なかなか1つになれない両国

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政治的な既得権を追求した人たち

 1945年8月、朝鮮半島は日本の無条件降伏と同時に35年間に亘る日本の植民地支配から解放された。その後、米国と旧ソ連が進駐し、半島は自由主義体制と共産体制に分断させられることとなった。韓国・北朝鮮とも8月15日は「日本からの解放万歳」を叫ぶ日ではあるが、南北ではその意味合いに温度差がある。北で大学教授を務め、脱北後は北の専門家としてメディア解説を務めるキム・フンガン氏によるリポート。

【写真】訪朝したアントニオ猪木など…

 結論から言えば、植民地支配の終焉は南北分断という否定的な結末を招いてしまった。さらに、南北で祝賀ムードが異なる理由について言えば、韓国の為政者たちが「解放、建国、歴史」という用語の意味を歪め、自分たちの政治的既得権を追求したからだと私は言いたい。彼らがしたのは偽善的行為だと言ってもいいだろう。

なかなか1つになれない両国

 脱北者のひとりとして、韓国と北朝鮮における「8・15解放」と「建国」に対する認識と主張、そして「歴史精算」について考察してみた。

 その1. 南北の偽善者たちは、日本からの解放の主体と意味を政治的に利用している。

 繰り返しになるが、日本の植民地支配の終焉は、第二次世界大戦下における戦勝国の勝利の結果であり、南北分断が旧ソ連とアメリカの進駐によって決定的になったのは歴史的事実である。

 朝鮮独立に大韓民国臨時政府と朝鮮半島内での独立運動が寄与したのは否定しないが、あくまで戦勝国であるアメリカと旧ソ連の進駐によるものだ。

 1960年代まで旧ソ連の影響力が大きかったこともあり、朝鮮独立は旧ソ連のおかげと、指導者スターリンを礼賛する雰囲気だったが、ソ連の影響力が低迷してくると、北朝鮮は金日成による独裁体制を強化し、偶像化していった。朝鮮独立は金日成率いる抗日ゲリラ部隊が日帝に勝利した結果とすげ替えられ、金日成を民族の英雄へと変貌させていったのである。

朝鮮解放の主体になれなかった言い訳が…

 ちなみに、私が小学校に入った1968年頃は8月15日を「解放節」と呼んでいた。だが、金日成主席の抗日実績を称えて「祖国光復」という用語が次第に使われるようになった。

 2004年に脱北し、韓国にやってきて初めて迎えた8月15日。違和感を覚えたのは間違いない。南北は体制も考え方も対極的でありながら、韓国では「光復節」と呼んでいたからだ。「解放」ではなく、申し合わせたように「光復」を使っていたのは理解できなかった。それでも韓国は、アメリカが解放者であることを公式に認めているので、北朝鮮よりはまだマシだろう。

 その2. 韓国と北朝鮮では「8・15解放」に対する捉え方に雲泥の差がある。

 8月15日が日本からの解放というのは、南北ともに共通の認識であるが、解放を成し遂げた主役の認識が南北では異なる。北朝鮮は「金日成の抗日パルチザンによる功績」。これに対し韓国では、大韓民国臨時政府が祖国解放のための準備に万全を尽くしていたものの、日本が思ったより早く敗戦してアメリカが進駐してきたため、韓国が朝鮮解放の主体になれなかったというものだ。

 全世界が公認している歴史的事実に、このような主観的な評価を加えないと民族としての矜持を保てないのが韓国だ。

 その3. 解放がもたらした建国に対する認識と主張は、韓国と北朝鮮では完全に異なり、韓国国内ですら政治陣営によって異なる。

 何よりも韓国の左派陣営の建国主張は問題点が多い。彼らは1948年の建国を全面否定し、1919年の大韓民国臨時政府樹立日こそが建国日だと主張する。韓国初代大統領である李承晩(イ・スンマン)を否定して臨時政府主席の金九(キム・グ)の成果だと、誤った認識を国民に植え付けようとしているのだ。

 北朝鮮が朝鮮半島の唯一合法的な政府であることを強調するには、李承晩を米国の傀儡政権としなければならなかった。次善の策として、金日成と一時的ではあるが共闘した大韓民国臨時政府の成果にしたほうが好都合なのだ。

親日清算、日本排斥の感情が幅を利かせているのだから…

 その4. 「過去の歴史」に対する政策においても、南北の立場は大きく異なる。

 北朝鮮は日朝関係を非常に現実的、かつ実務的に捉えているのに対し、韓国はこれまでのどの政権も、日韓関係において被害者意識を政治的に利用している。

 北朝鮮も1960年代までは日本を怨嗟・怨恨の相手として捉えていた。が、金日成偶像化が本格化し始めてからは、過去よりは現在・未来志向へとシフト。日本との関係正常化を標榜し、日本との国交正常化を目指す実利外交をしてきた。

 北朝鮮は日本との過去を含め、謝罪と補償において金銭的な部分を表面に出さないようにしてきた。韓国と比較して、対日外交で一枚も二枚も上手の品格を維持するよう意図的に努力していることが分かる。

 ところが韓国に来ると、自由民主主義国家でありながら、北朝鮮以上に日本と鋭く対立姿勢を取っている。今日まで親日清算、日本排斥の感情が幅を利かせているのだから、実に虚しい。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領の就任後、初の光復節祝辞の中で、「これからの日韓関係は二国間関係だけでなく、北東アジア全体の平和と繁栄のために共に協力する関係に発展していかなければなりません」などと述べたにもかかわらず、3年過ぎた現在の日韓関係は歴代政権の中で最悪だ。

 逆説的に北朝鮮に対しては寛大で友好的であり、韓国の主たる敵は北朝鮮ではなく日本ではないかと思えるようになった。

 もちろん、日韓の政治家たちも現在の関係を憂慮しているはずだが、未来志向の日韓関係を築くためには国民感情を煽るのではなく、国民の肌感覚を理解すべきだろう。

 韓国人の過去3年の訪問国の1位は日本であり、リピーターも少なくない。また「BTS」に歓喜するファンの一体感は、もはや日韓だけでなく国の垣根を超えている。

 第4次産業革命の急速な進展とともに国境の概念が希薄になりつつある今、両国が過去にとらわれているのは時代錯誤も甚だしい。今すぐに相互敵視政策を終わらせ、両国国民が最も近い真の隣人になることを望む。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月13日 掲載