東大生は高所得家庭の出身者が多いといいますが、そうでない人も当然います。彼らの勉強法を紹介します(撮影:尾形文繁)

「『自分の頭で考える』って、どういうことなんだろう?」「頭が良い人とバカな自分は、いったいどこが違うんだろう?」

偏差値35から東大を目指して必死に勉強しているのに、まったく成績が上がらず2浪してしまった西岡壱誠氏。彼はずっとそう思い悩み、東大に受かった友人たちに「恥を忍んで」勉強法や思考法を聞いて回ったといいます。

「東大生は『生まれつきの頭の良さ』以前に、『頭の使い方』が根本的に違いました。その『頭の使い方』を真似した結果、成績は急上昇し、僕も東大に合格することができたのです」

頭の良い人は、頭をどう使っているのか? 「自分の頭で考える」とは、どういうことなのか? 「頭の良い人」になるためには、どうすればいいのか? 

そんな疑問に答える新刊『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』が発売4日で5万部のベストセラーとなった西岡氏に、「高所得ではない家庭から東大に合格した学生」の勉強法を解説してもらいました。

東大生は「高所得家庭の出身者」が多いけれど…

「東大生の家庭は、お金持ちが多い」というのは、昔からよく言われていることです。


私立の中高に通ったり塾に行ったり、家庭教師を雇ったり教材を買ったりすると、けっこうお金がかかります。東大生の多くは私立の中高一貫高校の出身者なのですが、私立の学費は年間100万円以上かかります。

また、東大生の多くは小・中・高時代に塾に通っています。というか、東大の中だと塾に通っていなかった学生を探すほうが難しいくらいです。塾に行くにも、年間で60万〜70万円は必要です。

たしかに、これだけの額を教育に投資するのは、金銭的な余裕がないと難しいですよね。この状況だと、お金がない家庭から東大に合格するのは難しいというのも理解できます。

それもあってか、東大生は高所得の家庭出身者が多く、約6割は世帯年収950万円以上とも言われています。

しかしそんな中でも、塾に行かず、家計に負担をかけない形で受験して合格した学生も、一定数います。彼らの勉強法が非常に本質的で参考になったので、今回、ご紹介したいと思います。

今日は、世帯年収300万円台、週3でバイトをしながら東大に合格し、『東大式節約勉強法』を書いた布施川天馬さんを含め、「お金をかけずに合格した東大生たち」から聞いた独学術を、みなさんに共有させていただきたいと思います。

お金も時間も節約する「コスパ最強」の勉強法

1:勉強の「目標」をとことん明確化する

まず彼ら彼女らに共通していたのは、「目標を明確にしてから勉強している」ということです。

……なんてお話しすると、「え? そんなの当たり前のことなんじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、違うんです。彼ら彼女らは、この「目標」の解像度が段違いなのです。

たとえば多くの学生は、「数学の成績を上げるために、数学の勉強でもやろうかな」「英単語を覚えるために、この単語帳をやろうかな」と考えると思います。そのために、さまざまな参考書や塾の講座など、いろんな手段を用いて勉強しています。

しかし、このような豊富な手段を持っていたとしても、成績って上がらないんですよね。勉強していても「うーん、なんかこの勉強に意味はあったのかな……?」という状態になってしまいがちです。いろんな方法があるからこそ、むしろいろんなことに手を出して、結局何も身につかないで終わってしまうってことは、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。

そんな中で、金銭的に恵まれておらず、参考書も講座も「節約」しなければならなかった東大生は、ぼんやりとした目的を持つことはありません。

「今からやる勉強には、どういう意味があるのか?」「この勉強をして、どういう状態になれれば目標達成したことになるのか?」

勉強の手段を選ぶ前に、必ず目標を自問自答するのです。

そして徹底的に目標を具体化し、本当に必要な手段のみを選んで勉強することで、金銭面だけでなく、「意味のない勉強時間」も「節約」しているのです。

2:わからないところを言語化して、目標を明確にする

では、目標はどうすれば具体的になるのでしょうか。

たとえば『東大式節約勉強法』を書いた布施川さんは、「わからないところがどこなのか、とにかく言語化する」という勉強をしていました。勉強の目的を「わからないところをわかるようにすること」と設定し、勉強をそのための手段と定義して勉強していたのです。

「そもそも勉強って、『わからないところをわかるようにする』というのが本質だと思うんですよね。そして、わからないところがどこなのかわかってしまえば、あとはそこの部分をしっかりと勉強するだけで、誰でもわかるようになる。だから、『どこがわからないのか?』という問いとしっかり向き合う習慣をつければ、やるべきことを節約することができるんです」

