さまざまな価値観が変わっている今こそ、「お試し」という形で新しいことに挑戦する絶好の機会だ(写真:Fast&Slow/PIXTA)

新型コロナウイルスによって、これまでの働き方、さらには休み方に対する価値観が大きく変わりつつある。中には「これまでのやり方」が通用しなくなって戸惑っている人もいるだろう。

半ば強引に働き方改革が進んでいる中で、自分を見失わないためにはどう働いて、休んだらいいのか。フリーランスや転職・副業希望者の人材マッチングを手がける「働き方」のプロ、みらいワークスの岡本祥治社長と、広告代理店で働くかたわら、週末はリーマントラベラーとして世界中を旅しながらその活動を発信している「休み方」のプロ、東松寛文氏。訪れた国がそれぞれ93カ国と70カ国という海外旅行マニアでもある2人に語ってもらった。

旅行に行かなくても「内省」はできる

――前回(「自分の人生を生きていない『日本人』の行く末」)、折に触れて自分の価値観を考えたり、行動を振り返ったりする「自省作業」が重要だと言う話の中で、お2人も海外旅行がその機会になっているとうことでしたが、海外になかなか行けない今はどうしているのですか。

岡本:私は家でも内省作業を結構やっていて、お酒を飲みながら、本を読んで思いついたことをつらつら、と書いています。昔は旅行期間中しかできなかったのですが、やっぱり東京でもやらなくちゃいけないな、と思って、できるようになってきました。

東松:自分との会話を意識的にやっています。自分がもう1人いると思って、自分と一緒に飲んでいるみたいな感覚です(笑)。声は出さないのですが、もう1人の自分と会話しているようなイメージで自分と対話をしています。意識すればできるようになります。

岡本:同じような感覚かもしれません。私も本を読んで自分と向き合っている、という感覚なので同じことですよね。

東松:旅行に行けなくなった今、プライベートの時間を充実するにはどうしたらいいか、と行き着いたのが海外に住んでいる人とYouTubeのライブで発信するということです。ニュースで「○○がやばい」というのは聞くけれど、実際に暮らしている人がどういう状況にあるのか、現地の人に話を聞きたいと思って。

東松:例えば、スリランカではロックダウン後、スーパーも閉まっている状況で、政府が何をしたかというと野菜や果物の種を配って家で育ててください、と(笑)。どの種が欲しいか選んで、それを電話で伝えるとその種が届くみたいな。日本がマスク配っている間に、スリランカでは種を配っていた、と知ったらちょっと面白いな、と思って、結構元気になったんです。


今は日本語、韓国語、英語のトリリンガルを目指しているという東松氏(撮影:尾形 文繁)

そのほかに、今はやりの韓国ドラマ見て、韓国語を勉強し始めたり。そしたらテンションが上がってきて、英語の勉強を始めて、今はトリリンガルを目指しています(笑)。今は「やりたいことがやるべきこと」だと思って、それを探して次々やっている感じです。

内省できるかどうかは習慣もあると思います。内省の作業って何時間やっても答えが出るかどうかわからないので、しんどい。それを気にする人が多いのではないかと思うんです。出るかどうかわからないことのために、時間と体力を使うのが面倒な人もいるでしょう。

一方でちゃんとやった人は、そこで気がつけることもあるというメリットを知るので、内省を続けるわけですよね。それを習慣化することが大事ですよね。

1年間「モヤモヤしていた時期」

岡本:確かに最初に気づきを得られるまでが大変ですよね。私は1年くらいモヤモヤしていた時期があります。アクセンチュアを辞めた後に、ベンチャーで経営企画室の担当をしていたのですが、その会社がネットで調べたらすぐにブラック企業と出てきてしまうようなところで。

そんな会社だったからメインバンクからお金を引き上げられ、潰れそうになった。慌てて資金調達して、いろいろ落ち着いたタイミングで転職活動をしていたのです。ところが、最終面接で社長からその場で口説かれる、というほど気に入られても、その直後にエージェントから「すいません、ダメでした」と言われることが何度かあって。

