オンライン会議に慣れつつある方も多いのではないでしょうか。それでも、毎回スムーズに会議が進行するとは限りません。ファシリテーションのプロに、オンライン会議でよく見かける“困った人”の対処法を教えていただきます。

※本稿は堀 公俊『オンライン会議の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/chee gin tan)

■【悩み1】資料を読んでこないメンバーがいる

せっかく事前に会議資料を共有しているのに、読んでこない人がいます。結局、その場で説明しなくてはなりません。資料をちゃんと読まずに、読めば分かることを質問する人もいます。何かよい対策はないでしょうか。

【解決策1】資料を読んで意見を出しておく

コンパクトかつスピーディにやるのがオンライン会議の持ち味です。資料説明の時間はもったいなく、頭に入っている前提ですぐに議論に入りたいところです。

何はさておき、資料に関する会議ルールを決めておきましょう。いつまでに資料を共有して、参加者は必ず読んできて、疑問があれば事前に解消しておくようにと。当日は、一切説明をしないことを申し合わせておくと、さらによしです。

これだけで心もとなければ、資料を読んだ上での意見を集めておくようにします。当日は、それを元に議論をスタートさせ、追加は受けつけないとします。

そのときに、意見を書き込むワークシートを用意しておく方法があります。「どこが疑問ですか?」「異論はありませんか?」「ここから言えることは何ですか?」といった設問を用意して、埋めてもらうようにするのです。

また、事前に読んでもらうには、資料づくりに工夫が要ります。ページ数が多い、細かい字でビッシリ、数字の羅列などは読む気が失せてしまいます。

「会議用に資料を加工するのが面倒」というのなら、生資料の表紙に一枚サマリー(要約)をつけるようにします。そこに、議論すべきポイントが書かれていれば申し分ありません。そんな資料づくりのルールも決めおくとよいでしょう。

【解決策2】どうせ読まないんだったら……

逆にこんな方法もあります。事前に読んでくることを諦め、席上配布してみんなでじっくり読む時間を取るのです。Amazon社のリアル会議で採用されている方法です。

事前に読むとなると、参加者によって読み込みの深さに差が出てしまいます。質問にあるような事態は避けようがありません。

だったら、時間を取って読んだほうが、レベルをそろえるには好都合です。資料を読む間もないほど忙しいメンバーにも有難いやり方です。

人に説明してもらうより、自分で読むほうが断然早くなります。それぞれ自分のペースで内容が理解できます。

ただし、説明すべきことが資料にキッチリ書かれており、「読めば分かる」ようになっていなければいけません。数字や図解だけではなく説明文も要ります。それができるなら、あながち悪くない方法だと思います。

■【悩み2】発言を独占する人がいる

オンライン会議をやってみたところ、一人でずっと話をしている人がいます。リアル会議でもよく話すベテランの人です。これでは他の人が発言できず、対等な議論になりません。止めさせるよい手はないものでしょうか。

【解決策1】「話が長い」ことに気づいてもらう方法

まずは、発言を独占していることに気づいてもらわないといけません。

これはファシリテーターの役目です。話に割って入り、「話が長い」「手短に」ということを伝える必要があります。問題は、どうやってカットインするかです。

ダイレクトに言えない人には、こんな方法があります。主催者の権限で、画面表示を切り替えたり、マイクを強制的にオフにしたりします。相手が「何だ?」と話を中断したところで、「あれ、調子がおかしい」とトボケるのです。あとは勇気を出して伝えるだけです。

チャットに書いて伝える手もありますが、そんなものは見ていないでしょう。であれば、テレビ番組のようにカンペを出すのはどうでしょうか。A4紙に「あと30秒」「巻きでお願いします」と書いて、カメラに近づけます。ADにでもなったつもりで。あらかじめそうすることを伝えておけば、気を悪くすることもないはずです。

私の知人の中に、「発言が長いと自動的に画面オフになる設定にしました」と嘘をついたツワモノがいました。いつ切れるか心配になり、随分話が短くなったそうです。

以前、こんな実験をしたこともあります。1分間話すようにお願いをして、実際はどのくらいだったかを計測してみました。参加者全員の練習として。一番ひどい人は、なんと3分! それを伝えると、次からはとても話が短くなりました。