布施川さんはそんなふうに語ってくれました。

具体的には、問題が解けなかったり、勉強を進めていてつまずいたときに、そこで必ずきちんと立ち止まって、「どこがわからないのか」をしっかりと文字にして、紙に文章として書いてみるのです。

例えば英語の長文問題でいい点が取れなかったら、具体的に自分がわからなかった単語、あやふやになっている文法事項を列挙し、何を勉強すればその部分がわかるようになるのかを考え、箇条書きで文字に起こしていたそうです。

僕らは、できない問題があったりつまずいたりしても、ぼんやりと「できなかったな」「勉強時間が足りないのかな」「違う参考書を買おうかな」みたいに考えてしまいがちです。しかし、それでは非効率だし、無駄も多いものです。わかっているところを2回やってしまったり、本当に復習するべきところを見逃してしまったりしがちです。

これは、「勉強の目的」がしっかりしていないことに起因する問題です。

「何を勉強すれば、今できていないところができるようになり、わからないところがわかるようになるのか」

これとしっかり向き合う習慣をつけていれば、本当に必要な勉強をしっかりとできるようになる、というわけですね。

「どこがわからないか」を明確にする方法

しかしこの勉強法、実践しようとすると、難しいところが2つあります。

1つは、「そもそも、わからないところがどこか、わからない」という状態になりがちなところ。もう1つは、やることを節約したとしても「限られた手段の中で勉強しなければならないのは、やっぱり大変だ」ということです。

この2つの壁を、金銭的に恵まれない状態にいた東大生たちはどのようにクリアしていたのでしょうか?

3:わからないところがわからない場合は「わかるところまで戻る」

1つ目の壁、「わからないところがわからない」って、よくある話だと思います。僕も数学とかで、「本当にちんぷんかんぷんで、どうしようもない……」という状態に陥った経験があるので、この部分は非常に気になって、力を入れて東大生に質問してみました。

そんな中で見えてきたのは、「わかるところまで戻る」ということでした。例えば高校の英文法でつまずいたのなら、中学の英文法の復習をする。中学校の数学でできないところがあってちんぷんかんぷんなら、小学校の算数の教科書をのぞいてみる。そうやって、「ここまではわかる」というポイントまでさかのぼって勉強するというのです。

「そんな悠長なことをしていていいの?」と疑問に感じるかもしれません。しかし、これは「急がば回れ」というやつで、わからないところでジタバタしているよりも、潔く「わかるところまで戻る」ほうが効率的なのだそうです。

たしかにそう考えてみると、僕も「数学がわからないな」と考えていた高校生のころは、中学校の数学が完璧ではなくて、そこでつまずいていたのが高校まで尾を引いていたように感じます。

でもプライドがあって、中学の教科書を引っ張り出すようなことはできず、結局無駄な時間を過ごしてしまっていました。確かに、「わかるところまで戻る」のがいちばん手っ取り早いのかもしれませんね。

「教科書を制す者が勉強を制す」という本質

4:「教科書」が最強の勉強ツールと理解する

2つ目の壁、「限られた手段の中での勉強」に関しては、実はすごく意外な答えが返ってきました。

「いや、教科書がいちばんわかりやすいから、教科書メインの勉強しかしてないんですよね」

どの学生も、教科書を重視して勉強していたのです。変に参考書とかに手を出すのではなく、何度も何度も、ボロボロになるまで教科書を読んで勉強していました。

「いやそんな、教科書なんて……」と思う方もいるかもしれないのですが、実際、東大は「教科書以上の知識は出さない」ということを標榜している大学だったりします。それによく考えてみると、「参考書」の「参考」って、「教科書の参考になる本」ということですよね。参考書をメインにして勉強するほうが、ナンセンスなんです。

思い出してみると、僕が東大の試験会場に行っていちばん驚いたのは、「東大受験生ってどんな参考書使ってるんだろう……?」と思って周りを見渡したところ、みんなこぞって教科書を読んでいた、ということでした。


いろんな参考書が身の回りにあふれていると忘れてしまいがちですが、教科書がいちばん情報が整理されていて、金銭的に恵まれている人もそうでない人も、平等に持っている学習ツールです。教科書こそ勉強における「最強のメインコンテンツ」であることを忘れてはならない、ということなのだと思います。

いかがでしょうか? 驚いたことに、今回取材に協力してくれた東大生の多くは、「塾に通えないこと」や「参考書をたくさん買えないこと」に対するハンデをあまり感じていないと話していました。勉強の手段が少ないことに対するディスアドバンテージよりも、むしろそれによって、いろんな工夫をしたからこそ東大に合格できたというのです。

ハンデを逆手に取って工夫する。彼ら彼女らのそういう姿勢は素直に尊敬に値するなと感じますし、その工夫は、どんな人にとっても参考になるように思います。