ビールに枝豆」は定番だと思っていませんか?(写真:shige hattori)

「丸かじり」シリーズなど、笑いと共感の食のエッセイの第一人者で、大のビール党である東海林さだお氏が、「ひとりで酒を飲むこと」についてひたすら考えた。今回は、東海林氏がどうしても枝豆をめぐる国民的合意について言いたいことを、『ひとり酒の時間 イイネ!』から抜粋して転載する。

「ビールには枝豆は合わない」

「ビールには枝豆」
これは国民的合意であり、日本人であるかぎりナンピトもこの組み合わせに異をとなえることはできない。

ビールと枝豆は、ほとんどセットとして考えられている。サンマに大根おろし、とろろ芋に麦めし、納豆に辛子、さつま芋におならなどと同様の、不動の組み合わせとして全国民的に受け入れられている。

サラリーマンが4、5人で居酒屋に入れば、

「とりあえずビール」
 であり、
「とりあえず枝豆」
 で宴はスタートする。
 
だがわたくしは今回、勇猛をふるってこの全国民的合意に異をとなえたい。「ビールに枝豆は合わない」

ああ、わたくしには全国民の非難の声が聞こえてくる。
「非国民!」
「国賊!」
「不逞(ふてい)の輩(やから)!」
「それを言っちゃあおしまいよ」

この発言によってわたくしは職を失い、地位を奪われ、妻子を捨て、石もて故郷を追われて貧窮にあえぐことになるのだ。

せっかくいままで「ビールには枝豆」ということでうまくやってきたではないか。いまさら何を言うのか。週刊誌はわたくしを糾弾し、テレビ局は走って逃げるわたくしを「一言おねがいします」と叫びつつ走って追いかけてくる。

それでもわたくしは言う。
「ビールに枝豆は合わない」と。

濃厚、こってり、油っ気がつまみの基本

走って逃げつつ、わたくしは追いかけてくるテレビ局員のマイクに向かって叫ぶ。

「あのですね、ハアハア、ビールの本場ドイツではソーセージですよね、ハアハア、ギネスのイギリスはフィッシュ&チップス、バドワイザーのアメリカはピザ、もしくはフライドチキン、共通するものは何だと思います? そうです。濃厚、こってり、油っ気。これがビールのつまみの基本です」

そりゃあなんたって油にまみれた唐揚げを食べたあとを、冷めたーいビールが通過していく喜びは、淡泊な枝豆の比ではない。なぜこのように基本からはずれているものが日本ではビールの無二のつまみとして定着してしまったのか。

ワイドショーでも「ビールに枝豆ははたして真実か」というテーマで取り上げられ、
「そのあたりのこと、ピーコさんどう思いますか」
と司会の草野仁さんにふられたピーコさんあたりが、
「やはり風物詩としての意味もあるんじゃないですか。ビールの季節と枝豆の季節がちょうど重なって」
と発言したところに假屋崎省吾さんが割って入って、
「枝豆を食べるときのあの所作、1粒ずつサヤからひしぎ出して食べるという……あれも1つの夏の風物詩ですよね。もし枝豆が全部剝いてあって大皿に盛ってあったら誰も食べる気しませんもの」

はたしてそうだろうか。剝いてあったら誰も食べる気にならないのだろうか。

みんないつのまにかそう思いこまされているだけではないのか。剝いてあるのを大皿に盛って、それをみんなで手摑みで食べる。いっぺんに3粒も4粒も口の中に放りこむ、これはこれで案外いいんじゃないの。

それより何より、サヤから手と歯でひしぎ出すあの所作、わたくしにはあれがどうにもいじましく思えてならない。せこくて貧乏くさくてみじめったらしい行為に思えてならない。みんな何とも思わずに、何の考えもなくあれをやっているが、あれは紳士のやるべき行為ではないのだ。

ヘギヘギと小刻みな動きで食べるなんて

ああ、今回はどうもいかんなあ、過激でいかんなあ、やっぱり石もて故郷を追われるなあ。

いいですか、あなたがいつも何気なくやっているあの行為をここで再現してみますよ。

あなたは大皿に盛られた枝豆のサヤを1個取り上げる。取り上げたサヤを口のところへ持っていく。2個入りのサヤを親指と人差し指でタテにはさみ、上のほうの豆の下部の位置を確認しつつそこのところへ上の歯と下の歯をあてがう。


(イラスト:東海林さだお)

ここまでは特にどうということはないのだが、ここから先がいじましくなる。せこくなる。みじめったらしくなる。指で豆の尻を押し出しつつ、同時に歯もヘギヘギと小刻みな動きをして豆のずり出しをはかる。

このヘギヘギのとき、どうしても下あごは突き出し気味になり、受け口っぽくならざるをえない。ヘギヘギというかアグアグというか、この小刻みな動きのときは当然歯は少し前に出ており、中にはこの動きの速い人がいて、こういう人を見ているとなんだかリスが両手でドングリを持って歯を剥き出して齧っているように見えてくることがある。


紳士としては厳に謹まなければならない行為と言わざるをえない。

さっき居酒屋に入って行った「とりあえずビールと枝豆」のサラリーマンの一団は、枝豆が到着すると、5人なら5人全員がリス化してヘギヘギ、アグアグをやっているわけで、よく見ると居酒屋の中はリスだらけ。

あ、またしてもまずいな。
みんなに枝豆ぶつけられるな。