「GLA」と「GLC」の間に位置するまったく新しいモデルとして登場した「GLB」(写真:ダイムラー)

2020年6月25日、メルセデス・ベンツより、まったくの新型モデルとなる「GLB」が登場した。

GLBのポジショニングは、メルセデス・ベンツのSUVラインナップであるGLシリーズの「Bクラス」相当のモデルというもの。ちょうど同日に1クラス下の「GLA」の第2世代モデルの発売も発表されている。


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GLBの追加により、日本市場におけるメルセデス・ベンツのSUVラインナップは、「GLA」「GLB」「GLC」「GLCクーペ」「GLE」「GLEクーペ」「GLS」「Gクラス」「EQC」の9車種を数えることになった。

欧州ブランドでのSUVのラインナップは、メルセデス・ベンツが最多だ。BMWやアウディも、ここまでのバリエーションは持っていない。ではこのGLB、どんなニーズに答えるクルマなのだろうか。

ミニバン的な使い方ができるコンパクトSUV

GLBは、メルセデス・ベンツのBクラスと同様のFFプラットフォームから生まれたSUVだ。ホイールベースは2829mmと、BクラスやGLAよりも長く、その長いホイールベースを活かして、3列シートの7人乗りSUVに仕立てられている。

「GLAよりも若干大きなSUV」ではなく、「3列シートを持ったミニバン的な使い方のできるコンパクトSUV」というのが、GLBに与えられたキャラクターだ。

3列シートを備えると言いつつも、GLBの寸法は全長4640×全幅1835×全高1700mmと、それほど大きくない。日本のSUVでいえばトヨタ「RAV4」や「ハリアー」、マツダ「CX-5」と同程度だ。


見た目に空間効率がよさそうなスクエアなスタイリング(写真:ダイムラー)

ホイールベースは、日本のSUVよりも長いものの、このサイズのボディに3列シートを押し込むのには、相当な工夫が必要だったと言えるだろう。

ボディ後端のハッチバック部は垂直に近く、横から見たシルエットはスクエアなものとなっている。クーペ風なルーフラインを持つGLAと比べると、GLBは実用性を重視していることが、その姿からもよくわかる。

パワートレインはトルクフルなディーゼルと、4WDシステムと組み合わされたガソリンの2種類。ディーゼルエンジンは、2.0リッターで最高出力150馬力/最大トルク320Nm。ガソリンエンジンも排気量は同じ2.0リッターだが、こちらは最高出力224馬力/最大トルク350Nmを発揮する。

グレード編成は2つで、ディーゼルエンジン+FFの「GLB200d」と、ガソリンエンジン+4WDの「GLB250 4MATICスポーツ」となる。4WDが欲しければガソリン、街中中心ならばFFのディーゼルという選び方になるだろう。価格はGLB200dが512万円、GLB250 4MATICスポーツが696万円となる。

コンパクトSUVとしては、日本車と比較すると高額に見えるが、1クラス下の「GLA 200d 4MATIC」が502万円であることを考えると、メルセデス・ベンツとしては妥当というか、むしろ手ごろ感がある。

参考までにBMW「X1」は440万〜653万円、アウディ「Q3」は438万〜543万円、ボルボ「XC40」は396万2037円〜569万3519円だ。

3列シートSUVはニッチな商品だが…

GLBの最大の特徴は、繰り返しになるが、コンパクトSUVでありながらも3列シートを備えることだ。しかし、このクラスのSUVは2列シートが主流である。

3列シート車もあるが、日産「エクストレイル」と三菱「アウトランダー」の一部グレードに用意されるにとどまる少数派。一般的に3列シートのSUVは、トヨタ「ランドクルーザー」やマツダ「CX-8」など、もう少し上のクラスのものとなる。メルセデス・ベンツなら「GLE」が3列シートだ。


国内向け「GLB」は全グレード3列シートを採用(写真:ダイムラー)

つまり、GLBは、日本車的な目線で言うと結構ニッチなところを狙う製品となっている。そういう意味では、GLBの売れ行きはあまり期待できないだろう。

しかし、別の見方もある。それは多人数乗車のMPV(マルチパーパス・ビークル)としてのニーズだ。日本の場合、子供がいる家族の多くがミニバンを選ぶ。スライドドアであることに加え、子供とのドライブは荷物が多いことから、室内空間の大きなミニバンが便利なのだ。

そうした視点で輸入車を見てみると、日本車のような実用性重視のミニバンがあまりない。メルセデス・ベンツのミニバンは、700万円以上もするVクラスしか存在しない。そこで、3列シートのSUVをミニバン的なクルマとして見るのだ。

GLBをSUVではなく、コンパクトなミニバンとして捉えれば、新たなニーズが考えられる。ちなみに、3列シートのGLEは車格が2まわり上で、価格は950万円以上。諸費用などを入れた乗り出し価格は1000万円を超え、さすがに高い。一方、GLBならば500万円台とGLEの半額程度だ。

「子供がいてミニバン的な利用がしたいが、GLEはさすがに高い。Vクラスでも700万円以上もする。でも、GLBなら手が届く」というニーズは、少なくても確実に存在するだろう。

そうとなれば「ミニバンが欲しい」というユーザーを逃がさないためにも、数多く売れずとも、GLBの存在価値はあるのではないだろうか。また、BMWなどのライバルブランドにこのクラスの7人乗りSUVがないことは、大きなアドバンテージになるはずだ。

「ミニバンの代わりにSUV」という流れはできるか?

ワンボックスの商用車をルーツとするミニバンは、たしかに室内空間が広くて便利だ。しかし、クルマの基本性能である「走る・曲がる・止まる」を考えると、ボディは重く剛性も低いため、SUVに劣る。それでも日本はミニバンの人気が高い。

軽自動車でも、スライドドアを持つ非常に背の高いスーパーハイトワゴンと呼ばれるミニバンのようなスタイルのクルマが一番の人気を誇っている。ミニバンは走行性能的に不利なのに、日本で人気が高い。なぜだろうか。


メルセデス・ベンツで唯一のミニバンとなる「Vクラス」(写真:ダイムラー)

その理由は、日本の走行スピードが低いからだろう。速度無制限のアウトバーンのあるドイツでは、比較的走行性能の高いクルマが選ばれる。街を走るミニバンスタイルのクルマの多くは、商用車だ。

アメリカは速度制限こそあるものの、高速道路の料金が無料で、誰もが高速道路を走る。その結果、子供を持つファミリーはミニバンではなくSUVを選ぶことが多いという。走行性能が重要なマーケットでは、乗用車としてのミニバンはあまり人気がないように見える。

ちなみに、インドネシアも日本と同様にミニバンの人気の高い国だ。しかし、インドネシアは世界屈指の渋滞のひどい国。つまり、走行速度が遅い。しかも、裕福な人は自分では運転せずに、ドライバーを雇うことも多いため、走行性能はあまり重視されないのだ。だからこそ、ミニバンの人気が高いのだろう。

しかし、どんな環境であろうともミニバンとSUVでは、そもそも走行性能面でSUVが有利だ。安全面を重視したいのであれば当然、走行性能に優れるほうがよい。大切な家族を運ぶのであるから、利便性だけでなく、走行面での安全性を重視する人が増えてほしいもの。ミニバンではなく3列SUVという選択肢が、もっとポピュラーになってもいいのではないか。