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【注目の人 直撃インタビュー】

和歌山県 仁坂吉伸知事に聞く「和歌山モデル」の全貌

 片山善博氏(早大教授・前鳥取県知事)

 新型コロナウイルスの第1波、第2波を通じて、首長の資質、国と地方の上下関係、政治と科学の兼ね合いをめぐり、さまざまな問題が浮き彫りになった。秋、冬の第3波が予想される中、地方自治のスペシャリストが警鐘を鳴らす。

  ◇  ◇  ◇

■マスコミによく出る首長がちゃんと仕事をしているわけではない

 ――コロナの対応をめぐっては自治体の首長の力量で差が出ました。首長選挙は無風も多いですが、「誰をリーダーに選ぶのかで全然違う」との声も聞かれます。

 首長の資質や個性の違いが出ました。コロナ対策のオペレーションで何が重要なのかということを理解していないトップが多かった気がします。また、どうやってこれをチャンスにして、露出を高めて、支持率を上げるのかに重きを置く人も少なくなかった。世間はよく頑張っていると誤解したりするけれど、マスコミによく出るのが、必ずしもちゃんと仕事をしているわけではありません。

 ――地方には地道に成果を出している知事もいます。和歌山県の仁坂知事は保健所に業務が集中しないように自ら采配を振りました。

 仁坂知事は一番評価しています。他の首長は保健所のような地味なところにあまり関心を持たないんですよ。現場で非常に重要な保健所に注目をして、支援し充実させたのはとても立派だと思います。しかし、マスコミはほとんど注目しません。

 ――和歌山県は国の方針に従わず、PCR検査を実施して、国内初の院内クラスターを封じ込めました。

 地域の感染を広げず、住民の生命や安全を守るには何が必要かをわきまえればおのずとやることは見えてくる。国の基準では感染は抑えられないので、仁坂知事は自分の判断で検査対象を広げた。他の都道府県はみんな国に従いました。東京都などはそれで手遅れになってしまった。しかし、自治体は法的には従わなくてもよかったのです。

■国の“助言”に議論せず従う地方

 ――と言いますと。

 法的に分類すると、国の基準とは、保健所がどういう人を検査対象にするかという目安です。地方自治法で言う助言。アドバイスですね。助言だから強制力はない。地方分権改革の時に国が自治体に対して指示、命令、指図する時は、法律上、具体的な根拠がなければならないことになったんです。

 ――国と地方の関係では、安倍首相が3月から全国一斉休校を要請しました。

 国と地方の両方に問題があります。まず、法的根拠がない。首相に休校を要請する権限はないのです。また、科学的根拠を欠いている。専門家会議に相談もしなかった。「鶏を割くに牛刀をもってする」ではありませんが、あまりにも大げさで、それに伴って得られる効果は少なく、逆に犠牲が多い。子どもの教育権を奪うし、社会を大混乱に陥れる。トップリーダーとしては資質を欠いていると思いました。ただ、首相の要請は何の法的根拠もないわけだから、受け止める方にも問題がある。緊急事態宣言が出ていない段階ですから、休校にするかどうかを決めるのは、法的には学校の管理者。市町村立の小中学校なら、市町村の教育委員会、都道府県立高校なら、都道府県の教育委員会です。総理が意味不明の要請をした時に受け止める側の見識が問われたのです。

 ――これも国の助言ですね。

 そうです。法的根拠はないが、せっかくの総理の助言なので真剣に検討すればいい。教育委員会がこの地域での休校の必要がありやなしやと議論する。専門家や保護者、学校の当事者へのヒアリングも必要でしょう。その結果、休校の必要がなければ、助言を無視すればいいのです。

 ――実際は何が起こりましたか。

 ほとんどの教育委員会はまともな議論をした形跡がありませんでした。ひどかったのは、総理の鶴の一声を教育長がニュースで聞いて、慌てて早く決めなきゃいけないと「独断で決めました」と堂々と語っていた。そんな教育長は失格ですよ。そのような愚かな思考停止のところばかりでした。この総理にして、この自治体あり。どっちもどっちだと思います。

