休校中、オンラインで日本語を学ぶ外国ルーツの子どもたち(写真:YSCグローバル・スクール提供)

新型コロナウイルスによる全国の休校中、多くの公立校は宿題で子どもたちの「学び」をつないでいた。しかし、親のどちらかまたは両方が外国出身の「外国にルーツを持つ子ども」にとって、家庭学習は困難な場合も多い。保護者が日本語の読み書きができず宿題を手伝えなかったり、子ども本人も言葉が不十分で、何をすればいいか把握できなかったりするためだ。

文部科学省の調査によると、全国の公立校に在籍する「日本語指導が必要な生徒」は約5万1000人(2018年時点)。そのうち、約1万人が必要な指導を学校で受けられていない。自治体や学校がカバーしきれない部分は、これまで地域のボランティアや日本語学校が支えてきた。

だが、3月に始まった全国一斉休校と4月の緊急事態宣言により、日本語学校は休校。NPOなどの支援団体も活動中止を余儀なくされた。そんな中、外国ルーツの子どもにオンラインで学習支援する団体もあるが、そこには学校とは違う大変さもある。

大量の宿題に途方にくれる

無料の宿題サポートを実施した、東京・福生にあるYSCグローバル・スクールでは利用者の数が、3〜6月の休校期間中に延べ2000人を超えた。中には、子どもは日本生まれだが家庭内の会話が日本語以外のため、言葉を忘れないようにと申し込んだ親もいる。

YSCが今年4月、全国104の支援者に実施したアンケートによると、緊急事態宣言中にオンラインで支援を継続していたのは20%のみ。家庭のネット環境や子どもの日本語力の問題、ボランティア側のスキル不足などが、オンライン対応できない理由として挙げられた。

YSC多文化コーディネーターの平野成美氏は、「外国出身の保護者は大量の宿題を前に途方にくれていた」と振り返る。休校が5月以降に延長された時、それまで復習メインだった宿題が、自分で学習を進める内容へと変わった。国語の新しい単元を読み、段落分けして要点をノートにまとめるといった作業は、日本語ネイティブの子どもでも難しい。

「中には日本語がまだ十分でない子を気遣って、『難しい宿題はやらなくていいよ』と言う学校の先生もいます。でも、ほかのみんながやっているのにそう言われるのは、子どもにとって辛いことです。『どうにかして自分もやりたい』という気持ちが、本人にも保護者にもあります」(平野氏)

とはいえ、オンライン環境が整っていない多くの学校で、外国ルーツの子どもに非対面で学習支援をすることは困難だ。

YSCでは2016年より、通学が困難な生徒向けにZoomを使った遠隔授業を提供してきた。宿題ルームは初めての試みだったが、家で宿題をする子どもたちとスタッフをZoomでつなぎ、質問に答える形で対応した。同じ国ルーツの子どもが画面上で出会って仲良くなるなど、オンラインならではのよさもあった。

休校を受け、通常クラスも3月からオンラインへ移行している。昨年2月にペルーから来日したしょう君(19歳)は、日本語がまったく話せない状態でYSCの日本語と高校進学準備クラスに通い始めた。今年3月の受験に向け毎日通学していたが、試験直前、すべての授業をオンラインに切り替えた。そのまま学習が途切れることなく、希望していた定時制高校に合格した。

深まる外国人家庭の孤立

一方、オンラインに切り替えたことで離れていった家族もいる。YSCは希望者にiPadを貸し出すなど学びを途切れさせないよう尽力したが、呼びかけに反応がない家庭に対してはそれ以上踏み込めなかった。コロナの影響で家庭訪問や面談も難しい。

さらに、子どもの性格上オンラインだと発言しにくい、質問できるほどの日本語力がないといった理由で途中離脱するケースもあった。平野氏らスタッフは「対面だったらもっとできることがあったのに」と悔しい思いを抱える。

コロナ禍で家庭の経済状況も悪化している。緊急事態宣言後、保護者から「3密を避けるため工場のシフトを減らされた」「経営するレストランを休業している」などの声をよく聞くようになった。

特に深刻なのは、ひとり親家庭の問題だ。コロナへのストレスに経済的な不安、さらに休校による子どもの学習の遅れなど、すべての問題が親1人にのしかかっている。

ある母親は休校中、子どもがゲーム漬けになったことを心配していたという。外国出身の親は言葉の壁から、ほかの保護者と情報交換することが難しい。本来なら親同士で共有できる悩みも、「自分の子だけがおかしいのでは」と不安を抱え込んでしまう。以前からひとり親家庭の孤立は問題だったが、コロナ禍でより顕著になってきている。

平野氏は、身近に外国ルーツの子やその保護者がいる場合、周囲が「あえておせっかいになることが必要」と語る。「近くに外国人の保護者がいたら『学校からメール来た?』と声をかけてみるとか、プリントの内容をかみ砕いて説明してあげるとか、それだけでも違うはず。周囲で少しでも気にかけてくれる人が増えれば、外国人家庭の孤立は減らせると思います」

