出勤日数が少なければ、定期券より回数券のほうがお得な場合も多い(写真:EKAKI/PIXTA)

最近、コロナショックに伴う通勤客減少を理由に、JR東日本をはじめとする鉄道各社で時間帯別運賃の導入が検討されている。テレワークが浸透する中、企業によっては通勤定期代の支給を廃止する動きも出てきた。出社回数が減る中、はたして通勤定期を買うのが本当にお得なのかと考える人も多いだろう。

そこで注目したいのが回数券だ。普通の回数券だけでなく、鉄道会社によってはピーク時以外の時間帯に使える、割安な「時差回数券」も発売しており、すでに時間帯別運賃が存在しているともいえる。何日出勤なら回数券のほうがお得なのかを試算してみた。

どっちがお得?簡単に計算

回数券は一般的に乗車券10枚分の値段で11枚セットとなっており、乗車券1枚分がお得になる計算だ。このほか、さらに割引率の高いオフピーク時・土休日限定の時差回数券、土曜・休日のみ使える土休日回数券を発売している鉄道会社が多い。

首都圏の大手私鉄は、東京メトロを含む各社が時差回数券や土休日回数券を発売している。各社とも、時差回数券は乗車券10枚分の値段で12枚、土休日回数券は14枚のセットだ(小田急電鉄は発売形式が異なる。詳しくは後述)。

仮に普通乗車券が200円の区間の場合、これらの回数券1枚当たりの金額を算出すると以下のようになる。

普通回数券:182円
時差回数券:167円
土休日回数券:143円

定期券の1カ月当たりの値段を回数券1枚の値段で割り、さらに半分に割ると何日が分かれ目かわかりやすい。例えば京王電鉄の場合、200円区間(13〜15km)の1カ月定期券は7430円だ。

(1カ月定期7430円÷普通回数券1枚182円)÷2=20.4往復

月20日以下(20往復以下)の利用なら1カ月定期券よりも回数券のほうが安いという計算になる。

では、代表例として都心部の足である東京メトロの例を見てみよう。ここでは営業キロが10km弱の、千代田線北千住―大手町間(200円区間)について検討してみた。一般的な平日勤務、平均月21日出勤の場合、片道1回あたりの運賃を算出してみると……。

【平日21日出勤・1日当たりの片道運賃】北千住―大手町間(普通運賃200円)
1カ月定期:7800円 片道186円
3カ月定期:2万2230円(1カ月当たり7410円)片道176円
6カ月定期:4万2120円(1カ月当たり7020円)片道167円
(端数は四捨五入)

期間が長くなるにつれて割引率が高くなっていることがよくわかる。一方、回数券の運賃はどうだろうか。

【回数券1回当たりの運賃】普通運賃200円
普通回数券:182円
時差回数券:167円
土休日回数券:143円

これでわかる通り、月21日以下の出勤(21往復以下)なら1カ月定期よりも回数券のほうが安い。平日に自宅と会社を行き来する以外に使わないのであれば、1カ月定期券を買うメリットは「切符購入の手間が省ける」くらいということだ。3カ月定期だと月20往復以下、6カ月定期だと月19往復以下なら回数券のほうが安くなる。

時差回数券は平日10時〜16時と土休日の限定だが、10時以降に時差通勤できるなら利用価値が大きい。行きは時差回数券、帰りは普通回数券という組み合わせだと、上記の区間であれば1回当たり平均175円(端数四捨五入)。出勤が10時以降で月の出勤日数が21日以下なら、1カ月・3カ月定期を買うよりも時差回数券と普通回数券の組み合わせがお得だ。

ただし、メトロの定期運賃は1km刻みで変わるため、普通運賃が200円の区間(7〜11km)でも定期運賃は距離によって異なる(1カ月定期の場合、7kmは7290円、11kmは7960円)。200円区間でも、距離が異なれば必ずしも上記の通りにはならないので、その点は要注意だ。

JRは週3出勤でも定期がいい?

