収容施設? 事故も多発…「悪い老人ホーム」は、こう見抜く

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「老後どこに住むか?」は重要な問題です。本記事では、株式会社アートジャパンナガヤ設計代表取締役・長屋榮一氏の書籍『入居者が集まる!職員がイキイキ働く! 介護施設設計』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、それぞれの特徴を解説します。

認知症の方は鏡を見て混乱する可能性も

■鏡の配置も個別性への対応を意識する

介護施設はすべての利用者にとって過ごしやすい場所であることが求められます。そのためには、個々の利用者のニーズやそれまでの人生体験などを本人や家族等にヒアリングしたうえで十分に把握して、設備の設計に活かしていくことが必要になります。

入居者が「楽しい!」と思える環境づくり

例えば、認知症の利用者のなかには鏡に対して特別な反応を示す人がいます。具体的には、鏡の存在を認識することによって落ち着きを失ったり、平穏な状態を保てなくなることもあるのです。

そこで、グループホームのように認知症の人が主たる利用者となる施設の場合には、洗面所等の鏡が目に入らないように、その大きさや配置する場所などに注意することが必要になります。

他方で、認知症以外の人も利用する小規模多機能ホームなどの施設の場合には、化粧直しなどのためにごく普通に鏡を使いたい人もいます。そのような場合には、認知症の利用者が洗面所を使うときには鏡を布で覆って見えないようにするなどの工夫によって対処することができます。

■居場所をつくる

一口に心地よい環境といっても、いろいろな形があり得ます。静かであったり、緑が溢れていたり……最も理想とする心地よさは人によってそれぞれ異なるはずです。一方で、誰にとっても共通して心地よいといえる状況もあります。それは、「ここには自分の居場所がある」と感じられる状況です。

自分の居場所があれば、精神的な落ち着きや安らぎを感じることができます。また、皆と共同で作業などをしていて疲労を感じたときにも、そこで心身をゆっくりと休ませることができます。

したがって、共用スペースなどにも、利用者が居場所を感じられる空間を用意することが望ましいといえます。例えば、リビングの隅などに自由に座れる椅子を置いておくだけでも、そうした居場所をつくることは十分に可能なのです。

話を何度も繰り返す…最新ロボットで対応?

■移動や移乗の支援など介助のための設備

移動や移乗の支援など介助のための設備も利用者個人個人の状況を踏まえて整えることが必要になります。

まず、足腰に衰えがある利用者のために無理なく動けるよう歩行器を用意しなければなりませんし、ITやロボット技術の積極的な導入も検討すべきでしょう。例えば、移乗支援にはパワーアシストが効果的です。パワーアシストとは、それを装着することで、動作する際に求められる力を補助する装置です。

また、介護ロボットとしては、近年、パロ(PARO)も広く活用されています。これは、独立行政法人(現・国立研究開発法人)産業技術総合研究所(産総研)によって開発されたアザラシ型ロボットであり、主として認知症の人の精神的ケアに利用されています。さらに、ソフトバンクの開発した人型ロボット、Pepper(ペッパー)を利用する介護施設も増えています。

パロ

Pepper(ペッパー)

認知症の人は、同じことを何度も何度も繰り返して話す傾向があります。そのような会話の相手を、人(スタッフ)が何時間も務めるのは大変かもしれません。しかし、ロボットであればまったく問題なく対応することができます。

ロボット・セラピーの様子

■人手不足をカバーするために監視カメラの導入も検討する

こうしたITやロボットなどの最先端技術の導入は、人手不足をカバーするという観点から今後ますます重要になってくるはずです。特に都市型の施設の場合は、郊外型に比べて、より多くの人手が必要となるため、夜間時の見守り等の業務に監視カメラを利用することを検討してもよいかもしれません。

監視カメラがあれば、夜勤の人手を十分に確保することが難しくても、居室における転倒事故等を見逃すことなく、利用者の安全を最大限に守ることが可能となるはずです。

欧米の介護施設では当たり前のように監視カメラが活用されていますが、日本ではプライバシー重視の傾向が強いため、まだその利用が進んでいません。しかし、人手不足の状況がこのまま改善されないのであれば、日本でも今後普及が進むのではないかと思っています。

