厚生労働省のITシステムは、なぜこうも不具合が多いのか?

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日本政府のオンラインシステムには問題が多いが、厚生労働省の現状は眼を覆わんばかりだ。

雇用調整助成金のオンライン申請は2カ月半もストップしていた。

感染者情報収集システムHER-SYSは、自治体からそっぽを向かれている。

接触確認アプリCOCOAで通知を受けても、保健所の体制が追いつかない。

病院に物資を配分するシステムが機能しない。

こうなるのは、システムの発注者たる厚労省が評価能力を持たず、丸投げしているからだ。

2ヵ月半ストップ、雇用調整助成金のオンライン申請

「厚生労働省が運営する雇用調整助成金のオンライン申請が8月25日から再開された」とのニュースを見て、びっくりした。

厚生労働省HPより

5月20日の開始初日に個人情報が流出するトラブルが生じて運用停止になったこと、そして6月5日に個人情報流出トラブルが再発したため運用停止になったこと、は知っていた。しかし、まさかそれから2カ月半もストップしたままだったとは知らなかった。

雇用調整助成金の申請窓口は、大変混雑していると言われる。厚生労働省が自ら三密空間を作り出しているわけで、オンライン申請は、申請者をコロナ感染から守るために大変重要なことだった。

それがこんなに長く運用停止とは。まさに、一番必要な時に機能しなかったわけだ。

混乱を極める感染者情報収集システムHER-SYS

厚生労働省のオンラインシステムで不都合が生じているのは、雇用調整助成金のオンライン申請だけではない。新型コロナウィルスの感染者情報を収集するためのHER-SYSも混乱している。

7月26日公開の「エッ! 東京も大阪も感染情報収集にまだファクスを使っているの?」で書いたように、5月までは、情報収集のためにNESIDというシステムが使われていた。これは、紙に記入した情報を保健所が医療機関からファクスで受け取り、都道府県にファクスで報告するものだ。

しかし、感染拡大によって情報が増えると、ファクスでは追いつかなくなり、保健所に過大な負担がかかることになった。

そこで厚生労働省は、HER-SYSというオンラインシステムを導入して、5月末から運用を始めた。これによって、感染情報の迅速な把握と関係機関での情報共有が可能になると期待された。

しかし、実際には、HER-SYSの利用は順調に進まなかった。

8月30日の日本経済新聞によると、東京都では、1200の医療機関のうち、HER-SYSに入力できる利用登録を済ませたのは、都立病院など7カ所しかない。

なぜこうした状況になってしまうのかといえば、都が登録を制限しているからだ。

東京都の見解では、個々の医療機関が入力すると集計に手間がかかる。このため、保健所単位で集約してもらった方が効率的なのだという。

その結果、いまだにファクスによる情報伝達が残っており、保健所に負担がかかる状態は改善されていない。
 
問題は以上のことだけではない。

個々の感染者について、体調などの情報を管理する必要があるが、このために、HER-SYSではなく、LINEなどの民間システムを導入している自治体がある。そのほうが本人が反応しやすく、使い勝手が良いからだ。

例えば、神奈川県はLINEを使って療養者に健康状態を尋ねている。東京都もLINEを活用すると発表した。

さらに、サイボウズやセールスフォース・ドットコムなどのクラウドシステムを利用する自治体もある。

こうしたデータとHER-SYSが連携できればいいのだが、難しい。そのため、患者情報をHER-SYSとの2系統のシステムに入力しなければならないことになってしまう。

「HER-SYSの利用が遅れている」というニュースを聞いた時、責任はHER-SYSに対応できない自治体側にあると思っていた。

しかし、以上の点についてもし自治体が言っているとおりなのであれば、責任はHER-SYSの側にある。使い勝手の悪い欠陥システムだから、自治体にそっぽを向かれているのだ。 

COCOAで通知を受けても検査を受けられない

接触確認アプリCOCOAが6月19日から利用可能になっている。

このアプリも、運用開始の初日に不具合が生じて、運用停止になった。この不具合は修復されたが、基本的なところで問題を抱えている。

第1に、HER-SYSとの関係がある。COCOAの処理番号はHER-SYSが発行する。それが以上のような状況では、陽性者と接触していても、COCOAで迅速にその事実を知ることはできない。