YSCのような学習支援につながる子がいる一方、まったく何のサポートも受けないまま暮らす子どもたちもいる。

大阪府で日本語指導員を務める小谷玲子氏は、昨年4月に配属された小学校で3年生のレオ君(仮名・当時8歳)に出会った。6歳の時にペルーから来日したレオ君だったが、日本語はまったく話せなかった。授業がわからないためほとんど学校に来ておらず、担任やクラスメイトすら彼の声を聞いたことがなかったという。

学校側も何度か家庭訪問したものの、共働きの両親は不在がちな上、言葉の問題でうまくコミュニケーションが取れなかった。日本では外国籍の子どもは義務教育の対象外なため、レオ君のように学校に行くのをやめてしまう子は少なくない。

2年間ゲームをして過ごしていた兄

さらに、レオ君には兄のロベルト君(仮名・当時17歳)がいた。来日時の年齢では日本の中学校に入れず、高校も受験のハードルがあり進学していなかった。地域とも学校ともつながっていないロベルト君は、2年間ずっと家でゲームをして過ごしていた。

南米で暮らした経験からスペイン語が話せる小谷氏は、学校に許可をもらい兄弟の家庭を訪問。ロベルト君に「あなたに日本語を教えるから、代わりに弟を学校まで連れてきてほしい」と頼んだ。

両親の承諾を得て、ロベルト君の家庭教師を始めた。「彼は勉強熱心で、宿題もちゃんとしてきました。今まで機会がなかっただけで、本当は学びたかったんだと思いました」(小谷氏)。

多忙な両親は、兄弟に勉強が必要とは分かっていても、そこまで手が回っていなかった。親が育った国の環境によっては、義務教育で十分と考えている場合もある。だがそれでは、学歴社会の日本で生きていくのは難しい。小谷氏はロベルト君に「進学のための日本語」を教えようと思った。まだ若かったため、せめて高校を卒業してから就職することが最善と考えたのだ。

ロベルト君は、約束を守って弟を学校に連れて行くようになった。このまま順調に進むかと思えた矢先、兄弟は家族の都合で半年間ペルーに帰ってしまう。年明けに帰国した兄弟は、友人たちとペルーで楽しい時間を過ごしたこともあり、日本語の学習意欲を失っていた。弟は再び学校に来なくなり、以前の引きこもり生活に戻ってしまう。

コロナの影響で家への訪問も難しくなった。小谷氏は休校中、日本語教育のオンラインセミナーに参加。Zoomを使った授業のノウハウを身につけ、ロベルト君にオンラインでの日本語クラスを提案した。すると「やりたい」と返事がきた。

現在は週に2回、Zoom授業を行っている。内気なロベルト君にはオンラインが合っているらしく、以前にも増して熱心に取り組んでいる。学校再開後、弟のレオ君もまた登校するようになった。


ロベルト君の授業。日本語で質問ができるまでになった。(写真:小谷氏提供)

文科省が2019年に実施した調査によると、全国で約2万2000人の外国籍の子どもが、学校に通っているか分からない「就学不明」状態になっている。全国の「ロベルト君たち」を継続的に支援するには、小谷氏のような日本語の専門家と学校、行政の連携が不可欠だ。

「10代の彼らは、本来なら色々なことを勉強し、経験することで成長していく時期。国籍や住む場所に関係なく、若者が夢を持って生きていける社会の仕組みが必要です」と語る小谷氏は現在、同じ思いを持つ仲間とNPO法人設立に向け準備を進めている。

取り残される子どもたち

2019年、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正を背景に、「国や自治体には日本語教育を進める責務がある」と明記した日本語教育推進法が可決された。今年6月に策定された同法の基本方針には、「公立校における日本語指導の充実」のほか、「就学状況の把握」や「保護者への情報提供」、ICTを活用した「日本語の遠隔授業支援」などが盛り込まれている。

しかし現状、学校も自治体もウィルス対策が最優先となっている。制度が整うのを待っていては、今コロナ禍で取り残されている子どもたちに支援は届かない。

YSCは8月、夏休みの宿題を無料サポートする「サマースクール」を開講した(21日まで)。オンラインの限界を知りつつも、できる範囲で支援の手を止めず、1人でも多くの学びをつなぐことを目指している。

3月でYSCを卒業し定時制高校に進学したしょう君は、休校期間を家で過ごした後、6月から学校に通い始めた。クラスメートは15人中、5人が外国ルーツの生徒だという。


YSCの授業を受けるしょう君(左奥)(写真:YSCグローバル・スクール提供)

「やっと教室で勉強できて嬉しい。先生が『何でも質問して』と言ってくれるので、放課後にいつも残って勉強しています。将来は日本の大学を卒業し、観光の会社を作りたいです」(しょう君)

しょう君のように、周囲がサポートし適切な学習環境に結び付けられれば、外国ルーツの若者が夢を持って生きることは決して不可能ではない。コロナ禍で従来の社会生活が維持できなくなった今、日本で暮らすすべての子どもが前向きに生きられる仕組みを、改めて考える必要がある。