いまBluetoothイヤホンといえば、左右をつなぐケーブルすらない「完全ワイヤレス」が人気。少しでも安く手に入れようと通販サイトで検索すると、お手ごろ価格の製品がたくさんヒットしますが、お店では見かけないし、初めて聞く名前のメーカーということも……正直ちょっと不安ですよね。今回は5,000円以下で買える、ネット専売の完全ワイヤレスイヤホン新製品を3機種選んでじっくり試してみました。

5,000円以下で買える、ネット専売の完全ワイヤレス3機種を聴く


ラインナップ

SOUNDPEATS「TrueShift2」:4,980円

AUGLAMOUR「AT200」:3,278円

TaoTronics「SoundLiberty 53」:4,999円※いずれもAmazon.co.jp価格(9月9日時点、税込)

とにかくちゃんとしているSOUNDPEATS「TrueShift2」

最初に試したのは、Amazonでよく見かけるSOUNDPEATS(サウンドピーツ)の「TrueShift2」。この会社の製品は、一部の店舗でも取り扱いがありますが、TrueShift2など多くはネット専売モデル。購入者レビューなどを頼りに検討するしかありません。

SOUNDPEATS「TrueShift2」。充電ケースはモバイルバッテリーとしても使える


このTrueShift2の目玉は、左右同時伝送機能「MCSync」をサポートしていること。一般的に完全ワイヤレスといえば、左右のイヤホンどちらかにLR両チャンネルの信号をまとめて送信し、そこから片チャンネル分をもう一方へ伝送するリレー方式でステレオ再生を実現していますが、MCSync対応イヤホンはLR両チャンネルの信号を左右のイヤホンで同時に受信できます。

MCSyncではLからR、またはRからLのリレー送信を行わないため、音途切れの原因を減らせます。左右で同時に受信するため遅延が少ない、片方のイヤホンに電力消費が偏らないといったメリットもあります。

「MCSync」のイメージ。一般的なリレー方式(左)と異なり、MCSyncでは左右のイヤホンで同時に信号を受信する(右)


同様の技術は、クアルコムが「TrueWireless Stereo Plus(TWS+)」でいち早く実用化していましたが、MCSyncを実現するのはAirohaの最新チップ「AB1536U」。クアルコムの技術は、音声送信側(スマートフォンやPC)と完全ワイヤレスイヤホンの両方にクアルコム製チップを搭載していなければ利用できませんが、AB1536Uチップにはそのような“縛り”がありません。iPhoneでもAndroidでもPCでも、左右同時伝送で完全ワイヤレス体験できるのです。

だからTrueShift2の音途切れの少なさはかなりのレベル。コーデックはSBCとAACに対応しているので、iPhoneではベストな条件でBluetoothオーディオを楽しめます。ダイヤモンドコーティングを施した6mmのダイナミック型ドライバーはレスポンスよく、快活な低域を感じさせながら繊細な中高域を併せ持つチューニングの妙があります。いわゆるドンシャリ傾向のサウンドキャラクターではあるものの、さじ加減が適度です。

TrueShift2を耳に装着したところ。女性の小さな耳にも無理なく収まる


強いていえば、やや大きめなハウジングが気になりますが、3サイズのイヤーピースに加えてイヤーフックも同梱されており、実際には問題になりません。イヤホン単体での連続再生時間は6時間と標準的なものの、3,000mAhの大容量バッテリーを積む充電ケースを併用すれば100時間と、むしろ長持ちな部類です。イヤホン本体・充電ケースのつくりも丁寧で質感も上々、正直これで5,000円以下とは……想像をはるかに超える水準で“ちゃんとしている”ことに驚いてしまいました。

TrueShift2の同梱物。イヤーピースに加えてイヤーフックも3サイズ用意している


この値段で音がしっかり、AUGLAMOUR「AT200」

中国のポータブルオーディオ熱は日本を上回る部分があり、この5年ほどでさまざまなブランドが設立されました。カスタムイヤホンもあればワイヤレス特化のブランドもある中で、AUGLAMOUR(オーグラマー)は有線/無線どちらも手がけ、音質重視で低価格という“コスパ系”のブランドとして知られています。

そのAUGLAMOURが手がけた完全ワイヤレスイヤホンが「AT200」。ブランド初の完全ワイヤレスモデルではないものの、日本向けにはAT200が最初となります。

AUGLAMOUR「AT200」。充電ケースは30gと超軽量


よく誤解されるのですが、日本に代理店があるからといって、海外で販売されたモデルのすべてが日本でも発売されるわけではありません。厳しい日本の消費者のおメガネにかなう製品と判断されないことには、導入は見送られるのです。

AUGLAMOURの代理店・伊藤屋国際は基準が厳しく、新製品は機能や品質はもちろん入念な音質チェックのすえ日本導入の是非が判断されます。見送られる製品もある中で、AT200はイケると判断されたわけですから、一定の水準に到達していると考えられます。

