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 残り3周、イギリスGPの決勝レースはフィニッシュ直前で大きく動いた。

 2位のバルテリ・ボッタスが突如、左フロントタイヤのパンクに見舞われて後退。これを見たレッドブルは2位に上がったマックス・フェルスタッペンをすかさずピットインさせて、同様のトラブルを未然に防ぐと同時にソフトタイヤでファステストラップを獲りにいった。


レース後にパンクしたタイヤの状態を見るハミルトン

 その試みは見事に成功した。

 しかし、なんと残り半周というところで首位ルイス・ハミルトンにまでパンクが発生。ハミルトンはショルダーからトレッドが外れたタイヤでマシンをゴールまで運び、なんとかフェルスタッペンの前でコントロールラインを越えてイギリスGPの勝利を手にした。

 34秒あったフェルスタッペンとの差は5.856秒にまで縮まったが、もしピットインしていなければ、勝利はフェルスタッペンのものだった。ピットイン前のギャップはわずか14秒だったからだ。

 しかし、ピットインの決断を後悔していないとフェルスタッペンは言いきった。それどころか、2位という結果に満足していると。

「あとからでなら、何とでも言えるよ。僕らもタイヤが最後まで保つかどうか確信はなかったし、同じ周にピットインしたクルマがパンクに見舞われていたわけだから『よし、じゃあ確実に2位を確保するためにピットインしよう』と決めた。

 そのせいで5秒差で優勝を逃したという意味では不運だったけど、それはルイスとバルテリがパンクに見舞われたからでもあるんだから、ラッキーでもある。とにかく今日の彼らは速かった。本当なら僕らは3位にしかなれなかったんだから、僕は2位に満足。まったく落胆はしていないよ」

 それよりも重大なのは、チャンスが転がり落ちてくるのを待たなければ優勝とはほど遠い位置にいるという現実だ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは言う。

「予選での大きな差、レースペースでも明らかに負けているなか、すべてがうまく噛み合ってチャンスが落ちてきたら必ず掴み取って結果を残すのは大切なことです。それは年間を通してみた時にも、チームのモチベーションという点でも重要ですから。

 ただし、それが自分たちの真の実力として喜べるかというと、それはまた話は別。落ちてきたものを拾えたことは喜べても、落ちてくるのを待たなければならなかったとことは、まったく喜べません」

 イギリスGP決勝はほとんど順位変動もなく、退屈なレースだった。

 メルセデスAMG勢だけが予選で1秒もの大差をつけ、決勝ではその差が縮まったとはいえ、彼らが後続のペースを見ながらタイヤを労るためにペースコントロールをしているのは明らかだった。

 フェルスタッペンは早々にメルセデスAMG勢と戦うことをあきらめて自分の走りに徹し、後方のシャルル・ルクレールとは1周1秒のペース差があったため、終始ひとり旅だった。

 チームに『水分補給は忘れていないかい?』と、普段ならレースエンジニアがドライバーに伝えるメッセージを伝えて笑わせてみたりもした。要するに、彼にとってはそのくらい、緊張感の必要とされないレースだったということだ。

「僕にとってはとても退屈なレースだったよ。レースのある時点では、前にも後ろにもマシンが見えない状態だったからね。だからレースエンジニアに『忘れずに飲み物を飲んでね』って言ったんだ。

 まだまだ僕らは進歩しなければならないけど、これが現状だ。マシンのことをいろいろと見つけていかなければならないし、ドライビングを楽しむしかないよ」

 開幕3連戦で不安定なマシン挙動に大きく苦しんだレッドブルは、1週間のインターバルの間にデータ分析を進め、シルバーストンの金曜日には様々なテストプログラムを実施した。

 その甲斐あって、RB16の挙動はハンガリーGPに比べて大きく進歩した。低速コーナーでのアンダーステアやエイペックス付近での不安定さはやや残っているものの、ハンガロリンクの入口や出口などで見られた、ところ構わず生じる唐突な挙動変化はかなり減っていた。


戦いを終えたフェルスタッペンとハミルトン

「ハンガリーGPと比べれば、間違いなくよくなっているよ。まだ改善しなければならないところはあるけど、今は純粋にマシンバランスの改善に取り組むことができている。

 どこからパフォーマンスを引き出すことができるのかは理解できているので、あとはいろんなパーツをマシンに乗せて速くするだけ。単純に時間の問題だ」(フェルスタッペン)

 それでも、予選では1.022秒差をつけられてしまった。

 全力で走り続けるわけではない決勝では0.3〜0.5秒程度のペース差で済んだ。とはいえ、純粋なパフォーマンス差という点では、開幕3戦と大きく変わってはいない。

「メルセデスAMGに対して非常に大きな差をつけられているのは事実。開幕3戦と比べても、状況的には何も変化はないと思います。今週はいろんなことをアップデートしながらセッティングを煮詰めてきましたが、それでも絶対値としてはまだまだ差があります」(ホンダ・田辺テクニカルディレクター)

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 もちろん、レッドブルもホンダもイギリスGPの3日間で得たデータをさらに解析し、1週間後に再びシルバーストンで行なわれる70周年GPでは少しでもメルセデスAMGとのギャップを縮めるべく、最大限の努力をするだろう。

 しかし、それが簡単な仕事ではないことは田辺テクニカルディレクターも認める。

「できるかぎりのことをして、少しでもメルセデスAMGとの差を詰めたいと思います。ただ、F1は昨日今日で状況が激変するレベルの戦いをしているわけではありませんので、向上は目指しますが、難しいことだとも思っています」

 その現実は、フェルスタッペンもはっきりと認識している。

「普通なら来週までに追いつくのは無理だ。彼らとの差はあまりに大きすぎるからね。0.1秒や0.15秒は縮められるかもしれない。でも、今日の僕らはレースでも毎周0.4〜0.5秒遅れだったんだ。それは来週までに縮められるようなものではない。

 僕は優勝争いがしたい。ただ、夢を見るのも期待を抱くのも自由だけど、現実的でなければならない。無茶な夢を抱いているばかりでは、それは実現しない。努力し続けるしかないんだ。

 でも、今日だってとても退屈なレースだと思っていたら、残り3周でいろんなことが起きた。だから僕は、来週もトライするよ。プッシュし続けて、いい結果を手にしたい」

 RB16のパフォーマンスが圧倒的に不足しているなか、開幕戦のリタイアのあとに3戦連続で表彰台を獲得しているのは、フェルスタッペンのドライビングによるところが大きい。

 現実を直視し、可能な対策は打ち、パッケージが持つ最大限の力を引き出す。今のレッドブル・ホンダにできるのは、それだけだ。

 チャンスが落ちてくるのを待つのではなく、自分たちの力で掴み取りに行けるようになるまで、チームもドライバーもパワーユニットマニュファクチャラーも、すべてが一体となって前進を続けて行くしかない。