Netflix『スモール・ソルジャーズ』造形のクドさ&悪趣味さは90年代アクションフィギュアそのもの

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90年代アメリカ製アクションフィギュアのエッセンスを煮詰めたような『スモール・ソルジャーズ』

90年代、アメリカのオモチャ業界、もっと細かく言えばアクションフィギュア業界は相当に盛り上がっていた。1989年から始まった『バットマン』の映画シリーズやその後のアニメを題材としたフィギュアシリーズ、『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』や『スター・トレック』のフィギュア、湾岸戦争をきっかけとした『G.I.ジョー』シリーズの再評価、『X-MEN』と関連商品の好調、さらに『パワーレンジャー』のアメリカでの展開開始や、『スター・ウォーズ』の特別篇と「POWER OF THE FORCE」シリーズ、そしてマクファーレン・トイズの大躍進……。この時期のアメリカ製アクションフィギュアのヒット商品をあげていけば、それだけでこの原稿が終わってしまう。

このアクションフィギュア業界の盛り上がりは、映画の世界にも影響を及ぼした。わかりやすいところだと、1995年の『トイ・ストーリー』がある。メインキャラクターの一人であるバズ・ライトイヤーは、当時最新のアクションフィギュアという設定だった。

12インチ程度のプラスチック製フィギュアで、関節の可動以外にもレーザーの発光や空手チョップ、ウイングやヘルメットの開閉とギミック満載。おまけに台湾製。昔ながらの布製人形であるウッディとは対極にある、世界的な製造・販売網に乗ったモダンなアクションフィギュアである。このバズのようなフィギュアは、まさにこの当時の玩具店の花形商品だったのだ。

だがもうひとつ、当時のアクションフィギュアのムーブメントに乗っかった作品が存在する。それが現在Netflixで見られる1998年公開の映画『スモール・ソルジャーズ』である。この映画、DVD化はされたものの国内版Blu-rayは発売されておらず、当時子供だった人間とオタク以外にはそれほど強く記憶されていないのではないかという疑念がある。それがようやくNetflixで配信され、誰でも見られるようになった。大変喜ばしいことである。

90年代アクションフィギュアの濃厚な雰囲気に酔え!

物語は冒頭、ハートランド社という玩具メーカーが、軍需産業にも関係する大企業であるグローボテック社に買収されるところから始まる。新社長ギル・マーズはハートランドのデザイナーであるラリーとアーウィンに超短納期で「自分で立って歩いて喋る、超高性能アクションフィギュア」を作るよう命令。

さらに二人がプレゼンした兵隊のフィギュアとクリーチャーのフィギュアを勝手に同じシリーズに組み込み、「正義の兵士達"コマンドー・エリート"が醜悪な化け物集団"ゴーゴナイト"を退治する」というストーリーを展開することを勝手に決めてしまう。

焦ったラリーは軍用マイクロチップをフィギュアに組み込むことを思いつき、社員用アカウントで勝手に発注。結果、自分で歩く高性能フィギュアの開発に成功する。しかしそのチップのせいで、コマンドー・エリートのフィギュア達には過剰な攻撃性が植えつけられることになってしまった。

そのフィギュアの発売日を控えた週末。とある小さな玩具店の息子アランは、馴染みの仕入れ業者が大手の玩具店に納品する予定のコマンドー・エリートとゴーゴナイトのフィギュアを1セット譲ってもらうことに。しかしアランが目を離した隙に、コマンドー・エリートのリーダーであるチップ・ハザードとゴーゴナイトのリーダーであるアーチャーのフィギュアが勝手に起動。コマンドー・エリートはゴーゴナイトを殲滅するべく、人間用の工具や刃物を使って作戦を開始する。それはやがてアランと両親だけではなく、隣に住むフィンプル家も巻き込んだ大騒動に発展していく。

コマンドー・エリートもゴーゴナイトも、大きさがおよそ12インチちょっと程度の大型フィギュア。関節はヒンジ状の形になっており、全身が可動するアクションフィギュアであることが見た目から読み取れるようになっている。フィギュア自体が大きいのでパッケージはブリスターではなく、前面が透明になった箱型のもの。

体格はムキムキで塗装は細かく、そして何より善玉だけではなく悪玉まで全部揃ってラインナップされ、戦わせて遊ぶことができる……。改めて見ると、ハートランドが送り出したフィギュアは、まさにあの頃のアメリカ製アクションフィギュアのエッセンスを煮詰めたような内容である。

