コロナ禍でもお得に住宅ローンを組む方法とは?(写真:【IWJ】Image Works Japan / PIXTA)

コロナ禍のいま、住宅購入の相談が増えています。収入が減ったりリストラの影響で「住宅ローン破綻」の報道が増えているのも“どこ吹く風”で、安定した収入の人にとって、今は住宅購入の好機のようです。

「テレワークでのオンライン会議用の部屋が欲しい」「家族で住まいのことを話す時間が増えた」など理由は人それぞれですが、前向きに住宅購入を検討する人が増えている実感があります。


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さて、住宅ローンというと金利の高低に目が行きがちな中、FP相談に見えた方で驚くことが多いのが、返済期間によって生じるローン負担の差です。ちょっとの工夫で数十万〜数百万円もの差が付くので、提案されたプランでそのまま契約してしまうのは、本当にもったいない。というわけで、今回は、「返済期間」に焦点を当て、よりお得な住宅ローンとの付き合い方を模索してみましょう。

返済期間は1年刻みで決めていい

家を現金でポンっと買える人はほとんどいません。多くは住宅ローンを組んでの購入となります。そこで住宅ローンの見積もりを依頼すると、まず間違いなく最初に提案されるのは「35年返済」のプランです。

同じ金額を借りても分割回数が多いほど1回あたりの返済額は少なくできるので、最長の35年返済にすれば毎月返済額は最少になります。数千万円もの借り入れも“家賃並み”に見えるお手頃感のあるプランになるので、「35年返済」が多用されているわけですね。

けれども返済期間は、実際のところ、少しでも短く組むのがおすすめです。返済期間をたった1年縮めるだけで数十万円の利息負担を節約できるからです。同じ額を借りるにしても利息負担を節約できれば、それだけ暮らしにゆとりを増やし、将来に持ち越すお金を増やし、最終的に老後資金を蓄えられることになります。

同じ金額を同じ金利で借り入れていながらそれに伴う利息負担を節約するという工夫は、資産運用で老後資金を増やすことと同じ効果がありそうです。

具体的な例で見てみましょう。3500万円を金利1.3%で借りた場合の例は以下の通りです(1.3%は、2020年8月現在における全期間固定型住宅ローン[フラット35]のメガバンク主流の金利)。


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35年返済で借りると、元金3500万円に加えて858万円の利息を負担することになり、総返済額は4358万円です。これが、34年返済にすると、利息負担が約26万円減って832万円になり、4332万円の総返済額で済むのです。

毎月返済額は35年返済の10.4万円(≒4358万円÷35年÷12カ月)から34年返済の10.6万円(≒4332万円÷34年÷12カ月)と変わりますので、家計への負担感に影響がないかをまず確認し、大丈夫そうであれば1年短くしたほうが断然お得です。

同様に、35年返済を33年にするだけで約52万円もの利息支払いが浮きます。50万円を貯めるのはとても大変ですが、利息負担を減らして手元に残るお金をトータルで増やすことは、返済期間を2年短くするだけで簡単にできるのです。将来、旅行で使ったり老後資金にゆとりを持たせたりするのに使えると思うと、ワクワクしませんか。

実際の手続きは、とても簡単です。32歳の人が家を買う例で言えば、提案された35年返済のプランではなく、退職までの33年間や28年間で見積もりを依頼してみましょう。あとは、毎月返済額が家計負担的に大丈夫かどうかを確認し、家計や教育費などに大きな影響が出なさそうであればそのプランで申し込めばOKです。

繰り上げ返済も利息節約につながる

返済期間を短くする方法は、何も住宅ローンを組む際だけに限りません。住宅ローンを組んだ後であれば、「繰り上げ返済[期間短縮型]」で返済期間を縮めることで、同様に数十万〜数百万円単位の利息節約が可能です。

「繰り上げ返済」とは、毎月の返済額とは別に、まとまった額を返済する方法のことです。 元本部分のみに前倒しで充てられるため、その部分に対応した利息の支払いが無くなり、総支払額を効率的に減らすことができます。「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つがありますが、「期間短縮型」のほうが利息負担を減らす効果が高くおすすめです。

住宅ローンは、その時点の住宅ローン残高に対して利息負担がつく仕組みのため、返済が進めば住宅ローン残高が少なくなった分だけ利息負担も減ります。

つまり、同額の繰り上げ返済をしても、借り入れから早めに実行したほうが節約される利息は多くなります。「期間短縮型」であれば、さらに、より多くの返済期間を短縮できることになります。


よく、頭金に入れるかどうか迷って手元に多めの資金を残す人がいますので、そのお金を繰り上げ返済に充てるという例で言えば、1年経過後に300万円を「期間短縮型」で繰り上げ返済した場合には、約155万円の利息支払いを無くすことができます。合わせて、返済期間が3年7カ月分減ることになるため、当初35年返済で組んだ住宅ローンは、借り入れから31年5カ月で完済となる計算です。

これが、借り入れから20年経過後の実行となると、約58万円の利息負担が減り、2年10カ月の返済期間が短縮されますが、1年経過後に実行する際に比べると、効果が見劣りしてしまう点は否めません。このように、同じ額を繰り上げ返済しても実行時期によって効果に大きな差が生じるため、実行するなら“早め”がおすすめです。

