「あつまれ どうぶつの森」は世界的な大ヒットとなり、6月までに2240万本以上売れている(写真:任天堂

「巣ごもり消費」を追い風に任天堂の快進撃が止まらない。

任天堂が8月6日に発表した2020年4〜6月期決算は売上高が前年同期比で約2.1倍となる3581億円、営業利益は約5.3倍の1447億円と、4〜6月期としては過去最高を記録した。

2020年3月に発売した「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)を筆頭に、Nintendo Switch(スイッチ)向けの家庭用ゲームソフトの販売が絶好調だった。4月以降に発売した他の新作タイトルも含め、あつ森以外に既存タイトルを含む9タイトルが100万本以上のヒットとなったことが要因だ。

際立つ「あつ森」の好調ぶり

新型コロナウイルスの感染拡大で外出規制がなされ、自宅で時間を過ごす巣ごもり現象が日本だけでなく世界中で広がった。そのことで、家庭用ビデオゲームの消費が盛り上がった。

ソニーの「プレイステーション4」向けに新作タイトルを発売したスクウェア・エニックスやカプコンなどのゲーム関連各社は、4〜6月期にいずれも増収増益となった。小売店が休業を余儀なくされたことで、新作・既存タイトルともに利幅の大きいダウンロード販売比率が高くなり、既存のリピート販売が好調だったことも利益を押し上げた。

追い風が吹くゲーム各社の中でも、とくに任天堂の「あつ森」の好調ぶりは際立っている。

あつ森は、無人島にプレーヤーが移住し、どうぶつたちと交流しながらその暮らしを楽しむというものだ。あつ森内の仮想空間ではほかのプレーヤーや登場キャラクターと交流でき、季節限定の無料アップデートも継続的に実施した。こうした1つのゲームをより長く遊び続けてもらうための工夫が高評価を得た。

これまでに発売した「どうぶつの森」シリーズタイトルの中で販売本数が最も多かったのは、ニンテンドー3DS向け「とびだせ どうぶつの森」の1200万本。あつ森はそれを、発売からわずか6週間足らずで上回り、6月末までに全世界累計2240万本を記録した。

あつ森は日本国内の記録も更新した。コロナ影響が本格化した3月に384万本、4〜6月に331万本、合計715万本を販売し、国内で売れたゲームソフト歴代1位となったとみられる。超えるのは不可能ともいわれていたファミリーコンピュータ向けソフト「スーパーマリオブラザーズ」(1985年発売)の681万本(『CESAゲーム白書』より)をあっさり抜き去り、まさに記録ずくめの快進撃となった。

「過去に遊んだことがある20代から30代が多く、⼥性⽐率も4割以上だった。(あつ森をプレイするために)新規でスイッチ本体を購入する消費者が多かったことも大きい」と任天堂側は分析する。

「あつ森」以外も大健闘

任天堂の4〜6月の全世界ソフト販売本数は5043万本と前年同期比の約2.2倍に達した。あつ森の売り上げは海外を中心に1063万本だったが、全体の21%にすぎない。「あつ森をきっかけに、既存タイトルを中心に2本目、3本目に遊ぶソフトを購入いただいたことが大きい」(任天堂)というように、新作大型タイトル以外も売れに売れた。


あつ森では季節ごとの無料アップデートを順次実施している(画像:任天堂ホームページより)

「マリオカート8 デラックス」や「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」など、発売から1年以上が経過している既存タイトルもそれぞれ100万本以上の売り上げを記録した。また、ダウンロード販売による売上高はこの4〜6月は1010億円(前年同期は306億円)と大きく伸び、ソフトの売り上げの55%を占めた。

とはいえ、この絶好調の決算を手放しで喜べない事情もある。

スイッチ本体は4〜6月期に前年同期の約2.7倍となる568万台(そのうちLiteは262万台)を出荷した。しかし、消費に供給がまったく追いつかず、売り切れが続出。ようやく入荷しても瞬間蒸発してしまうほどで、任天堂にしてみれば売り逃しがあったことは否めないからだ。

新型コロナの影響でスイッチの部品調達が追いつかず、工場の生産が遅延。出荷も一時停止となった。あつ森人気のあまり、スイッチを高値で転売する業者が出現したことも品薄に拍車をかけた。