では、首都圏のJR線はどうだろうか。わかりやすい400円区間(21〜25km)で見てみよう。JR東日本は時差回数券は発売していない。

【平日21日出勤・1日当たりの片道運賃】21〜25km区間(普通運賃400円)
1カ月定期:1万1850円 片道282円
3カ月定期:3万3790円(1カ月1万1263円)片道268円
6カ月定期:5万6910円(1カ月9485円)片道226円

【回数券1回当たりの運賃】
普通回数券:364円

見てわかる通り、JRの定期券は割引率が高い。先述の式で計算してみると、(1万1850円÷364円)÷2=16.3往復。つまり、もっとも割引率の低い1カ月定期でも、月に17日以上利用するなら回数券より定期券のほうが安上がりだ。

6カ月定期はさらにお得だ。5万6910円なので1カ月当たりは9485円。9485円÷364円÷2=13往復となり、6カ月定期なら週3勤務のアルバイトでも元が取れてしまう! これではよほど出勤日数が少ない企業でない限り、定期券を買ったほうがお得だ。JRの定期がいかに安いかを物語る結果である。

普段は交通費をケチる記事ばかり書いている筆者が言うのもなんだが、こんなに安い定期券で通勤対策をしてきたのだから、このままの運賃で通勤客減少ではやってられない、というJR東日本の言い分もごもっともである。

これまでに紹介した回数券とちょっと違うシステムなのが小田急電鉄だ。

小田急は今年の4月から、10枚分の値段で枚数が多い従来の回数券に代わり、販売枚数を10枚に固定して時間帯条件に応じて発売額が変わる方式の回数券「小田急チケット10」を発売している。

例えば220円区間なら普通回数券に相当するレギュラーは2000円、時差回数券に相当するオフピークは1830円、土休日回数券に相当するホリデーは1570円で、それぞれ9.1%、16.8%、28.6%オフだ。220円区間の場合は従来の回数券と同じ割引率だが、多くの区間ではレギュラーでも1割引より安い。

【小田急チケット10の1回当たりの運賃】普通運賃220円の区間
レギュラー:200円
オフピーク:183円
ホリデー:157円

筆者は昔からこのタイプの回数券が出ないものかと思っていた。これならどのくらいお得なのかがより明確で、往復で使う場合は中途半端に余りが出ることもないので使いやすい。

ただし、利用の際は表紙を持参する必要があるため、家族で買って全員バラバラに利用するといった使い方はできない。また、有効期限も他社の回数券が一般的に3カ月であるのに対し2カ月だ。理想をいえば、時間帯別で10枚ごとの値段がきっちり1割引、2割引、3割引となればよりわかりやすくなるだろう。

多彩なライフスタイルへの対応を

いかがだったであろうか。今後は今までのような平日週5日勤務、朝9時始業は多数派ではなくなり、多彩なワーク・ライフスタイルへの変化が進むことが予想されていく中、柔軟かつダイナミックな運賃メニューの検討は避けられないことであろう。

最近では通信、電力、ガスの自由化が実行され、多彩なライフスタイルに応じたさまざまな料金プランが選べるようになった。電力自由化では、1人暮らしの使用量でも最大1割安くなるプランが登場している。コロナを契機に「鉄道自由化」も検討すべきではないだろうか。

例えば携帯電話会社や旅行会社などが「小売り鉄道事業者」になり、電力で言うところの「託送料金」に相当するものを各鉄道運行事業者へ支払い、複数の鉄道にまたがったサブスクリプション型パスを多彩な運賃メニューや条件で出せれば、利用者の選択肢は格段に広がることであろう。鉄道事業者は時間帯や時間ごとの運行本数によって変動する託送料金で安定的に収益を得て、利用者ニーズに応じた販売は小売り事業者に任せる形だ。

都市鉄道の多くは平均客単価が初乗り運賃前後で200円にも満たない。条件を設定すれば都市鉄道会社1社全線乗り放題を月々1万円前後で出すのも不可能ではないだろう。こうした未来はそう遠くない将来、やってくるのではないだろうか。