSHIOKUBO
海岸で拾った流木にくくりつけてフラッグのように飾ってみたのは、スカーフバッグという名のアイテム。日本人としてのルーツと誇りを重んじるデザイナーが目指したのは、日本の「結ぶ」文化と現代的な機能性、そしてファッション性の融合だ。その名の通り、メッシュのスカーフでありながらジップポケットを備えているから、腰に巻いたり肩に掛けたり、場面に応じてバッグとしても使える。旅の移動やアウトドアのアクティヴィティで、ちょっとした手荷物を収める場所があるのはとても便利。“THINK BEFORE WEAR”なんて書かれていると、いろいろ“挑戦”してみたくなる。2021年1月発売予定。\6,000〈ヨシオクボ〉3/3上/LAULHÈRE
ヨーロッパの人は歴史や家系を重んじるから、家紋やタータンを身につけるようになった。このベレーはフランスに唯一現存するフレンチベレー専業ブランドによるもので、古いものだと1920年代のヴィンテージワッペンが貼られている。昔、自分のベレーがどれかわかるようにと家紋や村の紋章のワッペンを縫い付けていたという逸話から着想したデザインだけれど、旅の記念品をどんどん付け足していくのにピッタリだと思う。バッジを付け、ワッペンを貼り、トラヴェルノートを記すようにカスタマイズしていきたい。ピンズはすべて私物。\18,000〈ロレール〉
下/THE INOUE BROTHERS...
ソーシャルグッドを謳うブランドは多いけれど、製品としての高いクオリティが伴っているところは数少ない。何よりこのセーターが素晴らしいのは、抜群の肌触りや温度調整機能を誇る、世界最高のロイヤルアルパカという素材を駆使して編み上げていること。しかしこれは、彼らが心血を注いで取り組んできた、南米・アンデス地方で暮らす生産者たちの就労環境・生活水準改善の賜物でもある。買って着る人はもちろん、売る人も、作る人も幸せになれる。これこそ、真のラグジュアリーといえるのではないだろうか。\50,000〈ザ・イノウエ・ブラザーズ〉

実はこの旅に出る前に、真っさらな新品のヌメ革ブーツをおろした。途中で替えひもにチェンジして、砂利道でついた傷も味わいと思いながら履き込んでいるうちに、いつの間にか美しい飴色に成長していた。自分だけの旅の記憶が刻まれた唯一無二のブーツ……なんてカッコいいんだろう。

パリ・オートクチュールでコレクションを発表している日本人デザイナーが、オンラインで“オンリーワン”のシャツをオーダーできるサーヴィスを始めたと聞いたので、旅の途中で早速トライ。「今度世界遺産の植物園に行くんです」。そんな思いを語りデザインのベースとして送ったフローラルプリントシャツは、白のフリル使いが印象的なワンピースとして生まれ変わって帰ってきた。世界のどこからでもオーダーできて、どこでも受け取れる体験もまた、新しいラグジュアリーだ。

現地での移動時に重宝したのが、アップサイクルな素材使いが面白いバックパックだ。さりげない高級感が所有欲をくすぐる。 寝るときはいつものオーガニックコットンパジャマが欠かせないし、やはり下着はシルクがいい。歯ブラシや歯磨き粉がないホテルも少なくないから、普段使いのセットを入れて、念のため香りのよい紙石鹸も持参。

1/5HENDER SCHEME
どこかで見たことがあるような、ラギッドなデザインの編み上げブーツ。でもボディはとても繊細で上品なヌメ革でできている。大量生産の工業製品のようにも見えるけど、実は一足一足、熟練の革靴職人の手によって丁寧に手づくりされている製品だ。ヌメ革は日光を浴びるだけでも日焼けするし、熱や摩擦、手指の脂などによっても色の深みが増していく。時の流れや経験など、自分だけの旅の記憶を刻み込む。そんなエイジングという時間の旅を楽しみながら、自分自身で完成させる。これはそんなブーツなのだ。\64,000〈エンダースキーマ〉2/5YUIMA NAKAZATO
顧客一人ひとりと真摯に向き合うオートクチュール(オーダーメイド)にこだわるパリコレ・デザイナーが開始した新サーヴィスなら、世界中どこからでも”オンリーワン”のシャツをオーダー可能だ。フィジカルな移動を必要としないシステムだが、オンラインによりデザイナー本人との対話が実現。この体験そのものが特別であり、同時にオーダーの精度を飛躍的に高めている。インタヴュー後に、ベースとなる私物のシャツを送付。約1カ月後に届いたのは、お気に入りの涼やかなフローラルプリントがさらに活かされた、白いフリル使いが印象的なワンピースだった。「Face to Face」 \300,000(送料・税込みオーダー価格)〈ユイマ ナカザト〉3/54/5上/ÉCHAPPER
このパジャマに使われている素材は、しっとりとした肌触りと上品な光沢が際立つオーガニックのインド産スヴィンコットン。深いグリーンは、長野県の標高1,000m以上の高地で採れた熊笹で染め出したものだという。ほかにも榊や黒松など神社の境内にある植物を原料とする天然染料を使用しているものもあるそうで、着心地がよいのはもちろん、日本人としてどこか誇らしい気持ちになれる。熊笹由来の殺菌作用も期待できそうだ。ディレクター自身が納得のいく製品をつくりあげ、立ち上げまでに約4年を要したというブランドが放つ、渾身のパジャマ。慣れない旅先でこそ普段通りに、リラックスして過ごすために欠かせない1着となりそうだ。\42,000〈エシャペ〉
下/BASARA
下着やランジェリーに、肌触りのよいシルクを使用するというのは旅に役立つティップスのひとつ。着心地がよいのはもちろん、吸湿性や休菌性(菌の活動や増殖を抑える)、体温調節機能に優れるからだ。シルクの名産地として知られるリヨンにおいても最高峰と讃えられるペラン社製シルク生地を使用し、ランジェリーの本場ヨーロッパで認められたニューヨーク在住の日本人デザイナーがデザイン、国内屈指の実力派工場で生産されるランジェリーは、ワイヤーなどによる締め付けつけを完全否定。ファッション同樣のコーディネイトも楽しめる。ブラ \18,800、ショーツ \11,000〈ともにバサラ〉5/5上/EYE/LOEWE/NATURE
プロダクトがその役目を終えたとき、廃棄されるのか、新たな「旅」のサイクルを開始するのかは大きな問題だ。カモフラージュ柄ファブリックと上品なレザーディテールが融合したバックパックの素材となっているのは、ドイツ軍とフランス軍のヴィンテージジャケット。もともとジャケットに付属していたポケットやボタン、ジップなどのディテールをそのまま生かして、表情の異なるカモフラージュ柄を巧みに組み合わせているのが◎。スペイン王室も愛用するラグジュアリーブランドが、初めて取り組んだアップサイクル製品という点も評価したい。\180,000〈アイ/ロエベ/ネイチャー〉
下/OFFICINE UNIVERSELLE BULY
19世紀初頭に創業したパリの総合美容薬局をルーツとするビュリーのブティックや取り組みは、極めてモダン。しかしその製品は、クラシカルで美しく、リッチな使用感。水さえあれば手指の洗浄ができ、その芳香によって優雅な気分も味わえる紙石鹸は、8人の著名調香師が手がけるルーヴル美術館とのコラボレーションによるもの。細菌対策だけでなく、ホテルのハンドソープ代わりとしても大活躍。爽やかな青りんごフレーヴァーの歯磨き粉、歯や歯茎に優しいイタリア産シルクを使用した歯ブラシは、携帯用ではないけど旅行に必ず持って行くほどのお気に入り。紙石鹸 各\1,500、歯磨き粉 \2,900、歯ブラシ \5,700〈すべてオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉

機内では、ニットのセットアップを重宝した。超希少なカシミアなのに、ペインターみたいな染み付きなのがチャーミング。眠れないときはおこもり中のストレス発散にも貢献してくれたヴァーチャル空間にトリップ。自分が着る服と同じ服をアヴァターにもデザインするブランドなんて、ワクワクしかない。

高まり続ける移動への欲望にとどめを刺したのは、未来的かつ職人的なレザーバッグだ。このバッグがあれば、すっかりラグジュアリーなものとなってしまった「移動」という行為そのものを楽しめる。

1/3AURALEE
機動性や収納力を意識した機能的な旅スタイルもいいけれど、ルームウエアのようにリラックスした装いで移動することほどの贅沢はないのではないか。うっとりするような肌触りのセーターとパンツのセットアップは、その希少性の高さから、限られたメーカーしか使用することが許されない外モンゴル産ホワイトベビーカシミアのみを使用。スウェットの上下などとは異なり、コートをさらっと羽織るだけで抜群にエレガントに見える。そんな贅沢な素材に、あえてアーティスティックなドリッピング加工。ルックスもスペシャルで、家でも旅先でも、コレ以外を着たくなくなってしまうのが悩みの種かも。セーター \68,000、パンツ \74,000〈ともにオーラリー〉2/3上/THE FABRICANT
ザ・ファブリカントの存在を知ったのは2019年5月、ニューヨークで行なわれたブロックチェーン技術のカンファレンス「Ethereal Summit」において、彼らのデジタルドレス「iridescence」が史上初めて落札されたニュースが流れたときだ。しかも9500ドルという高額で。落札者は自身の2D写真を提供し、やがてこの「iridescence」をまとった姿でお披露目された。この「iridescence」に代表されるデジタルドレスは、仮想通貨としての価値も備えている。今後はフィジカルな移動を伴わない、デジタル世界を回遊するヴァーチャルなコミュニケーションにおいて、欠かすことのできない“衣服”となっていくだろう。衣服という存在が、必ずしもフィジカルである必要がないことを世に知らしめるという彼らの使命は、早くも果たされた!? しばらくは彼らのウェブサイトで配布されている、フリーのデジタルドレスで遊んでみよう。参考商品〈ザ・ファブリカント〉
下/CHLOMA
クロマはテクノロジー、キャラクター、インターネットとヒトとの関係を追求し、ヴァーチャルとリアルをシームレスに行き来する現代人のための環境と衣服を提案するファッションレーベル。「2000年から見た未来/宇宙観」をテーマにデザインされたこのアノラックは、3Dキャラクター制作アプリケーション「VRoid Studio」のキャラクター用の衣装としても提供され、自分とまったく同じ衣装をきたキャラクターをソーシャルVRの世界で旅させることができる。さまざまな環境に存在する自分自身の“分人”たちが、共通のファッションを身にまとう。そんな時代の到来を実感させるプロダクトだ。¥59,000〈クロマ〉3/3HERMÈS
まず驚かされたのは、そのしなやかさ。非常に薄く自然に身体のカーヴに沿うように湾曲するつくりだから、まるでコートの内側に“着る”ようにたすき掛けすることもできるし、クラッチのように畳んで抱えることもできる。ナイロンなどのファブリックに比べて軽くはないが、絶妙なフィット感のおかげで圧倒的に“軽やか”なのだ。ことさらに斬新を主張しない意匠が、洗練された佇まいの秘訣だろうか。道具に進化よりも高級感を求める向きもあるけれど、スマートに進化することこそラグジュアリーなのだと気づかせてくれる。\557,000〈エルメス〉

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