任天堂はスイッチ本体や周辺機器の製造を担う複数のメーカーに対し、4〜6月期の増産を要請したが、さらに7〜9月期も増産要請している。フル稼働に近い状態まで供給拡大に努めたことで、生産体制は整いつつある。

後を絶たない高額転売

問題は転売対策だ。今春、フリマアプリの「メルカリ」やアマゾンでは、転売目的で購入されたと見られる新品・未開封のスイッチが、定価3万2978円(税込み)の1.5〜3倍の高値で売買されるケースが横行し、問題視された。高値転売の状態が続き、スイッチの供給不足がいつまでも改善されなければ、任天堂への信頼が損なわれるリスクもある。

8月下旬現在でも4万3000円前後で出品される事例が後を絶たない。任天堂公式ストアや家電量販店のECサイトでは現在も抽選販売を続けており、一時期よりは購入できる機会は増えたといえるが、店頭やサイトでいつでも購入できる状態には至っていない。

「生産から店頭に並ぶまでにタイムラグが生じることや、需要が高い状況が続いていることで、依然として品薄になっている地域もある」(任天堂)が、流通段階で在庫切れが続いているわけでもないようだ。消費者の手元には届いていない現状について、卸会社からは「店頭に並べてしまうと購入者が行列をなして“密”になってしまう。やむなく店頭販売を控え、順次抽選販売をしている状況」という声も聞こえてくる。

6月に開かれた株主総会では、株主からスイッチの転売対策について質問が飛び出した。任天堂の古川俊太郎社長は「現行法下で、転売行為自体は認められているため、社として取りうる対策は限定的だが、1人でも多くのお客様に届けたい。生産、出荷を確実に行っていくことが今できる最も重要なこと」と話すにとどめた。

数カ月後には年末商戦を迎える。十分な出荷数を確保できるよう、引き続き増産に努める姿勢は示したものの、転売に対する抜本的な対策はとれないようだ。

巣ごもり特需は薄れつつあるが、ゲーム業界全体には追い風が吹き続けている。

ゲーム総合情報メディア「ファミ通」によると、国内家庭用ゲーム市場は、ハード・ソフト市場ともに7月まで5カ月連続で前年比プラスを続けている。パッケージ版ソフトの推定販売本数ランキング(7月分)でも、任天堂のあつ森は5カ月連続首位となった。

ただ、業績見通しについて任天堂は慎重な姿勢を崩していない。2021年3月期の業績について、任天堂は5月に公表したとおり、売上高1兆2000億円、営業利益3000億円の「減収減益」見通しを維持した。「今後、有力な新作タイトルは用意しているものの、最も業績への影響が大きいのは年末商戦期。(新型コロナの動向を含めて)まだ見通せない」(任天堂)と説明する。

年末商戦はライバルが攻勢

2020年の年末商戦はライバルが攻勢を強める。ソニーの「プレイステーション5」やマイクロソフト「エックスボックス シリーズX」といった新型ゲーム機の投入が控えており、スイッチへの注目が薄れてしまうのは避けられない。


2020年の年末商戦期に投入される新作タイトル「ピクミン3 デラックス」(画像:任天堂ホームページより)

スイッチは今年、4度目の年末商戦を迎え、ゲーム機としてのライフサイクルはすでに中盤にさしかかっている。2017年3月の発売以来、6000万台以上売り上げてきたが、任天堂のゲーム機の過去の販売台数パターンは、発売から2〜3年目にピークを迎え、その後減少していくのが一般的だ。2019年9月に小型で携帯しやすく、安価な新型機「スイッチ Lite」を投入しているが、ライバルが攻勢を強める今年の年末商戦期に新型機の投入は予定していない。

任天堂は「スイッチの勢いは衰えておらず、例年と比べても順調。ポテンシャルはまだまだ発揮できる。これからも面白いと思ってもらえる新作ソフトを出し続けることが重要」というが、スイッチ増産後の年末商戦期には、あつ森ブームが一服している可能性もある。

あつ森に次ぐ新作ソフトを年末商戦期にどこまで訴求できるか。それが任天堂の今期業績を左右することになりそうだ。