新型コロナで利用者が機内食を楽しむ機会が減るなか、ANAが機内食レシピをウェブ上で公開。異例となるこの取り組み、発案のきっかけやメニュー選定の理由などそのウラ側を、企画者、そしてANA機内食「生みの親」に聞きました。

異例の「レシピ公開」なぜ起きた?

 新型コロナウイルスの影響で、利用者が国際線に乗る機会は大きく減少。このことから、機内で「機内食」を味わう機会も減っています。そのようななか、ANA(全日空)は2020年7月から、同社の機内で提供している機内食レシピをウェブサイトで公開しました。この取り組みは異例のものです。


ANAのボーイング777-300ER型機。撮影は国際線が多く就航する成田空港(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。

 企画を発案したのは、ANAマイレージクラブやデジタルオウンドメディアの企画・運営、及び顧客マーケティングを行うANA Xのスタッフです。「これまで、ANA便を利用いただくお客様のニーズに応じて企画を展開し、デジタル面でのコミュニケーションを図っていました。しかし新型コロナの影響で、このコミュニケーションをとる方法が少なくなってしまっていました。そこで、何かできることはないかとこの企画を考えました」とANAXの小室雅世さんは話します。

 このほかにも「家で楽しむことができる、子どもとも一緒にできる」を主眼に、検討段階の時点では、機内食を冷凍食品として通販する、家から楽しめるリモートトリップを提供するなど、約50案があったといいます。それらのアイデアから社員投票を実施した結果、機内食レシピ公開が実施されることになったそうです。

 今回レシピが公開されたのは、「メカジキの塩こうじ揚げ きのこたっぷりカレーソース」と「アボカド釜素味噌焼き」の2品。機内食のメニューは多岐にわたるなか、なぜこのようなメニューが選ばれたのでしょうか。背景には、同グループで機内食部門を手掛けるANAケータリングサービスのこだわりがありました。

2品が選ばれた理由 料理長に聞いてみた

 ANAケータリングサービスの清水 誠総料理長は、今回のレシピ公開に「メカジキの塩こうじ揚げ きのこたっぷりカレーソース」を選んだ理由を次のように話します。

「普段このメニューは、ビジネスクラスで提供されているものです。ビジネスクラスの機内食は手の込んだものが多いのですが、そのなかでも比較的再現しやすいものを考えました。実はこれらのメニューも作りやすいよう調理工程をアレンジしている部分があります。また、カレーソースにすることで、親しみやすいものであるのもポイントです」(ANAケータリングサービス 清水 誠総料理長)

 ANAは、航空会社を格付けするスカイトラックスで、ビジネスクラスの機内食部門が2019年度の最優秀賞を受賞。清水総料理長はレシピ公開についても「ただ、作っていただくときに『こんなものか』と思われてもいけません。『おっ』と思っていただけるようなものをご紹介しなければ……」と一流の機内食を手掛ける職人のプライドも覗かせます。


左がANAケータリングサービスの清水 誠料理長。右が森 誠剛和食料理長(画像:ANA)。

 一方、ANAケータリングサービスの森 誠剛和食料理長は「アボカド釜素味噌焼き」を選んだ理由を次のように話します。

「普段のこのメニューは、ファーストクラスの主菜メニューのひとつとして提供されているものです。アボカドはご家庭でも手に入りやすいものですが、こんな食べ方もありますよ、という紹介ができればと思いました。実はこのレシピ紹介を見たお客様が、具材をアレンジしていただくなど、自由に作っていただきたいという思いもこもっています」(ANAケータリングサービス 森 誠剛和食料理長)

 なお清水総料理長、森和食料理長によると、「メカジキの塩こうじ揚げ きのこたっぷりカレーソース」の場合、だし汁やソース部分、「アボカド釜素味噌焼き」は玉子の素、玉味噌の部分が一般向けにアレンジされているそうです。

異例の「レシピ公開」 今後はどうする?

 なお、ANAケータリングサービスの清水総料理長によると、機内食とレストランでの食事との違いは次のようなものがあると話します。

「お店によって異なるとは思うのですが、レストランの場合、いろいろな料理が少しずつ出てくることが多いのですが、機内食はコース料理でありながら、そのバリエーションは4品程度になります。が一般的だと思います。ですので、一品一品を『より完成されたものでなければならない』という感覚です。そういった意味で今回のレシピ公開されたものについても、『一品でも満足できる』ものになっていると思います」(ANAケータリングサービス 清水 誠総料理長)


左が「メカジキの塩こうじ揚げ きのこたっぷりカレーソース」、右が「アボカド釜素味噌焼き」(画像:ANA)。

 なお、ANA Xの永山 裕さんによると、今後も機内食レシピの公開について、「前向きに検討していきたい」としています。清水総料理長も「お客様からの声を反映していきたいと思っていますので、なにか『これが食べたい』というものがあれば教えて欲しいです」と話します。

 永山さんは「飛行機に乗るとき以外の日常でも、ANAらしさを感じていただけるよう、これからも取り組んでいければと考えております」、清水総料理長は「ANAは自信をもって料理を提供しています」とコメントしています。

【動画】ANAのこだわりレシピvs料理を全くしない人