またITの活用に関しては、2020年初頭より始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、福祉施設が外部との接触を規制され、家族面会もできなくなりました。

ニュースでも話題になりましたが、私どももネット面会を推奨し、家族の絆を護ることで大変喜ばれています。

ネット面会の様子

「収容施設だったころの名残り」がある老人ホームとは

■住みやすく、働きやすい空間構成と各室の計画

利用者にとって住みやすく、スタッフにとって働きやすい空間構成はどのようなものなのでしょうか。居室やトイレ、浴室など各室を計画する際のポイントや注意点などについて取り上げていきます。

■入居型施設と通所型施設とで空間構成は異なる

施設の空間構成は、入居型施設と通所型施設とで異なってきます。入居型施設とは、利用者が入居して生活を送るタイプの施設であり、グループホームや有料老人ホームなどが該当します。

通所型施設とは、自宅での生活を送りながら、必要な支援やリハビリなどを受けるタイプの施設で、小規模多機能ホームがその具体例です。入居型施設では、居住者が毎日の生活を送る居室が空間の多くを占めることになります。一方、通所型施設では、リハビリ、デイサービス、ショートステイなど事業者が提供するサービスの中身に応じて多様な空間を内包することになります。

【空間構成例】LDK

【空間構成例】高窓があり明るいLDK

【そのほかの空間事例はコチラ】

■L字型、T字型のプランにすれば入居者はより活動的になる

介護施設のフロアは、一般に【プラン図】のように、通路を挟んで左右に部屋を並べたようなシンプルなI字型になっています。

【プラン図】

このような空間構成は、介護施設が今のように生活の場とみなされる以前の収容施設だったころの名残りであり、病院の病棟の延長から来ています。つまり、病棟は一般的にI字型だったため、それにならって介護施設も同様の形になったわけです。このI字型はそれなりに機能しているところもあり、今でも基本のプランとして活用されることが少なくありません。

しかし、入居者のニーズや利便性に配慮しスタッフの負担をより軽減するという観点からは、もう少し今風の工夫があってもよいかもしれません。具体的には、T字型やL字型にするという選択肢が考えられます。

このように空間に変化を持たせることによって、入居者もスタッフも距離に対する抵抗感が軽減されます。例えば、I字型では端から端まで向かわなければならない場合、「あんなに距離があるのか」とうんざりとした気持ちになるかもしれません。しかし、T字型であれば距離が短く感じられ、そうした後ろ向きな思いを抱かずにすみます。その結果、入居者はより活動的になることが、またスタッフは心理的な負担がやわらぎ、より見守りやすくなるという効果が期待できるでしょう。

高齢者はトイレ中に前方へ倒れ込んでしまうことがある

■中庭、坪庭、光庭、通り庭、かべ庭を設けて緑のある空間をつくる

緑の存在は非常に大切です。森や林の中で木漏れ日や風が通るのを感じて、明るい気持ちや、安らいだ気持ちになったことがない人はいないでしょう。逆に、まったく緑がない場所に長期間い続けて、滅入ったり、暗い気分になったことがある人もいるはずです。

このように緑が人の心、精神に与える影響の大きさ、プラスの効果を考えると、介護施設でもその存在を感じられる空間を積極的につくることが望ましいといえます。その具体的な手段としてぜひ、お勧めしたいのが、 |翊蹇↓◆…敖蹇↓ 光庭、ぁ…未蠶蹇↓ァ,べ庭を設けることです。

 |翊蹐箸蓮∧匹箏物に囲まれたオープンスペースです。

◆…敖蹐蓮⊂規模な中庭です。

 光庭は、もっぱら光を確保することを目的として設けられる中庭です。

ぁ…未蠶蹐箸蓮表口から裏口に至るまでの通り抜けられる形となっているスペースのことです。

ァ,べ庭とは、家の中のかべに造花などを用い庭を演出することです。かべ庭によって外の庭に向かい連続性が生まれることで、家の中の狭い空間を意識的に広げることができます。