学歴社会のど真ん中で戦ってきた感じだったので、キャリアがマイナスになり、それまで30年生きてきて初めてどうしていいかわからなくなっちゃって。

それで開き直って自分探しをしてしまえ、と思ったときに、当時海外は20カ国くらい行っていたのですが、日本はあまり知らないことに気がついて47都道府県いったところのないところを回ってみようと思ったんです。それから週末を使って何度か旅行に行きながら本を読んだりして、内省をやり始めました。

岡本:今までやってきたことが無どころか、マイナスになった中で人生の目標とか、なんで生きているのか、とかいうことをずっと考える期間が続いたわけです。結局、起業しようと決めるまで1年間葛藤したのですが、実はこの期間はメモを取っていないのです。メモを取り始めたのは、起業しようと決めた日からなので。


転職先がなかなか決まらず、モヤモヤした日々があったと話す岡本社長(撮影:尾形 文繁)

東松:僕もリーマントラベラーとして発信する前は、モヤモヤしている時期がありました。会社の中ですごいやりたいことがあるわけではない一方、旅行はすごく好きで。モヤモヤを抱えながら旅行していたら、「いろんな生き方があって、好きな生き方を選んでいい」というところに行き着いた。ただ、僕もモヤモヤ期はメモを取っていなんです。

岡本:一歩踏み出してからは残っているんですよね。

東松:モヤモヤした後に、1回抜けてから内省することの意味に気がついて、メモを残すようになったのかもしれませんね。

企業は「副業」も認めていかないと

岡本:ところで、東松さんは、コロナでリモート勤務などになってから会社や上司などに「なんだよ」って思うことはないですか。

東松:会社と自分の関係性がどんどん変わっているとは感じます。今まで圧倒的に会社が強い状況だったのは、結構出社の要素が大きかったのではないか、と。「行かなければいけない」という制約があるからみんな行くし、みんなが行くからそこにコミュニティがあってそこに自然に入るわけですが、コミュニティに行かなくてよくなったので、帰属意識的なところを会社が作らないといけない状況になったと感じます。

今オンラインサロンをやっているのですが、旅をベースにみんなが集まってきて、これが参加者にとって家、会社に次ぐ「第3のコミュニティ」的なところになっています。彼らのように会社以外のコミュニティに所属している人が増えてきている中で、会社は今後、副業も含めて、外のコミュニティに所属するのを容認しないと、帰属意識が薄れている人が出てくるのではないかな、と。

岡本:働き方に関しては、「お試し」が増えてきていますよね。副業なんてまさにそう。今までだったら考えられませんが、ベンチャーに働きに行ってよかったらそのまま転職しちゃうとか。それができる社会になってきたということですよね。

当社では、全社員の25%は副業をしているんです。実感値としてみんなそこで経験してきたことが、仕事にもプラスになっているし、副業の仕事になるとみんなすごく楽しそうに話すので、それこそ「やりがい」なんでしょう。

一方、大企業の多くは副業を認めている割には、実際にはやってほしくないという経営者が少なくない。社員にとっては違う経験ができるし、視座を高める機会になるのに。そこで、「あなたもほかの上場企業の社外役員をやっていて、それによって得るものがありますよね。なぜ社員にやらせないんですか」って伝えると、皆さん「あっ」ってなる(笑)。自分の経験が結び付いてないんですよね。

東松:自分が所属するコミュニティが増えること自体いいですよね。今の大企業で働いている人の大半が、ここで評価されなかったら終わる、という風に感じている。ここで評価されるために、行きたくない飲み会に行き、食べたくないものを食べて、ということをやっているわけじゃないですか(笑)。

僕がそれを卒業できたのは、リーマントラベラーとして別のコミュニティを持ったことで「こっちで嫌な上司に媚を売らないといけないくらいだったら、別のコミュニティ作ればいいじゃん」という考え方をできるようになったから。それで精神的に楽になった部分もあるし、それぞれの経験が生きる場面もたくさんあります。

