フィリピン中部イロイロ州ディングルで豪華クルーズ船の技師チェロキー・カパジョさんの写真を持つ兄弟(2020年6月29日撮影)。(c)AFP

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【AFP=時事】沖合の船の中に何か月も足止めされているインド人の船員テージャスビ・ドゥセージャ(Tejasvi Duseja)さん(27)は、家に帰ることを切望している。新型コロナウイルスによる国境閉鎖とロックダウン(都市封鎖)で、船員20万人以上が船に取り残されている。

 貨物船の技術者から豪華クルーズ船の給仕係に至るまで、世界中の海上で働く人たちを巻き込んでいるこの状況について、国連(UN)は人道危機の高まりと警告。数人が自殺したとの報告もある。

 これら多くの船員が、予定の乗船期間終了後も何か月も船に閉じ込められているのは、渡航制限のために船員の通常の交代が妨げられているからだ。

 インド人所有の貨物船で働くドゥセージャさんは6月末、マレーシア近くの海上で、ワッツアップ(WhatsApp)やフェイスブック(Facebook)のメッセンジャー(Messenger)を通じてAFPに「精神的には、もう限界だ……だがまだなんとか持ちこたえているのは、他に選択肢がないからだ」と述べた。

 ドゥセージャさんは、船を下りることができないでいる約3万人のインド人船員の一人だ。7か月の契約を数か月延長した後で、コロナの流行が始まった。「私が最後にこの全長200メートルの船から下りたのは、2月だった」と語った。

 船員らは通常は6〜8か月間の契約で働き、その後、下船して飛行機で出身国に帰る。その時に別の船員らと交代する。だが新型ウイルスが世界中を襲い、国をまたいだ移動がまひしたため、それが突然、できなくなった。

■「大地にキス」したい気分

 フィリピン人技師のチェロキー・カパジョ(Cherokee Capajo)さん(31)はウイルスによる封鎖のため、ほぼ4か月、船内に足止めされた。

 カパジョさんがコロナのことを耳にしたのは、1月後半に米フロリダ州でクルーズ船運航最大手カーニバル(Carnival)が所有する豪華クルーズ船「カーニバル・エクスタシー(Carnival Ecstasy)」に乗船した時だった。

 じきに、日本での「ダイヤモンド・プリンセス(Diamond Princess)」を含め、同社のクルーズ船数隻が、深刻なコロナ感染に見舞われた。

「カーニバル・エクスタシー」の乗客らが3月14日に米フロリダ州ジャクソンビル(Jacksonville)で下船した後、カパジョさんと同僚らはさらに7週間、船内に足止めされた。

 同船は5月2日、バハマに到着。そこでカパジョさんを含めた船員1200人は別の船に移り、インドネシアのジャカルタに連れて行かれた。その後、6月29日にフィリピンのマニラ湾(Manila Bay)に到着した。

 カパジョさんは約2週間後に隔離を終えて上陸した際、「大地にキス」をしたいぐらいの気分だったと語った。

 その後、フィリピン中部の出身地近くで2度目の隔離を終えたカパジョさんは、フェイスブックのメッセンジャーを通じてAFPに「船員として過ごしてきた中で、最もつらい経験だったかもしれない。なぜなら毎日、何が起きるか分からなかったから」と語った。

■命を絶つ船員も

 この試練は多くの船員らの心の健康にも大きな打撃を与えている。自らの命を絶った船員の報告もあった。

 米沿岸警備隊によると、5月にフロリダ州沖に停泊したクルーズ船「スカーレット・レディー(Scarlet Lady)」のフィリピン人船員が、「自傷とみられる」行為で死亡した。

 精神的重圧は、家で帰りを待つ家族らにものしかかっている。

 インド南部の港湾都市コチ(Kochi)出身のプリヤムバダ・バサンス(Priyamvada Basanth)さんは、香港の会社が所有する船で8か月間、海に出たままの夫といつ会えるのか、分からないでいる。

「政府は何もしようとしない」とバサンスさんは言う。「ただ帰って来てほしいのです」

 英国を拠点とする船員支援グループのフィリピン事務所を運営するララ・トレンティノ(Lala Tolentino)さんは、3月以降、船に閉じ込められた船員らから助けを求める声が「数百件」寄せられていると語った。

 ヒマラヤ山脈(Himalayas)の丘陵地帯のインド北部デラドゥーン(Dehradun)出身のドゥセージャさんにとっては、この試練の終わりは間近だ。

 ドゥセージャさんは先ごろ、ワッツアップでAFPに「まだ船上です」とメッセージを送ってきた。「でも精神的には、ほんの少しだけ良くなっている。というのも、8月半ばにはついに下船できると言われたのです」

【翻訳編集】AFPBB News

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