中庭、坪庭、光庭、通り庭の図

まず、中庭、坪庭、光庭、かべ庭を設けることによって、居室あるいは浴室などから緑を感じることができるようになります。利用者、スタッフ双方にとって視覚的に心休まる空間を、容易につくることができるわけです。

また、通り庭は京都の伝統的な家屋では、その構成要素の一つとなっています。間口が狭く奥行きが深い形状から、「ウナギの寝床」と表現されることもある京の町屋は、その構造上、家の中まで光が差しにくくなっています。そこで、明るさを得るための工夫として通り庭がつくられたのです。

通り庭があると人の出入りや物の搬入などもスムーズに行えますし、さらに、通路としてだけでなく、共用スペースとして利用することもできます。さまざまな用途に活用可能なフレキシブルな空間といえるでしょう。

【かべ庭の例】受付正面を緑で覆う

【かべ庭の例】かべに絵を飾るように緑を設置

前述のように、中庭、坪庭、光庭、通り庭、かべ庭があれば緑を感じることができるだけでなく、そこから光を取り入れることができます。さらにもう一つ、風が流れてくることも期待できます。このように、中庭、坪庭、光庭、通り庭、かべ庭が存在することによって、いくつもの大きな効果が得られることから、私の会社で介護施設を設計する際には、それらのうち必ずどれかを設けるようにしています。

■排泄する―トイレの計画

トイレは、壁紙に特殊なクロスを使うなど汚れの取りやすい仕上げを行い、明るくさわやかな内装にすることが基本です。

また、通常は便座の横に手すりを設けますが、それに加えて座ったときに前でつかめる手すり(前方ボード)も備えることが望ましいでしょう【トイレの手すりと前方ボードの例】。高齢者は座っていると、姿勢を維持できず上半身が前にどんどん倒れていくことがありますが、前につかめるものがあればそれを防げるからです。

【トイレの手すりと前方ボードの例】

さらに、前方ボードがあると、介助者が下着をはかせるなどのサポートを行うことが楽になります。

それから、トイレのドアに関しては、外にも内にも開ける両開きのタイプが一見便利に思えるかもしれませんが、実は壊れやすいという難点があります。

それを嫌って、「外開き」と「内開き」のどちらかを選ぶのであれば、「外開き」のタイプをお勧めします。「内開き」のタイプだと、万が一、利用者がトイレの中で倒れてしまったようなときに、その体がつかえてしまって外から開けられなくなり、すぐに救助することが難しくなるからです【外開きと内開きの例】。

【外開きと内開きの例】

■入浴する―浴室の計画

浴室に関しては、浴槽の選択が重要になります。浴室が小さく十分なスペースを確保できない場合には、浴槽を固定式にしてしまうとスタッフが入浴の介助をしづらくなるおそれがあります。

固定型

移動型

具体的に述べると、浴槽の片側からしか洗えないということになりかねません。浴室の面積を広くとれるのなら、例えば中央に浴槽を置くことで両側から洗うことが可能となりますが、小規模の介護施設では難しいでしょう。そこで、キャスターなどが取り付けられており、自在に動かせるタイプの浴槽を選ぶのがベターな選択となるはずです。これなら、片側麻痺の利用者にもスムーズに対応することができるでしょう。

「多目的ルームがあるか?」は意外と重要な指標になる

■利用者を見守れるようにカウンターキッチンにする

スタッフが調理を行うキッチンと、利用者が食事をとるダイニングルーム(食堂)は通常一続きになっています。誤嚥や転倒など食事中やその前後にも事故は起こり得るので、調理や後片づけをしながらでも見守りができるように、キッチンはカウンターキッチン(対面キッチン)にすることが適切です。

それなら、万が一、ダイニングルームにいる利用者がのどに食べ物を詰まらせたような場合にもすぐに気づいて対処することができます。また、キッチンを使って利用者が参加するイベントや種々の活動を行うこともあるでしょう。