第2は、保健所の検査態勢との関係だ。COCOAから接触通知を受けた場合には、「専門外来で受診するよう案内される」とされていたので、多くの人は、「検査が受けられる」と考えた。

ところが、8月23日の日本経済新聞によると、CPCOAで通知を受けた人の8割は、検査を受けられなかったというのだ。

こうした状況を踏まえ、厚生労働省は8月21日、「感染者と濃厚接触した可能性があるとCOCOAから通知を受けた場合、希望者全員が無料でPCR検査を受けられるようにする」と発表した。

しかし、上記の日経記事によると、「保健所の業務は再び逼迫しており、迅速に検査が受けられるかどうかは不透明」、「問い合わせが今後殺到するようなら、人手が足りるか不安は拭えない」 というのだ。

接触確認アプリは、検査体制と連動しなければ、意味がない。

第3の問題は、自治体が導入するQRコードを使った感染情報通知システムが乱立していることだ。乱立状態ではどれも広く利用されず、機能しないことが懸念される。

この話を聞いていると、電子マネーで「**ペイ」が乱立しているのを思い出してしまう。こうしたものは、乱立していては意味がないのだ。

病院に物資を配分するシステムが機能しない

コロナウィルスの感染拡大にともない「マスクや防護服が足りない」という病院からの要請が自治体に殺到した。

こうした事態に対応するために政府と自治体が準備していたシステムが、「EMIS」だ。必要な物資を入力すれば、備蓄分を配分する。

ところが、分類項目が「医薬品・衛生資器材」と大ざっぱなので、感染症対策に使う物資ごとに必要数を入力できない。 その半面で、「電気」「食料」など、いまの局面では足りている項目も多い。

このシステムは、阪神大震災後の1996年に開発したものであって、災害時を想定したものなので、今回のような事態には、対応できないものだったのだ。

そこで厚生労働省は項目を追加することを検討したが、「大改修となり、月単位の時間がかかる」ことが判明した(「つぎはぎIT、厚労省迷走」日本経済新聞、6月25日)。

結局、同省は病院に物資や人材を融通する支援システムを別途立ち上げた。このために、初年度に7億円を要する。

既存のシステムと2重投資となったため、運用コストは2重に発生する。

丸投げで、受注者まかせ

以上で見たように、厚生労働省のオンラインシステムは、つぎはぎの集積としかいいようがない。全体の体制との役割分担を考えずに、個別のシステムを作っている。

なぜこんなことになるのだろうか?

その原因として、上記「つぎはぎIT、厚労省迷走」は、つぎのことを指摘している。

1. 古い技術に機能が次々と加わり、肥大化した。厚労省は技術に疎いので、これを放置。システムの運営は、NTTデータに任せきりだった。
2. NTTデータは維持管理で稼ぐことに執着する。このため、ネット上で設計を柔軟に変えられるクラウド技術を敬遠してきた。

この説明は、納得的だと思う。

本当にクラウド化できるのか?

2010年代から、クラウドを活用したシステムが広がってっている。アメリカでは国防総省や中央情報局(CIA)でも、クラウドを積極的に取り入れている。

これに対して、これまでの日本では、上に述べたように、クラウドを敬遠する傾向があった。

ところが、日本政府もやっと重い腰を上げて、2020年内に各省庁のシステムを集約する基盤にクラウドを採用することを決めた。

そして、2020年秋に運用開始予定の「政府共通プラットフォーム」において、アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を採用することを正式に決めた。各省庁は今後システムを開発し、4〜8年かけてクラウドに移行する。

AWSプロジェクトの規模は、約7000億円の日本政府の総IT予算のごく一部にすぎないが、外国製のシステムが、国内大手企業を差し置いて採用されたことに注目したい。

これまでの経緯を考えると、日本政府の大英断と評価できる。しかし、果たして円滑に導入が進むだろうか?