いざ試聴、その前にペアリング……充電ケースから取り出すだけでペアリング待機状態になるので(オートペアリング機能)、スマートフォン側では表示された「AT200」をタップするだけ。一度ペアリングが完了すれば、以降は充電ケースから取り出せば自動的に接続状態になるので、かんたんに使えます。

AT200を装着したところ。「星空をイメージした」というキラキラは、実際に装着してみると意外に自己主張しない


それにしても、充電ケースの軽さときたら。中に何も入っていないのかと思うほど軽く、重さを測ってみると30gでした。サイズも小ぶりな饅頭といったレベルで、ポケットに入れても気になりません。さすがにケースのバッテリー容量は300mAhと少ないものの、ケースと組み合わせての連続再生時間は15時間とまずまずの水準、実用性はしっかり確保されています。

試聴を開始してみると、ハリがありスピード感ある低音に軽い衝撃が。エレキベースの音もタイトで快活、疾走するベースラインに心地よさを感じます。ドラムブラシはざらつかず、シンバルクラッシュも自然に収束するので、聴き疲れがありません。装着感よく遮音性に優れたポリウレタン素材の低反発イヤーピース2サイズに加えて、シリコンイヤーピース3サイズが付属するという配慮も、音にこだわる向きにはうれしいところです。

さらなる衝撃は、その価格。この充実度で3,278円(税込)とは驚きです。星空をイメージしたというルックスには賛否両論ありそうですが、IPX4の防水性でスポーツ用途もカバーすることから、トータルでは満足度の高い1台といえそうです。

AT200の同梱物。シリコンと低反発素材の2種類のイヤーピースが付属する


ソツのない作りの「TaoTronics SoundLiberty 53」

イヤホンやサウンドバーなどのオーディオ製品からデスクライト、加湿器まで家電製品を幅広く手がけるTaoTronics(タオトロニクス)。完全ワイヤレスイヤホンにも早い段階で参入し、いまや店頭でも見かけるようになりましたが、この「SoundLiberty 53」はネット専売モデル。しかも2019年4月発売と、移り変わりの激しいこのジャンルにおいて、異例のロングセラーモデルとなっています。

現在販売されているSoundLiberty 53は実質2代目。2020年3月以降、接続安定性や音質面で改良を施した新版に入れ替えられており、今回試聴したのは「SoundLiberty 53(改善版モデル)」です。

TaoTronics「SoundLiberty 53(改善版モデル)」。アンテナが下に突き出るタイプ


最大の変更点はBluetoothチップ。新版ではAiroha AB1532を採用し、左右同時伝送技術「MCSync」をサポートしています。これにより音途切れを大幅に改善、しかも消費電力低減(≒バッテリーのもち向上)を実現しました。

さらに、IPX7の防水性能(旧版はIPX5)、リダイヤル機能の追加(旧版は非対応)、イヤーピースはXSサイズが増えて4種類になり(旧版は3種類)。完全ワイヤレスイヤホンの根幹部分であるBluetoothチップが変更されたことを合わせれば、もはや別モノといえるでしょう。

SoundLiberty 53を装着したところ。シンプルなデザインが好印象


そのサウンドは、基本的には“シンプル系”。低域が持ち上がり気味にチューニングされてはいるものの、中高域にかけては余分な装飾を感じさせません。そのぶんクセが少なく、J-POPからジャズ・クラシックまで幅広いジャンルで楽しめます。

全体の印象としては“ソツがない”のひと言。Airoha製チップは最新版ではないものの、MCSyncのサポートは音途切れ防止に効果があります。アンテナ部が突き出るタイプのデザインは好みが分かれるところですが、それが通話品質に一役買っていることは確かです。

SoundLiberty 53の同梱物。4サイズ(XS/S/M/L)のイヤーピースが付属する


○改めて実感した驚異のコスパ

今回取り上げた3製品は、5,000円以下のネット専売モデルというだけでなく、左右同時伝送機能や小型軽量の充電ケース、音質重視設計など、“他ではあまり見かけないフィーチャー”があることを基準にピックアップしました。これらをこの価格帯のモデルに投入するのか、と驚くとともに、完全ワイヤレスイヤホンの人気の高さを改めて実感しました。

全体の感想としていうと、コストパフォーマンスの高さ、それに尽きます。アクティブノイズキャンセルや外音取り込み機能とはいかないまでも、左右同時伝送は中・高級機でカバーされてきた機能ですから、それが5,000円以下で手に入るというだけでもお買い得感が出てきます。しかも納得できる水準の音。つい1年ほど前は、1万円以下の完全ワイヤレスイヤホンなどありえない(あったとしてもその音は……以下略)という状況でしたが、あまりの移り変わりの早さに驚くばかりです。

購入前に実物を確認できない、サポートを受けられるのか不安だ、というネガティブな要素がネット専売モデルにあることは確かですが、少なくともこの3モデルに関しては心配無用です。なにより、不安を補って余りあるほどの驚異のコスパ。買いやすい価格が迷う消費者の背中を押す材料になることは確かでしょう。

3製品の主要スペック