フランスでは75歳以上の4人に1人が1人暮らしをしている(写真:Daniel Gauthier/iStock)

日本とフランスは、進行する高齢化という同じ社会問題を抱えており、フランスでは2040年に75歳以上の割合が人口の15%に達すると言われています。女性の平均寿命は日本とフランスでそれぞれ87歳と86歳。自立性を失ったために、あるいは極度の加齢に伴う困難のために、介護を必要とする人が増えているのはフランスも変わりません。

ですが、同じ高齢化社会でも日本とフランスでは状況が大きく異なります。日本だと結婚しても親と同居したり、近くに住んだりするケースが多いのに対して、フランスでは子どもが高齢の親と同居することはほぼありません。ご存じの通り、フランス人は個人主義が強く、たとえ1人暮らしの高齢者でも子どもと住むことを拒否することは珍しくないですし、子どもの配偶者の了解を得ることも容易ではないのです。

75歳以上の4人に1人が1人暮らし

実際、フランス国家倫理諮問委員会(CCNE)の調べでは、現在フランスには75歳以上の人が610万人おり、このうち約6割が女性だそう。また、75歳以上の25%は1人暮らしをしています。

ただし、これは「高齢者の世話をしない」ということではありません。過去20年ほどの間で「家族の形」が大きく変わり、核家族化が進み、それぞれが会える機会が減る中で、多くのフランス人が日本人と同じように、仕事や子育てと、高齢の親の世話を両立しようと奮闘しています。


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拙著『パリジェンヌはいくつになっても人生を楽しむ』にも書きましたが、私の祖母も99歳で亡くなるまで1人暮らしをしており、彼女が独立した生活を送れるよう、家族全員が協力しました。

父の母であるメメと私は非常に仲がよく、小さい頃はよく彼女の家に泊まっていました。私は人生のさまざまな場面で、彼女の愛、忍耐、前向きなエネルギーを必要としており、彼女も私を精神的に支え続けてくれました。東京に5年住んでいた私が、東京とパリを行き来するようになったのも彼女のためです。

メメは若くして夫を亡くしてからは実母と2人暮らしでしたが、彼女が亡くなってからはパリのアパートで1人暮らしをしていました。父と私、叔父、そしていとこたちは毎週日曜日にメメの家に集まってランチを食べるのが習慣になっていました。

90歳を過ぎると、ランチをともにするのも困難になってきましたが、それでも家族は集まり続けました。平日は息子である、父と兄弟、そして私を含む孫4人が代わる代わる少しの時間でもいいから、と彼女の様子を見に行っていました。みな、できるかぎりのことをしようとしていたのです。

それでも、メメがプロの助けを必要としているのは明らかでした。息子が自らの母親の入浴などを手伝うのは体力的だけでなく、精神的にも大変なうえ、入浴を含めたあらゆることへの対処法はヘルパーの方がよく知っているからです。


筆者と祖母の「メメ」(写真:筆者提供)

彼女自身も、自分が大好きなアパートで1人暮らしを続けたいという思いがあり、私たちもその希望を叶えるために、できるかぎりのことをしたいと思いました。そこで私たちは、パリ市を通じてある団体を見つけ、朝と夕方に介護士1人、週に1回看護師に来てもらうようにしたのです。

子どもと連絡を取っていない人も

彼女たちは素晴らしい仕事をしてくれました。晩年、メメは歩くことができず、目も見えなくなっていましたが、それでも彼女の心は“パーフェクト”なままでした。おしゃべりが大好きで、若い頃に習った詩を私たちに暗唱してくれました。

介護士を頼んでからも、私たちは従来通りメメを訪ね、その日の話をしたり、歌ったり、愛を語り合ったりしました。そして、最愛の祖母は99歳4カ月でその生涯を終えるまで、自らのアパートで1人暮らしをすることができたのです。100歳を迎えられなかったのはとても残念でしたが、私たちは最後までメメとすばらしい時間を過ごせました。

メメは1人暮らしでも家族に囲まれていましたが、日本と同様、フランスでも高齢者の孤立は問題になっています。前述のCCNEの調べでは、1人暮らしの高齢者の5割は友人や社会とのつながりがなく、4割は子どもと連絡を「とっていない」「ほぼとっていない」そうです。

一方で、フランスでは高齢者施設に入居する人が増えているものの、本人の意思に反して入れられている人が少なくなく、独立性や自主性を奪われたこうした人たちがうつに陥るケースもあるとしています。

こうした中、独居高齢者を支援する制度があります。2015年の65歳以上の生活費は1カ月2094ユーロ(約26万円)と高額ですが、2005年以来、高齢の低所得者を支援する連帯手当があります。

フランス人の多くはアパートを所有していますが、その中には低所得者や年金受給者も少なくありません。そうした人でもアパートを失わずに済むように、2002年にAPA(Allocation personnalisée d'autonomie、個人型自立手当)という制度が作られました。

この手当ては、県(フランスにおける地域単位)によって異なりますが、基本的には医師、介護士、看護師、管理者で構成されるチームが高齢者のニーズを評価します。この手当は2020年には140万人が対象となっています。

60歳以上の独居高齢者がアパートの空き部屋を無料、あるいは、格安で学生(18歳〜30歳まで)に貸し出すサービスもあります。高齢者と学生を同居させる最大の目的は、高齢者の「見守り」ですが、これによって、高齢者は食事を共にしたり、話をする相手を確保できますし、学生は生活費を抑え、食事を作る手間が省けるなど双方にとってメリットがあります。もともと高齢者の孤立を防ぐために非営利団体が始めたサービスですが、たとえば留学生にとってはフランスの生活を知るうえでとても役に立つのではないでしょうか。

生前にアパートを売却し、「年金」受け取る

また、アパートの所有者が生前に自分のアパートを売り、そこに住みながら購入者から月々“年金”のような形で受け取るというユニークな「viager(ビアジェ)」と呼ばれる制度もあります。受け取れる金額は所有者の年齢やアパートの価格、平均寿命をもとにした平均生存期間などによって変わりますが、これによって所有者は死ぬまで自身のアパートに住めるだけでなく、月々一定の収入を得ることができるわけです。

買い手側からすると、自分がいつそこに住めるのかわからないので、ある意味チャレンジですが、普通にアパートを購入するより比較的安いうえ、お気に入りの物件がある場合は、早めに手をつけられるという利点があります。

この制度は1804年にナポレオンによって導入されました。122歳まで生きた世界最高齢のジャンヌ・カルマンの有名な例があります。彼女が90歳の時にアパートを売却した時、買い手はいい取引をしたと思っていました。ところが、彼女はアパートの価値をはるかに超える30年間の年金を毎月受け取り、買い手はこのアパートに長く移ることができませんでした。もちろんこれは例外的なケースですが……!

新型コロナウイルスで外出規制が続いた時には、隣人同士の連帯感が高まり、近所の人が1人暮らしの高齢者の買い物を助けたり、これまで以上にコミュニケーションをとったりする場面も多く見られました。

自立性を失うということは誰にでも起こりうること。その時に家族が全面的にサポートできればベストですが、家族であっても介護は物理的、精神的に大変な時がありますし、誰もがつねに頼れる家族がいるわけでもありません。こうした時に頼りにできる公的、あるいは民間支援があることは、「年齢を重ねても独立していたい」フランス人にとってはとても重要なことなのです。