アメリカ海軍航空システムコマンド(NAVAIR)は2020年8月10日(現地時間)、開発中の次世代型電子戦ポッドのうち、中波帯用電波妨害ポッドがEA-18Gグラウラーに搭載され、初めての空中試験を実施したと発表しました。この電子戦ポッドは、アメリカとオーストラリアが共同で開発を進めているものです。

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 現在、アメリカ海軍の電子戦機EA-18Gグラウラーで運用しているAN/ALQ-99電子戦ポッドは、一世代前のEA-6B用に設計されたもの。設計開始は1960年代と古く、EA-18Gとは不釣り合いな性能です。


 このため、現在および将来のサイバー攻撃を含む電子戦に対応するものとして計画されたのが、次世代電子妨害装置(NGJ)です。これは長波帯(NGJ-LB)、中波帯(NGJ-MB)、短波帯(NGJ-HB)それぞれに分かれて開発が進められており、アメリカ国防総省とオーストラリア国防省との共同プロジェクトとなっています。

 このうち、中帯域用のNGJ-MBと呼ばれる電子戦ポッドはレイセオンが開発し、AN/ALQ-249という型番が付けられました。AN/ALQ-249は「シップセット(Shipset)」と呼ばれる2つ1組で構成され、アクティブ走査式フェーズドアレイアンテナを使用して、最新のデジタルソフトウェア技術で地対空ミサイルや地上の電波通信を阻害し、攻撃機に対する脅威に対処するシステムです。


 2020年3月には、メリーランド州パタクセントリバー海軍航空基地にある電波暗室(外部からの電磁波の影響を受けないよう設計された電波機器試験施設)での特性試験を実施。およそ3か月の期間、400時間以上にわたって基本的な性能や、電磁波特性についてのデータが収集されました。

 実機に搭載して飛行する最初の空中試験は、8月7日に実施されました。第23試験開発飛行隊(VX-23)のEA-18Gに搭載され、パタクセントリバー海軍航空基地から離陸し、まずは搭載した状態で安全に飛行できるか、空力的な特性についてのチェックが行なわれています。

 最初の試験を担当したVX-23のテストパイロット、ジョナサン・ウィリアムズ大尉は「試験前は、このポッドがグラウラーの飛行にどのような影響を与えるのか、多くの議論がありましたが、実際に飛行してみると、ほかのグラウラーと同じようにスムーズに飛行することができました」と、空力や重心変化などに大きな影響を与えなかった、とコメントしています。

 アメリカ海軍の空中電子戦装備開発計画(PMA-234)で、NGJ-MB(AN/ALQ-249)の航空工学部門を統括するジョナソン・パリー大尉は「海軍の空中電子戦装備は、何十年もの間AN/ALQ-99を使い続けてきました。ですが、もうすでに小さな周波数スペクトルを使った独立型対空ミサイルシステムの時代ではありません。もっと高度で複合的な技術を用い、従来の電波妨害を克服するシステムへと進化しています。NGJ-MBは現在、そして将来の脅威に対する優位性を提供するものです」と、この次世代型電子戦ポッド開発計画についてコメントしています。

 この計画を統括するマイケル・オーア大佐は、最初の試験飛行が無事終わったことを受け「アメリカ海軍とオーストラリアのパートナー、そして空中電子戦に携わる人々にとって、とても素晴らしい日になりました。NGJ-MBは完全にEA-18Gと一体になり、過去4年間の開発と、飛行に先立つ数か月にわたる準備期間の苦労が報われました」と喜びのコメントを発表しています。

 NGJ-MBの空中試験は始まったばかりで、これから様々なシチュエーションでの動作試験を通じ、実戦能力を高めていきます。NGJ-MBがAN/ALQ-249として部隊配備を始めるのは、2021年を予定しています。

<出典・引用>
アメリカ海軍航空システムコマンド ニュースリリース
Image:U.S.Navy/Raytheon

(咲村珠樹)