さて、早めの繰り上げ返済をおすすめするとたいてい返ってくる返事に、「住宅ローン控除の期間10年(2019年10月1日〜2020年12月31日までの間に入居した場合には13年間)は繰り上げ返済しないほうがいいと業者にアドバイスされた」というものがあります。

確かに、「年末の住宅ローン残高の1%」が還付(納めるべき税金から控除)されるという建前から言えば、繰り上げ返済をして住宅ローン残高が減ると還付金が減って損してしまうと思うかもしれません。ただ、実際にはケースバイケースです。いくつか紹介します。

高額なローンでも還付金に影響しない

まず1つ目は、高額な住宅ローンを組むケースです。都心では6000万円や7000万円もの高額な住宅ローンを組む人が少なくありませんが、こういうケースでは少々繰り上げ返済したところで、住宅ローン控除からの還付金にはまず影響が出ません。

というのは、住宅ローン控除の対象額には上限があり、新築・未使用であれば4000万円(一般物件)または5000万円(長期優良住宅、低炭素住宅)と定められているからです。毎年100万円程度の繰り上げ返済をしても、この上限額を割り込むほどの繰り上げ返済でなければ、住宅ローン控除額に影響を及ぼしません。

そして2つ目は、中古住宅を個人の売り主から購入するケースです。以前は2000万円が上限だった住宅ローン控除が、今現在の4000万円や5000万円といった大型に拡充されたのは、消費税率がアップすることになった2014年4月以降の新築・未使用物件に対してです。逆に言えば、消費税が非課税とされている中古住宅の個人間売買などは2014年3月までの措置、つまり2000万円を上限額としています。

そのため、たとえ4000万円などの大型の住宅ローンを組んでも、新築のように「年末の住宅ローン残高の1%」をまるまる対象にはできないため、どんどん繰り上げ返済して利息負担を減らすほうが合理的と言えます。

また、3つ目のケースとして、納めている所得税や住民税が少なく、「年末の住宅ローン残高の1%」より少ない額しか還付されないこともよくあります。約2000万円の住宅ローンを組んだとしても、「年末の住宅ローン残高×1%」にあたる約20万円をすべての人が受け取れるわけではありません。というのは、納めた税金以上には還付されないからです。

年収500万円の人が仮に8万円の所得税を納めているというとき(個々の家庭で異なります)、住宅ローン控除による所得税からの還付金はその8万円が上限額になります。

所得税から引ききれない分は住民税からも上限付きで対象になるので、住民税からの8万円と合わせて、合計で約16万円の控除が受けられるイメージですが、それでも、当初に想定していた約20万円に比べて少ないと感じる人は多いです。

金利1%以上のローンも繰り上げがお得

所得税・住民税の納税額が「年末の住宅ローン残高の1%」より少ないご家庭の場合は特に、多く借りたままにしておく必要はないので、繰り上げ返済で利息の節約に踏み切ったほうがお得ですね。

住宅ローン控除のしくみの詳細については、国土交通省のホームページなどで確認しておくといいでしょう。

なお、4つ目のケースとして、金利1%以上の住宅ローンを借りている人も、迷わず繰り上げ返済したほうがいいと考えます。「年末の住宅ローン残高の1%」をもらえるとはいっても、それ以上の金利で借りているわけですから、差し引きしても“損”なのです。借金(住宅ローン)を減らすに越したことはありません。

なお、「このまま期間短縮型で繰り上げ返済すると返済期間が10年(または13年)を切ってしまう」という場合は、要注意です。10年(または13年)を切った時点で住宅ローン控除も打ち切りになってしまいます。繰り上げ返済の方法を、「期間短縮型」ではなく「返済額軽減型」に切り替えれば、返済期間は縮めずに利息の節約を図れます。

「ある程度まとまった金額でしたほうがいい」という繰り上げ返済への思い込みは、正直に言えば、もったいないです。少額でも良いので少しでも早い時期に繰り上げ返済するほうが断然お得だからです。
 


以前は繰り上げ返済手数料として数万円を求める金融機関も多かったので、その手数料を含めて考えるとまとまった額で繰り上げ返済したほうがいいという判断も確かにありました。しかし、最近は繰り上げ返済の手数料が無料のところが大半です。少額であっても少しでも早く繰り上げ返済したほうが明らかに効果は高い状況です。

長期間の高額な借り入れはリスク

 金融機関の中には、自動繰り上げ返済のしくみのある住宅ローンを扱っているところも。毎月の返済日当日に、返済用口座に指定残高以上の資金がある場合に自動的に一部繰上返済するというもので、手数料無料で毎月の繰り上げ返済も可能です。気になる方は調べてみてください。

以上、住宅ローンの“返済期間”に焦点を当てて、利息節約のポイントを見てきました。人によって考え方が異なるかもしれませんが、先行き不透明な今のような時代は、高額な借り入れを長期間続けることは、やはり大きなリスクと考えます。住宅ローンは期間限定で返すものなので、返済期間を短く借りる・返済期間を短くする努力はとても大切です。

先日みえた相談者は、一戸建てを購入して今月で完済とのことで、来月から住居費ゼロ生活に突入するのだと晴れやかな笑顔を見せてくれました。住居費の大半を前倒しで払っていける点が住宅を購入する醍醐味だとあらためて実感しました。