【解決策2】気づいているのに止まらない場合は……

本当の問題は、気づいているのに止まらない人です。

多いのは、「他の人の話を聞いてもロクなものはなく、自分が答えを出さないといけない」と思いこんでいるケースです。早い話、メンバーを信用していないのです。

本当に、知識や経験の差が大きくて、そうしないといけない場合もあります。しかしながら、いつもそうしていたのではメンバーが育ちません。

「あなたが正しいのは分かっているが、一度他のメンバーにも考える機会を与えてほしい」と言えば分かってくるはずです。褒め殺しにするわけです。

もうひとつあるのは、自分が周囲から認められていないと感じ、会議という場で自己アピールをしているケースです。みんなから注目してほしいのです。

こちらはかなりやっかいです。それを会議以外の場でやってもらうのが対症療法となります。レポートを書いてもらうとか、別途話を聞く場を設けるとか。

根本的に対処するには、職場での当人への関わり方を変えたり、本人自身が自分を承認するようにならないといけません。かなり息の長い取り組みになります。

そのときに大切なのは、当人を悪者にしないことです。チームの問題だととらえるのです。「みんなはどのようにその問題に加担しているのか?」「みんながその人に何ができるか?」を考えることが、当人が変わるための近道となります。

■【悩み3】オンライン化に抵抗する人がいる

「オンラインでは話にならない」と会議に参加しようとしないメンバーがいます。仕事ができるベテランの社員だけに無視するわけにもいきません。そんな人には、どのように参加してもらったらよいでしょうか。

【解決策1】得を説くより損を訴える

オンライン会議に限らず、何か新しいことを始めようとすると、不利益を被る人から反発をくらいます。抵抗、サボタージュ、抜け道探し、骨抜きなど、ありとあらゆる手を繰り出してきます。人は、得をすることよりも、損をすることを嫌うからです。

堀 公俊『オンライン会議の教科書』(朝日新聞出版)

会議も仕事であり、業務命令で強制的に参加させることは可能です。しかしながら、仏頂面をされたり、ぶち壊しの発言をされては、かえって迷惑になります。強権発動は本人のためにもチームのためにもなりません。

最初は、オブザーバー参加で十分だと思います。それも強制ではなく自己判断で。「是非参加してほしいが、煩わしければ見ているだけでよい」と促してみてはどうでしょうか。

そのときは、得を掲げるよりは、損を訴えるようにします。「参加しないと状況が分からなくなる」「連携が取りづらくなる」といったように。加えて「今後はすべてオンラインでやります」と言い切って、現状を維持することの損を理解してもらいます。

それでも参加しないかもしれません。そのときは事前に意見を聞いておいて当日議題に上げるか、ビジネスチャットや共有ファイルに入れておいてもらうのでもいいでしょう。

それでも、まったく参加しないよりははるかにマシです。

そうしながら、諦めず何度も扉をノックすることです。いくら拒絶されても、こちらはいつでも受け入れる用意があることを伝えるのです。人は、本気で関わってくれる人には応えようとしますので。

【解決策2】フット・イン・ザ・ドアでそそのかす

同時に、変化への恐怖や不安を取り除くことも大切です。オンライン会議で多いのはITリテラシーの話です。使い方が分からないとか、操作に慣れないとか。

その場合は、個人指導をしたり練習会を設ける必要があります。オンライン飲み会をやって抵抗感を払しょくするのもひとつの方法です。相互理解にも役に立ちます。

そんな努力が実り、ログインしてくれたらしめたもの。あとは、少しずつそそのかしていきましょう。

「皆さんに挨拶を」「感想を一言」「コメントを下さい」「追加情報はないですか」と段階を踏んで、発言を引き出すところまで持っていくのです。フット・イン・ザ・ドアと呼ばれるテクニックです。

人は、できるだけ一貫性を保とうとします。そのほうが人格的に完成しており、コロコロ変わるのは未熟な証だと考えるからです。ベテラン社員ならなおさらです。

それを逆手に取ったのがこの方法です。最初に、小さな要求を承諾してもらい、それから少しずつ大きな頼み事をして、最後に本当にのませたかった要求を持ち出すのです。会議でも役に立ち、覚えておくと重宝します。

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堀 公俊(ほり・きみとし)
堀公俊事務所代表/組織コンサルタント
神戸市生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーにて商品開発や経営企画に従事。2003年「日本ファシリテーション協会」を設立。関西大学、法政大学、近畿大学で非常勤講師を務める。現在、堀公俊事務所代表、組織コンサルタント、日本ファシリテーション協会フェロー。
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(堀公俊事務所代表/組織コンサルタント 堀 公俊 写真=iStock.com)