みんな辞めるのがかっこいいと思っている

――東松さんは一般企業に勤めながら、リーマントラベラーとして活動の幅を広げていますが、社内や周りの反応はどうですか。

東松:反応は2分されているというか。最初はたくさん旅行に行っている、とねたまれる向きも強かったのですが、若い子たちからの支持はあります。僕が入社したのはリーマンショック後の2010年なので、年功序列・終身雇用の方がいいんじゃないか、という考えがある世代です。

だからずっと勤め上げる考えで働いていたのですが、ずっとこの仕事でいいのかという不安と戦っている中で、コミュニティを作るということを始めた。この活動を始めてから、相談に来る人が増えました。

ただ、みんな極端というか。「こういうことやりたいんですけど、会社辞めないとダメでしょうか」なんて聞いてくる。「いやいや、辞めないでいいよ。絶対辞めない方がいいよ!」みたいな。世の中の風潮は「辞める」ほうがかっこいいんですよね。独立起業転職はかっこいいというような。

独立起業転職がかっこいいのは、実際成功した人たちがメディアに出てかっこよく発信しているからで、実際に成功するかどうかはわからないわけです。そうじゃなくて、僕みたいにお試しでやってみる、というやり方も今だったらやりやすいわけです。

岡本:私が起業したのは2007年なのですが、会社作ってからサラリーマンを辞めるのに半年以上あるんですよ。8月の頭にねぶた祭りを見て、翌日に乳頭温泉につかりながら「俺は会社やるぞ」と法人登録をして上司にもちゃんと伝えたのですが、自分が抱えていた仕事がまったく終わっていなかったので、それが終わるまでは、と。

岡本:なので、上司公認で外では起業した会社の社長の名刺を持ちながら色々なところでネットワークを作って、10カ月はサラリーマンとして給料をもらいながら、外でも仕事もらってという助走期間がありました。結果的にこれがすごくよかったです。

だって、10カ月収入ゼロになる不安がなかったわけですから全然違いますよ。だから、フリーランスをサポートしている私が言うのもなんですが、サラリーマンとして使えるものは使い倒した方がいいです(笑)。

当社には「フリーランスになるか、転職するか悩んでいる」という相談に来る人が多い。絶対にそういう人に「独立した方がいいよ、とは言うな」と、全社員に言っています。厳しい世界なので誰もが成功するなんてありえないから。一歩踏み出したらもちろん全力でサポートはしますが、独立や転職は誰かに勧められてするものではなく、決めるのは自分なんです。

東松:確かに「極端な生き方」が増えている感じがします。

岡本:そういう中で「お試し」という選択肢が増えているのはいいことですよね。

違う働き方、休み方で自信を取り戻す

東松:コロナ禍になって自分に自信を失っている人が多いと感じます。自分がやってきたことが評価されるかどうかわからない世界になりましたが、一方でこれからは違う働き方、あるいは休み方をすることによって、自信を取り戻すこともできるのではないかと思います。

自分に関して言えば、今まで日本人に対しての発信しか考えていなかったんですけれど、コロナが明けたら韓国のバラエティ番組に出たいな、と思っていて(笑)。そうすると、今まで1億人を対象にしていたのが、1億5000万人になるので、普段のしがらみとか余計にどうでもよくなってきました。視野が簡単に広がった、というか。

今はコロナ明けに準備をしておく期間なんじゃないかと思っています。今は試運転状態だからこそ、違うことで力をつけておけばその先の未来がワクワクできるものになるのではないでしょうか。

岡本:経営者もここでアクセル踏む人と、ブレーキ踏む人に分かれますね。今のタイミングは本当に強い人と、そうじゃない人が振り分けられて淘汰されるタイミングだと思います。当社のこの中で、7月には一社M&Aをしました。私はこういう変化が起きる時こそ、チャンスなんじゃないかと。ここでどんだけ踏ん張れるか、です。