 ――国と地方の関係では、緊急事態宣言はどうでしたか。

 感染者が少なく関係のないところまで、全国津々浦々、一律でやってしまった。最初にボタンの掛け違いがありました。法律をちゃんと読めば区域を限って緊急事態宣言を出すのを想定している。市町村単位、あるいはもっと狭い区域だけでも出せる。業種も絞ってピンポイントで自粛の要請をする。結果として、歌舞伎町のナイトクラブなどを対象に自粛要請をするというようなこともあり得るのです。それならばスズメの涙ではなく、そこそこの協力金を払えて、自治体の財政も痛まなかったでしょう。一律の自粛は国に悪気はなかったが、慌てふためいて、狼狽してやった。粗っぽすぎる対応です。

――その経験が第2波にどう影響していますか。

「羹に懲りて膾を吹く」ではないが、第1波で懲りて、第2波では何にもしませんね。「もう緊急事態宣言はやりたくないですよ」と西村大臣が言っていましたが、まさに象徴的です。

政治と科学の対話が必要

 ――コロナは政治と科学の関係が問われています。大阪府の吉村知事は「ウソのようなホントの話」としてイソジンのPR会見をしました。

 吉村知事は善意でやったと思う。安価に入手できるイソジンで重症化を防いだり、症状改善できたりすればそれに越したことはないですからね。しかし、専門家に言わせれば、あの段階でやるべきではない。サンプル数も少なく、論文も出ていない。そもそも知事や市長が、がん首揃えて出るのはよくない。政治家というのはうさんくさい存在。研究成果は科学的に評価すべきですが、そこに政治家が携わると、政治的な思惑があると勘繰られる。府と市が協力してやった成果を前面に出して「都構想」のPRではないかと思ってしまう。色眼鏡で見られたら、せっかくの研究も台無しになってしまいます。

 ――政府が設置する審議会は、政府がやりたいことにお墨付きを与えることが多い。コロナの専門家の会議はどうでしたか。

 感染症対策に従来型の審議会方式を持ち込むというのは愚の骨頂です。政策でウイルスを抑え込むのは科学的根拠がなければできない。最初に科学的知見があって、それを政治がどう受け止めるのか。例えば、ウイルスは人が運ぶわけだから、ロックダウンして家から出させないという専門家の知見があってもおかしくない。しかし、それでは世の中が回らない。そこで、政治的にはそれでは困るので5割や7割などほどほどにしておこうと。こういう政治家と専門家の対話が必要なのです。

 ――この間、対話はできていましたか。

 最初の専門家会議では、専門家はのびのび意見を言っていました。ただ、政治の側の力量がなくて、対話がうまくできなかった。専門家が「人の動きを8割止めろ」と言うと、安倍首相はほぼおうむ返しで「8割自粛」を国民に要請しました。「8割はダメ」と押し返せなかったのでしょう。また会見で、政府が答えるべきことまで副座長だった尾身茂氏が答えることがあった。専門家の言うことがそのまま政府の見解になるということですから、これまた対話ができていないことの象徴だったと思います。

 ――西村大臣は専門家会議を廃止し、感染症対策分科会を発足させました。

 実は分科会になって、ガラッと性格が変わりました。従来のお墨付き付与型の審議会ですね。科学者たちを根回しで抑え込んで、政府の言うことを聞かせて、お墨付きを与えさせるようにしたのです。全員総替えはミエミエだから、とくにうるさい人たちを排して、政府の意をくむメンバーを残し、あとは経済の面から感染症の専門家を抑える人らを加えたのだと思います。実際、「Go To トラベル」も官邸の少人数で決めたことを分科会は異論なしで通しました。コロナの感染拡大期に「Go To」をやるなんてことは、専門家からしたらとんでもないことですよ。

 ――第2波の真っただ中に、そのような体制では厳しいですね。

 専門家への信頼が失われてしまったのは大きな問題だと思います。

(聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)

▽かたやま・よしひろ 1951年、岡山県生まれ。74年、東大法学部卒業後、自治省(現・総務省)に入省。99年、鳥取県知事に初当選、2期務める。2010年、菅直人内閣で総務相。現在、早大大学院政治学研究科教授(地方自治論)。