というのも、アメリカのアクションフィギュアは善玉だけではなく悪玉も多数発売され、戦わせて遊ぶことができるものが多い。わかりやすいところでは日本の変形ロボット玩具を下敷きにしつつアメリカで展開された「トランスフォーマー」シリーズも、善玉のサイバトロンだけではなく悪玉のデストロンのキャラもオモチャが発売され、双方ともによく売れた。この「善悪両方の勢力が発売される」というアメリカ製アクションフィギュアの特徴がストーリーに大きく関わってくるのが、『スモール・ソルジャーズ』のよくできたポイントである。


人型をしていないゴーゴナイトに関しても、毒々しい色使いはいかにもアメトイらしい佇まい。実際アメリカのオモチャの配色はなかなか強烈で、こういった蛍光グリーンやパープルを散りばめたクリーチャーなどのフィギュアは当時の商品ではよく見かけた。造形のクドさ、見た目の悪趣味さも、90年代のアクションフィギュアそのもの。『スモール・ソルジャーズ』は、当時のオモチャのスタイルを本当によく研究して作られていることが、画面からだけでも伝わってくる。

20年以上経過したからこそ味わい深い『スモール・ソルジャーズ』

『スモール・ソルジャーズ』に漂う濃厚な90年代の気配は、なにもオモチャ周辺のディテールだけではない。主人公アランの服装はいかにもグランジブームを経過したアメリカのガキンチョのファッションという感じだし、グローボテックやハートランドの社員たちのスーツもなんだか色や形が古い。画面に映っているものすべてから、クリントン政権期のアメリカの匂いがしている。

重ねていえば、映画の中に入れこまれている対立軸自体も90年代的である。グローバル企業のグローボテックが玩具メーカーを買収し、真っ当にオモチャを作ってきた善良な開発マンが冷や飯を食わされる。昔ながらの街のオモチャ屋さん(店の名前なんか「Inner Child」だ)が大規模なチェーン店に押されて、店長であるアランの父は零細企業向けのセミナーに行くハメになっている(ちなみにこのアランの父はけっこう強烈で、「電磁波は有害だ!」と隣の家のアンテナ工事に文句をつけたりする。絶対にツイッターをやってほしくない)。

「儲け第一の経営者に率いられた大企業 VS 小心者だけど善良な一社員」「大規模チェーン VS 地元の個人店」というような、「たしかに一昔前はこういう対立軸のストーリーがあったな〜」と思うような対立軸がいくつも盛り込まれているのだ。

で、その悪玉側が作り出したのが見た目はカッコいいけど中身は非情で残忍なコマンドー・エリートであり、それに対しあらかじめ敗北することが決まっている悪玉のゴーゴナイトが、少年と力を合わせて立ち向かう。戦い自体はご近所で完結しちゃう小規模なものながら、燃えるストーリーである。

改めて見てもやっぱりゴーゴナイトの連中に肩入れしちゃうし、一方で「製品的にはヒーローなんだけど、映画のストーリー上は悪者っぽく見えなくてはならない」というコマンドー・エリートの造形も絶妙。よくできているのである。

思えば、この『スモール・ソルジャーズ』が公開された当時から考えれば、この手の問題意識はずいぶん世の中から消えたように思う。世界的な大企業は結局どんどん大きくなったし、彼らが作る製品やサービスはどう考えても使いやすくて便利なのである。ぶっちゃけおれもApple製品を使って仕事をしてプレイステーションで遊んでいるので、そのインフラの上に乗っかっちゃっているのは事実である。まあ、実際快適だし……。

しかし、おれの心の中のアーチャーが、あの犬っぽい目つきで「それでいいのか……」と語りかけてくるのも事実である。そのへんの問題意識について、ひとまず子供向け映画として折り合いをつけつつ着地したオチも、『スモール・ソルジャーズ』のいいところだと思う。

アメリカ製アクションフィギュアが絶好調だった時期の匂いを満喫しつつ、90年代的な世の中への問題意識を掘り返す。公開から20年以上経過した今だからこそできるそんな楽しみ方を、ぜひとも試してみていただきたい。
(しげる)

作品情報

Netflix
『スモール・ソルジャーズ』
1998年 1時間49分

出演:キルステン・ダンスト、グレゴリー・スミス、ジェイ・モーア、ほか

あらすじ:検査を経ることなく発売された兵隊のおもちゃ、コマンド・エリートが、なんと勝手に動き出して大暴れを開始。おもちゃの軍隊と子供たちの激しい戦争が始まる!

視聴ページ:https://www.netflix.com/title/20129240