製油所の運転停止が、消費者にとって身近な商品に思わぬ影響を与えることになりそうだ(記者撮影)

石油元売り各社が近年進めている製油所の操業停止が、思わぬところに影響を及ぼしている。石油精製の過程で出る副産物を原料にしてつくる炭酸ガスの生産に支障が出かねないのだ。

生産が滞れば、炭酸ガスを固体化したドライアイスや炭酸飲料の出荷が滞ることにもなりかねず、炭酸ガスメーカーは神経を尖らせている。

製油所休止の影響が直撃

石油元売り最大手のENEOS(エネオス)ホールディングスは2019年7月、大阪製油所(大阪府高石市)の石油精製事業について2020年10月をメドに停止すると発表した。近年、製油所の停止が相次いでおり、2013年にはコスモ石油の坂出製油所(香川県坂出市)、2014年にはエネオスHDの室蘭製油所(北海道室蘭市)、出光興産の徳山製油所(山口県周南市)がそれぞれ石油精製を停止した。

そのあおりを食らったのが炭酸ガス業界だ。石油精製に伴って発生する副生ガスには二酸化炭素が含まれており、炭酸ガスはそれを原料に製造されている。そのため、炭酸ガス工場も製油所近くに建設されるケースが多い。

炭酸ガスには、炭酸飲料向けの発泡剤や冷蔵庫の冷媒システムに使われたり、自動車などの溶接にも使われたりする液化炭酸ガスと、食品や医薬品の低温輸送に使われる固体のドライアイスがある。

国内の主要メーカーはエア・ウォーター、大陽日酸の子会社である日本液炭、昭和電工子会社の昭和電工ガスプロダクツ、岩谷産業の4社。4社でシェア95%程度を占める。産業・医療ガスメーカーや販売店でつくる日本産業・医療ガス協会によると、液化炭酸ガスの2019年度の供給量は約74万トンになる。

これに対し、「液化炭酸ガスの国内需要は約75万トン」(岩谷産業広報)で、供給量にほぼ等しい。これとは別にドライアイスの需要も約35万トンある。溶接に使う液化炭酸ガスの需要は景気がいいほど増え、ドライアイスも気温が高いほど需要が増える。

猛暑でドライアイスが不足する

炭酸ガスメーカーをとくに悩ませているのがドライアイスの供給だ。

LPガス事業を主力とする岩谷産業の服部栄一郎ケミカルガス部長は、「ドライアイスの需要は夏場に通常時の2〜3倍に膨れ上がる」と説明する。高温の夏は、食品輸送などで必要になる量が大幅に増えるからだ。

こうした苦しい需給環境は猛暑に見舞われた2018年にはっきり現れた。2018年は気温が35℃以上となる猛暑日が6〜8月の間に12日あり、平年に比べ9.8日も増えた。この年、日本液炭とエア・ウォーターは6月から7月にかけてドライアイスの出荷制限を実施。日本液炭は約4割、エア・ウォーターは約3割も供給量を絞った。

出荷制限の理由は需要増だけではない。供給側も思わぬトラブルに見舞われていた。「供給元である製油所の定期修繕やトラブルが重なり、十分な原料調達ができなかった」(エア・ウォーター広報)のだ。

無糖炭酸飲料向け需要が増えていることも需給逼迫を加速させている。無糖炭酸飲料は従来、アルコールの割り材として使われてきたが、近年は水やお茶の代わりにそのまま飲む人が増えている。中でもアサヒ飲料の炭酸水「ウィルキンソン」が無糖炭酸水市場を牽引。コンビニなどはプライベートブランドの炭酸水を販売しており、富士経済によると、2011年に159億円だった無糖炭酸飲料の市場規模は、今2020年には4倍の680億円市場になると見込まれている。

2020年は新型コロナウイルスの影響で溶接向けや飲食店向け需要が減少し、需給逼迫の度合いは緩和されるかに見えた。ただ、8月に入って猛暑日が続き、「ドライアイスなどの需要は例年通り増加している」(エア・ウォーター広報)。食品や医薬品などの低温輸送のほか、宅配便のクール便に使われる量も増えており、需給が逼迫していることに変わりない。

もちろん、各メーカーは生産能力増強を急いでいる。昭和電工ガスプロダクツは大分市に工場を新設し、2019年4月に製品出荷を始めた。日本液炭は約60億円を投じ、2021年11月に新工場を山口県宇部市に完成させる予定だ。岩谷産業も2021年7月をメドに、千葉工場(千葉県市原市)の製造能力を倍増。年間で最大8.6万トンの液化炭酸ガスを製造できるようにする。

老朽化した製油所のリスクも

近年は国内で不足する分、韓国からドライアイスを輸入してしのぐケースも増えている。ただ、輸入品は輸送費などがかさみ、エア・ウォーターは2019年4月の納入分から従来に比べて1割程度の値上げを行った。岩谷産業の服部氏は「2019年から飲料メーカーなどに対して(液化炭酸ガスの)価格改定をお願いしている。自社の製造能力を増強することで韓国からのドライアイス輸入に頼らなくても、今後は安定供給できる」と強調する。


国内の製油所は老朽化が著しい(記者撮影)

炭酸ガス原料の源となる製油所は、今後も増えることはなさそうだ。エネオスHDの杉森務会長CEOは「製油所の統廃合は引き続き検討する」と話す。国内の石油製品需要は1999年度の2億4600万キロリットルをピークに減少の一途をたどり、2023年度は1999年度比で約4割減の1億5800万キロリットルになると予想されている。

製鉄所も炭酸ガス原料の供給源として有力視されているが、製鉄所から供給されるCO2は純度が低く、生産コスト上昇につながりやすいという。

既存の製油所は老朽化しており、プラントを停止して行う定期修繕の長期化や故障による停止のリスクも消えない。炭酸ガスメーカーの大阪ガスリキッドは「(2019年は製油所の定期修繕などの影響が出て)原料調達が厳しかった」と明かす。最近も、定期修理中だったエネオスの大分製油所では5月26日に火災が発生。原因究明中だが復旧の具体的な見通しは立っていない。

今後、炭酸ガスの供給が滞れば、輸入や遠方の生産地から調達する必要が出てくる。そうなれば、低温輸送コストが上がり、食品価格に跳ね返ることも考えられる。スーパーや洋菓子店などで行っているドライアイスの無料配布も、もしかしたら姿を消すかもしれない。