例えば、私の施設ではキッチンを使ってパン教室を開いたり、手作りのおやつ会を催したりすることがあります。さらに、地域的な特色を打ち出した活動として、岐阜県や愛知県等の名産として知られる朴葉寿司を利用者とスタッフが協力して作ることもあります。

このように利用者に料理を行わせたり、あるいは調理を手伝ってもらうことがあるのならば、アイランドキッチン型のカウンターキッチンを選択することが望ましいかもしれません。

アイランドキッチンは、仕切りも壁もないのでより広いスペースを確保できますし、開放感も感じられます。複数人で作業をしていても窮屈さを感じることがなく、利用者、スタッフともに心から料理することを楽しめるはずです。

■多目的ルームがあればいろいろな用途に使える

施設の中に特に用途を限定しない多目的ルームが一つあると、さまざまな用途に使えて便利です。例えば、レクリエーションやリハビリ、イベントなどの会場として、また職員全員が集まって会議を行う場合やスタッフの休憩場所、外部の業者との打ち合わせなどにも利用することができるでしょう。

多目的ルームの活用例

■多目的ルームやあるいはリビングなどの共用スペースを使って行う

活動の具体例を挙げると、私の施設では音楽療法やリハビリ体操などを行っています。音楽療法では歌などの練習もします。地域の幼稚園の園児たちが施設に歌を歌いに来たときにはお返しで歌を歌ったりなど、利用者がより熱心に取り組めるよう目的意識を持たせることに努めています。

また、地元の七夕祭りで飾られる短冊作りを行うこともあります。こうした地域とつながる活動を通じて、利用者が自身も社会の一員であると強く実感でき、自立の促進や活動領域の広がり等の効果がもたらされることを期待しています。

高齢者の「住居内事故」…発生多発の場所は?

■居室の広さを考える

居室は施設利用者にとってもちろんプライバシーを確保できる場として重要ですが、他方で、その場所から一歩も動かなくなるような状態が生まれるのは決して好ましいことではありません。

社会性の維持や自立性の促進という観点からは、なるべく室外へ出て活動領域を広げることが必要です。例えば、広い部屋の中にソファも用意されているような状況だと、様子を見に来た家族などへの応対もそこで行えてしまいます。そうなると、入居者が居室を出る機会がほとんどなくなってしまうかもしれません。

居室の関連図

ちなみに、私の会社の運営する施設では、「できるだけ部屋を出てほしい、共用スペースで活動してほしい」という思いから、居室は最低限の広さにしています。また、このように部屋を広くしないようにすることによって、転倒防止のメリットも期待できます。

グラフが示すように高齢者が住宅内で事故にあう場合、最も多い場所は居室となっています。部屋が広過ぎると、室内でよろめいたりしたときなどに、つかまるところや寄りかかるところがなく、そのまま激しく転倒してしまうおそれがあるのです。

住居内の事故の表

一方、部屋が適度な広さであれば、つまずいたりしたときも壁が支えの役割を果たして、一気に倒れるような事態を防げるかもしれません。

■共用スペースはできるだけ広くとる

ことに、グループホームの場合は、基本的に居室はもっぱら睡眠に利用されることになるので広さはそれほど必要ありません。むしろ、個々の部屋を小さくして、それによって生まれた余剰の空間を、リビングなどの共用スペースに充てて活動エリアを少しでも広げることが望ましいでしょう。広い空間があれば、利用者はそれぞれそこで自由に好きなことができます。

積極的に何かの作業などをする人もいれば、そうしたほかの人の様子を隅に座ってじっと見ている人もいる。そして、スタッフは、利用者を遠くから見守っている―そのようなゆとりのある空間をつくるためには、やはりある程度の面積が必要であり、居室をあえて小さくすることによってそれを実現するという選択も十分に考えられるのではないでしょうか。

また、私の施設で入居者の家族に聞き取り調査を行った際に、「部屋が広いと賃料が高くなるので、狭くても構わない」という意見も得られています。このように居室の広さに関してはさまざまな考えや見解があるところです。少なくとも「広ければいい、狭いからダメ」といえないのは確かでしょう。

長屋 榮一

株式会社アートジャパンナガヤ設計代表取締役/一級建築士/工学博士