陰謀論」とは特定の物事について広く認められた事実や情報に反する、「出来事の裏で陰謀を張り巡らせる、何か協力な存在が関与している」とする説明のこと。「月面着陸はうそ」「フリーメイソンが世界を牛耳っている」「アメリカ政府は9.11同時多発テロ事件を事前に知っていた」「新型コロナウイルスの流行は5Gが原因」など、一見すると荒唐無稽な陰謀論をなぜ信じてしまうのか、デューク大学の心理学者であるJade Wu氏が解説しています。

What's the Allure of Conspiracy Theories? | Savvy Psychologist

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Wu氏によると、心理学者らは人々が陰謀論を信じてしまう理由として、以下の「3つの必要性」が動機となっている可能性を挙げているそうです。

◆動機その1:不確実性を減らし、世界を理解する必要性

世界中ではさまざまな事件や出来事が発生しており、その複雑な因果関係やランダム性を理解することは困難です。そのため、人々にとって世界は恐ろしく不確実性に満ちており、理解が及ばない場所になり得ます。

そんな状況を打破するのが、「実はこの出来事の裏には大きな陰謀が渦巻いており、世界中のさまざまな事件が何者かの意思によって引き起こされている」と主張する陰謀論です。陰謀論は不確実性を解消して世界を理解する魅力的な説であり、たとえ証拠を持ち出して反論されたとしても、「その証拠は強力な存在によってねつ造されたものだ」と主張して、陰謀論に回帰することが可能です。

2012年の研究では「人々が強い不確実性を感じる時には、陰謀論を信じやすい」ことが示されています。また、答えが得られない時に強い不快感を覚える傾向がある人が、陰謀論を信じやすいとの研究結果もあります。



◆動機その2:自分は安全であると感じ、物事を制御している感覚を持つ必要性

世界を理解することに関連して、安全であると感じたり物事を制御していると感じたりすることも、人々にとって必要です。時には自分が無力であり、安全が得られず物事をコントロールすることもできないと感じてしまうケースもありますが、その際に陰謀論が具体的な道しるべとなるそうです。

たとえば、自分や別の家庭の子どもが原因不明の体調不良に苦しんでいる時、その原因がわからないことは非常に不安です。しかし、「製薬会社がワクチンを通じて病気を広めている」という陰謀論を信じることで、体調不良の原因を理解することができます。さらに、「ワクチン接種を拒否する」という行動で安全を手に入れ、物事を制御する感覚を取り戻すことも可能です。

不安定な雇用や経済状況、社会的偏見などに苦しみ、自分たちの生活がコントロールできていないと感じる人は、世界に安全な場所がないと思いがちです。そんな時、陰謀論を信じることで安全や制御の感覚を取り戻し、自分にとって都合の悪い公式の発表や事実を拒否することができるとのこと。

◆動機その3:よい自己イメージを維持する必要性

2017年の研究では、「自分が取り残されている」という感覚を持っている人が陰謀論を信じやすいと示されています。これは、陰謀論を信じることで肯定的な自己イメージを維持できるケースがあるからだそうです。

たとえば失業状態が続いている時、「謎の秘密結社が失業率を高く維持し、次の選挙を有利に進めようとしている」と考えることは、「自分のスキルがもはや雇用市場では役に立たないから就職できない」と考えるよりも飲み込みやすく、自己肯定感を高く維持することを助けてくれます。このように、陰謀論を信じることで政治や社会的プロセスで敗者の側にいる人々が自己肯定感を維持し、勝者の側にいる人々を非難できるとWu氏は述べています。



さらにWu氏は、陰謀論が人々の間に根付くことを助ける、心理学的な理由についても説明しています。

◆1:確証バイアス

確証バイアスとは、自分が信じている仮説や信念を検証する際に、それを補強する情報ばかりを集めてしまい、反証や都合の悪い情報を無視してしまう傾向のこと。陰謀論を信じる人が集まってお互いの信念が正しいと認め合ったり、SNSなどで同じ思想を持つグループで固まったり、Google検索の結果から都合のいいリンクだけを開いたりすることで、自身にとって都合のいい陰謀論をより強く信じるようになってしまいます。

また、確証バイアスを悪化させる原因の一つに、「自分が信じる陰謀論をどこで最初に聞いたのか覚えているケースが少ない」というものがあります。2008年の研究では、陰謀論に関する説得力のある説明を読んだ人は、「自分はずっと前からこの陰謀論を信じていた」と答える傾向が強くなることが判明しています。



◆2:陰謀論はコンテンツの内容が重要なのではない

ある人がどれほど強く陰謀論を信じるのかにおいて、陰謀論の内容自体はそれほど問題ではないそうで、「その人がどれほど強く陰謀論全体を強く支持するかどうか」が重要だとのこと。

2012年の研究によれば、「ダイアナ妃が自分の死を偽装した」という陰謀論を信じる傾向が強い人ほど、同時に「ダイアナ妃が殺された」と信じる傾向が強いことや、「オサマ・ビンラディンは発見時にすでに毒物で死んでいた」と信じる人ほど、「オサマ・ビンラディンは実は生きている」と信じる傾向が強いことがわかっています。陰謀論の内容が矛盾していようが、ある陰謀論を信じる人は別の陰謀論を信じる可能性も高くなるそうです。

◆3:睡眠障害などがもたらす幻覚

陰謀論の中にはエイリアンや超常現象の存在を肯定するものがありますが、陰謀論者が実際にそれらの事象を「睡眠障害などがもたらす幻覚」として体験している可能性があるとのこと。

実際に、心理学者や脳科学者らによって、就寝中に意識があるものの体が動かせなくなる金縛り(睡眠麻痺)や、寝入った直後に頭の中で爆発音が鳴る「頭内爆発音症候群」が、異常な体験や超常現象の正体ではないかと指摘されています。



Wu氏は、安全やコントロールを望む動機が人々に陰謀論を信じさせると認めつつも、実際に陰謀論が安全やコントロールの感覚を取り戻させるとは限らないと指摘。「巨大な組織が世界を支配する」と主張する陰謀論によって、逆に自分が物事をコントロールしているという感覚を失ってしまう可能性があるとのこと。

また、2014年の研究では陰謀論を信じる人が政府や公的機関への不信感を強めることが示されましたが、政府や公的機関の主張に耳を傾けないことは自らを危険にさらしかねません。実際にアメリカでは、医療従事者や公衆衛生当局を無視してワクチン接種を拒否する動きが強まったことで、はしかが流行して大きな問題となっています。

Wu氏は「多くの点で、陰謀論はストレスの多い不確実な時代において、私たちの脳にアピールするように設計されています」と述べ、陰謀論が魅力的になり得ると認めています。陰謀論に対処するために、人々は不安を認めると同時に事実を比較検討して、不確実性に対して有用な知識を活用しながら対処していく必要があると主張しました。