ベラルーシの首都ミンスクで開かれた大統領選の選挙集会で演説する野党候補、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏(2020年7月30日撮影)。(c)Sergei GAPON / AFP

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【AFP=時事】ベラルーシの主婦で2児の母親であるスベトラーナ・チハノフスカヤ(Svetlana Tikhanovskaya)氏(37)は、大統領選に立候補する野望などこれまで全くなかった。だがハリウッド(Hollywood)映画顔負けの展開を経て、たった数週間で無名の個人から、9日の選挙で6選を目指す現職アレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領にとっての最大の対立候補となった。

 チハノフスカヤ氏の大統領選出馬の目的は、身柄を拘束されている夫セルゲイ・チハノフスキー(Sergei Tikhanovsky)氏(41)の解放と、旧ソ連構成国である人口950万人のベラルーシに切望されている自由を勝ち取ることだ。

「私は夫をとても愛している。彼が始めたことは私が続ける」と述べ、そして「私はベラルーシ市民を愛している。人々に選択の機会を与えたい」とも話す。

 英語教師であるチハノフスカヤ氏は、数か月前に大統領選への出馬を決めた。ユーチューブ(YouTube)で人気のある夫のチハノフスキー氏が拘束され、大統領選への名乗りを妨げられたことがきっかけだった。

 選挙管理委員会は、より強力な対抗馬になるとみられていた有力候補2人を選挙戦から排除したが、チハノフスカヤ氏の立候補については認めた。

 しかし、ふたを開けてみれば、政治経験がないにもかかわらずチハノフスカヤ氏はたちまち有力な対立候補となった。その人気ぶりは、無数の人が街頭に出て支持を表明していることからもうかがい知ることができる。

 自らについて「普通の女性、母そして妻」と表現するチハノフスカヤ氏だが、集会では変化を呼び掛け、支持者らを鼓舞する。

 彼女の存在を快く思っていない人もなかにはいる。チハノフスカヤ氏は、これまでにいくつもの脅迫を受けていることを認めたが、それでも選挙戦は最後まで戦い抜くつもりだと話している。

■「ジャンヌ・ダルク」

 夫のチハノフスキー氏は、大規模な混乱を画策しロシアの傭兵(ようへい)と共謀したとの嫌疑をかけられ、身柄を拘束された。こうした筋書きで夫の自由が奪われてしまったことについて、チハノフスカヤ氏は「とても恐ろしい」とコメントしている。

 選挙戦への出馬に際し、5歳の娘と10歳の息子は身の安全を確保するために国外に連れ出された。

 チハノフスカヤ氏はもし大統領に選出されたら、拘束されている夫と他の反対派を解放した後、もう一度選挙を行うと明言している。

 こうしたチハノフスカヤ氏の動きに一部の有権者は冷ややかな視線を送るが、その一方で彼女の存在を歴史的英雄になぞらえる声も聞こえてくる。

 首都ミンスクを拠点とする報道サイト「ビレッジ(The Village)」は、チハノフスカヤ氏を「予想外のジャンヌ・ダルク(Joan of Arc)」と表現した。

 当初は控えめだった態度も、最近の演説では称賛を勝ち取るほど堂々としたものに変化している。国営テレビの生放送では、割り当てられた時間を使ってルカシェンコ政権による数々の不正疑惑に言及し「これはテレビでは報道されない事案」だと繰り返し訴えた。

 そして、支持者が大勢集まる集会では、チハノフスカヤ氏のシンプルでストレートな演説に鳴りやまない拍手が起きる。

「みなさん、我慢することにうんざりしていませんか、沈黙を続けることに飽き飽きしていませんか」と支持者らに問いかけると、支持者らは「イエス」と大声で応えた。

 しかし、チハノフスカヤ氏は自分には夫チハノフスキー氏のような「大きなカリスマ性」はないと語る。国内各所を回って一般市民から直接話を聞き、人々の辛辣(しんらつ)な声を拾い集めて映像にまとめるチハノフスキー氏の活動は多くから支持を得ていた。

 他方で、さまざまな政治的見解が求められる場所での対応はあまり得意とはしていないようだ。ロシアが併合したクリミア(Crimea)半島の問題について質問された際には、それはウクライナだが事実上のロシアであるとだけ述べ、「これ以上私を苦しめないで」とそれ以上の発言を避けた。

■チャーリーズ・エンジェル

 候補としてのイメージづくりに関しては、経験と政治的動機のより大きい2人の女性によって助けられている。

 その2人とは、大統領選への出馬が許されなかった元外交官バレリ・ツェプカロ(Valery Tsepkalo)さんの妻ベロニカ・ツェプカロ(Veronika Tsepkalo)氏と、同じく出馬を妨げられ現在は身柄拘束中の元銀行家ビクトル・ババリコ(Viktor Babaryko)氏の選挙運動責任者だったマリア・コレスニコワ(Maria Kolesnikova)氏だ。

 よりシャープな印象で自信に満ちた演説を行うこの2人の女性は、チハノフスカヤ氏を強力にサポートする。そうした3人の様子を米テレビドラマになぞらえ、『チャーリーズ・エンジェル(Charlie's Angels)』と呼ぶニュース番組もある。

 3人が着るTシャツには、それぞれの代名詞とも言えるジェスチャーがデザインとして施されている。チハノフスカヤ氏は突き出した拳、コレスニコワ氏は指でつくったハート、ツェプカロ氏は勝利のサインだ。

【翻訳編集】AFPBB News

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