円滑なコンテンツ配信を目指し、クラウドサービスを採用

新型コロナウイルスの影響で、オンライン授業の提供を余儀なくされた教育機関が多いが、小樽商科大学もその1つだ。同大学は2022年4月に帯広畜産大学および北見工業大学と経営を統合することが決定しており、3大学が連携した形での遠隔授業の準備は進んでいた。

だが、新型コロナウイルスの拡大を受け、今年2月末、2290名の学生にオンライン授業を支えるオンデマンド教材コンテンツを配信するための基盤を構築するプロジェクトがスタートした。

理事(総務・財務担当副学長)を務める江頭進氏は、「当初、YouTubeにアップロードした動画を学修管理システムにタグ付けして公開する予定でした。しかし、他の大学でも同じことを行った場合、日本と米国を結ぶネットワークの遅延が円滑な授業提供のボトルネックになると判断し、方針を転換しました。学内にIT関連の施設はあるのですが、10年以上前に構築したものでした。そのため、3月半ばから、代替案の検討を始めました」と語る。

そこで、同大学が検討したのがクラウドサービスの利用だ。情報総合センターはあるものの、マンパワーが不足しているうえ、オンライン授業のコンテンツに関する専門知識も持ち合わせていなかったので、トラブルが発生した場合、迅速な対処は難しい状況だった。「オンプレミスでサーバを運用する場合、セキュリティの確保も課題となります。それなら、クラウドサービスを利用したほうが安全だと考えました」と、江頭氏は話す。

意思決定もシステム構築も迅速だった「Oracle Cloud Infrastructure」

数あるクラウドサービスのうち、同大学が選択したのは日本オラクルが提供している「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)だ。今年4月にOCIの採用を決定した後、約2週間でオンデマンド教材コンテンツ配信基盤を構築し、5月7日から開始した2020年前期授業において、2500以上の教材コンテンツを配信した。

江頭氏はOCIを選択した理由について、次のように説明した。

「私たちは5月のコンテンツ配信に向け、意思決定を急ぐ必要がありました。その点、オラクルは日本のITベンダーよりも対応が早かったのです。新型コロナウイルスの影響で、オラクルは全面的にテレワークを行っていたため、すべて遠隔で交渉できた点も便利でした。当時、北海道も新型コロナウイルスの感染が拡大しており、東京に行ける状況ではありませんでしたから」

また、コストについても聞いてみたところ、「既に年度予算が決定し、新たな予算がとれない中で、サービスを導入しなければなりませんでした。Oracle Cloud Infrastructureは予算の範囲で収まり、思っていたよりも安価でした」という答えが返ってきた。

小樽商科大学 事務局 学術情報課 情報処理係長 高橋立氏、理事(総務・財務担当副学長)江頭進氏、社会情報学科 准教授(情報総合センター副センター長)三浦克宜氏

他のクラウドに勝る使い勝手の良さがOCIの魅力

社会情報学科 准教授(情報総合センター副センター長)の三浦克宜氏は、OCIのメリットとして、操作性の良さを挙げる。「Amazon Web ServicesやGoogle Cloud Platformなど、複数のクラウドサービスを使ってきましたが、他のクラウドサービスに比べて、OCIはデプロイが簡単であるなど、スッキリしているという印象を受けます」と三浦氏。

他社のクラウドサービスは機能が豊富であるため、サービス設計に時間がかかるが、OCIはサービスやアプリケーションの開発がスピーディーに行えるという。「管理画面も負荷やコストがわかりやすく、使い勝手がいいです。大多数の人が満足できるユーザーインタフェースだと思います」と、三浦氏は話す。

事務局 学術情報課 情報処理係長の高橋立氏も、「OCIはいろいろなレベルのユーザーが使えるサービス。すっかりファンになりました」と語る。

操作性を工夫することで、教授陣にも好評

小樽商科大学では、教授が自らオンデマンド教材コンテンツを作成して配信している。一般に、大学教授は年配の方も少なくないが、教授陣から反対の声は上がらなかったのだろうか。

江頭氏によると、オンラインで説明会を開催するなど、教授陣が少しでもスムーズに作業を行えるよう、工夫を凝らしているそうだ。実のところ、最初はネガティブな意見が多かったところ、今では好意的に受け止められているとのことだ。

オンデマンド授業における課題を聞いてみたところ、データ容量のサイズが挙がった。何の細工もせずにオンライン教材コンテンツを作成すると、コンテンツ1個当たりのサイズが100MB程度になる。そこで、画像の解像度を落とすなどして、ファイルサイズを縮小している。

ちなみに、これまでオンデマンド授業において大きなトラブルは発生しておらず、試験もオンラインで行ったそうだ。

オンラインで「行きたくても行けない」遠隔地の学生にも高等教育を

小樽商科大学では、前期に続き、後期もオンライン授業を継続する。江頭氏は「大学においては、学生が講義をスムーズに受けることができて当たり前です。これを実現できなければ、大学は義務を果たしていないことになります」と語る。つまり、学生が講義を受ける権利を遂行できるよう、オンライン授業がサポートするわけだ。

加えて、江頭氏は「オンライン授業は通学しなくても受けられること以外にもメリットがあります。それは、何度でも見ることができ、質問がしやすいことです」と説明する。

講義中に挙手して質問をすることに抵抗を感じる学生も、LMSの質問機能やチャット機能を使えば、気軽に質問ができるという。

そして、小樽商科大学では、オンライン授業を活用した大きな構想を描いている。1つは、働きながら学びたい人たちに向けて、教育を提供することだ。オンデマンド形式なら、通学時間を省くことができるし、自分の好きな時間に聴講でき、働いている人も無理なく学ぶことができるのではないだろうか。

もう1つは、遠隔授業の提供だ。江頭氏は「ご存じのとおり、北海道は広いです。札幌近辺に住んでいる学生は当大学に通うことができますが、道東や道北の人が通学することは難しいです。地理的条件で、当大学に行きたくても行けないという人たちに対し、オンライン授業を活用することで、高等教育を届けたいです」と熱く語る。

さらに、江頭氏は「新型コロナウイルスの経験を経て、ICTの使い方が変わってきています。こうした経験を共有することで、大学の在り方を変えていきたいです」と話す。

小学校・中学校では、ITを活用した「GIGAスクール構想」が進んでいるが、学びの場にもITが確実に浸透しつつある。ITをうまく使えば、これまでできなかったことも可能になるはずだ。ITによって、日本の教育現場にもデジタルトランスフォーメーションがもたらされることを期待したい。