基本的な衝突安全性能などは普通車と変わりないモデルも増えた

 日本独自の規格で販売される軽自動車。今やクルマは一家に1台からひとり1台の時代へと移行する、その象徴のように売れまくっている。自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が統計を発している車種別販売数で、両方を合わせてもつねに上位を占めているのは軽自動車だ。平成10年に現在の規格になってからは室内も広く、動力性能も向上して普通車から乗り換えても不満を感じない人が増えた。

しかし、軽自動車を検討していると必ず「小さくて危険だ」という意見を唱える人がいる。はたして小さな軽自動車は本当に危険なのだろうか。

 軽自動車といえども、公道を走る自動車である以上、さまざまな安全基準が取り決められている。一番わかりやすいのは衝突安全性に関する取り決めだろう。国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構は「自動車の安全性能に関する規定」に基づき、さまざまな衝突安全性能試験(フルラップ前面衝突試験、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験など)や歩行者頭部保護性能試験、ブレーキ性能試験による評価を行い、その結果を「自動車アセスメント(JNCAP)」として公表している。

 これらは車種、車格、車体サイズなどによって条件を変えていない。つまり軽自動車も普通車も同条件で衝突試験を行っているのである。これで最高評価の五つ星を獲得したモデルであれば、普通車の五つ星車と同じ衝突安全性を備えているということになる。

 一番心配なのは後ろからの衝突ダメージだろう。これに関しても後面衝突時突頚部保護性能試験も加わり、年々基準が引き上げられ厳しくなっているが、停止中に後方から同一質量の車両が速度36.4km/hで衝突した場合のダメージと規定している。つまり大型車両や高速度で突っ込まれてしまったらひとたまりもない。だがこれは普通車クラスにおいても同じことだ。大型高級セダンでも後方から荷物満載のダンプカーに突っ込まれたら悲惨な結果を引き起こす。とくに後席に乗車する機会が多いユーザーは、後方の交通状況を、より注意する必要があるだろう。

 だが運転アシストの発展やカーtoカーの相互通信が普及し、自動ブレーキが標準装着されるようになれば心配の種は大幅に軽減されるだろう。

 じつは僕は軽自動車好きである。とくにホンダのN-BOXが登場してからは、本気で購入する機会を伺っているほどだ。

基本となる走りを熟成させたモデルが増えることを願う

 さまざまな軽自動車を試乗テストして気になるのは、後方からの衝突安全性よりむしろ操安性(操縦安定性)のほうだ。軽自動車は小さくコンパクトなことと、安価なことが魅力となっている。とはいえ装備や質感を高めるなど車格を追求していくと、普通車と同じくらい開発コストがかかってくる。ホンダN-BOXはホンダが起死回生の策として、シビックやフィットのユーザーすら取り込もうという気概で開発されている。従来の軽自動車とは一線を画す質感と走り、装備を備えていることが試乗してすぐにわかった。軽自動車も選択肢に入るなら、検討すべきモデルは溢れている。

 しかし、N-BOXの操安レベルで比較できる車種はほかに存在しないことがわかった。やはりコスト削減のなかで、最初に削られるのが操安性に関する部分というのが大方のメーカーの方策だったのだ。サスペンションを構成するショックアブソーバーやブッシュはコストダウンされ、スタビライザーはそのものを省いてしまっているモデルも多く存在する。

 加えてもっとも安価な仕様のタイヤを装着させ、走行試験にも重きを置かない。その結果、動力性能は自主規制の64馬力に仕上がっても、高速で走るとフラフラして危ない、横風に弱い、路面の轍やアンジュレーション(うねり)でハンドルを取られるなど操縦性に難のあるモデルがじつに多い。ホンダN-BOXですら、二代目へと進化した現行モデルは、操縦性に難を感じるようになってしまった。軽自動車として価格を低く抑えなければ売れない。その為に目立たないようにコストダウンされた一面が、走りに悪影響を与えてしまうこともあるのだ。

 軽自動車は「小さくて危険」なのではなく、じつは「操縦性を重要視していなさすぎて危険」なモデルの多いことが課題になっていると考えるべきなのだ。軽自動車メーカー各社はそのことを認識し、操縦安定性が高く、走りにも満足できる軽カーとして魅力を高めていってもらいたい。