今秋に配信されるiPadOS 14で目玉になる新機能が、手書きの文字をデータに変換する「スクリブル」だ(筆者撮影)

6月にオンラインで開催されたWWDCでは、iPadの新たな進化の方向性も見えてきた。秋に配信されるiPadOS 14では、Apple Pencilの用途が大きく広がる。目玉になるのが、手書きの文字をデータに変換する「スクリブル」だ。残念ながら、同機能は当初、英語と中国語のみの対応となるが、アルファベットや数字は、普段、日本語を使っているユーザーでも利用する機会は多い。


この連載の一覧はこちら

スクリブルは単に手書き文字を変換するだけでなく、範囲選択や文字列の削除などにも利用できる。日本語には非対応ながら、利用機会は多くなりそうだ。

数字や簡単なアルファベットの文字列であれば、タッチパネルに表示されたキーボードにタッチするより、素早く入力できる。昨年、iOSから派生する形で誕生したiPadOSだが、iPadOS 14では、ウィジェットをホーム画面に置くことができなかったり、アプリ一覧のAppライブラリーが搭載されなかったりと、iOSとは異なる方向に進化している。

秋の正式版配信に先立ち、アップルはパブリックベータ版を公開した。アップルのサイトで簡単な登録を済ませてから、プロファイルをインストールするだけで、ユーザーなら誰もが利用可能だ。バグなどが残っている可能性もあるため、万人にオススメすることはできないが、一足先に使ってみたい人は、インストールしてみてもいいだろう。

ここでは、そんなiPadOS 14の注目機能の中から、ビジネスに役立ちそうなものをピックアップして紹介する。なお、パブリックベータ版の画面は本来、一般公開が禁止されているが、本稿では取材に基づく特別な許可を得たうえで掲載している。

1.検索やURLの入力に便利な「スクリブル」

スクリブルとは、手書きの文字を読み取り、文字データに変換する機能のこと。iPadOS 14の目玉といえる機能の1つだが、残念ながら日本語には非対応。Apple Pencilで手書きのメモを取りながら、それをコピーしてメールにペーストして送る……といったことができるのは、英語と中国語のみとなる。

ただし、スクリブルは、メモのような特定のアプリだけでなく、SafariのURL欄や各アプリの検索欄など、利用シーンの幅が広い。英語と数字は認識できるため、メモ以外の用途で利用する機会はありそうだ。

便利なのが、URLを入力するようなときだ。これまでは、URL欄をタップし、キーボードが表示されたら、それを英語に切り替えて入力していたが、スクリブルを使えば、手書きでURLを書き込むだけでよくなる。


アルファベットを書いて、見たいサイトを表示するといった使い方が可能になる(筆者撮影)

例えば、東京経済オンラインを表示したい場合、URL欄にいきなりApple Pencilを当て、「toyokeizai」と手書きすると、閲覧・検索履歴に基づいた「トップヒット」に東洋経済オンラインが表示される。

TwitterやFacebookなど、もともとのサービス名が英語の場合も、検索しやすい。Apple Pencilを使ってメモを取りながら、参考となるサイトを見るようなときは、キーボードで入力するのが少々面倒。スクリブルを使えば、Apple Pencilを置くことなく、そのまま見たいサイトを表示できて便利だ。

いずれは日本語にも対応するはずだが、逆にスクリブルで検索しやすいよう、ファイル名を英語や数字にしておくのもお勧めだ。そうすることで、ファイルアプリで必要なアプリを検索するのが楽になる。スクリブルによる検索は、標準アプリ以外でも利用できる。

現時点ではパブリックベータ版のためか、アプリによっては動作がおかしくなることもあったが、筆者が試した限りでは、手書きアプリの「Good Notes」や、「Googleマップ」「Googleフォト」「メッセンジャー」などでは、問題なく検索できた。日本語に対応するのを気長に待ちながら、まずは検索で活用するといいだろう。

2.スクリブルは「範囲指定」にも役立つ

スクリブルは、手書き文字をデータに変換するだけの機能ではない。文字列の消去や範囲指定といった操作にも対応しており、こういった用途であれば、日本語に対応していなくても効果的に利用できる。

筆者がとくに役に立つと感じたのが、範囲指定だ。範囲指定はメモ帳やPagesなど、メールなどの一部純正アプリでしか利用できないが、タッチで範囲を決めていくより直感的だ。もちろん、こうしたゼスチャーでの操作は、言語に関係なく利用できる。


文字をなぞるか、丸で囲むだけで範囲選択になる(筆者撮影)

方法は、指定したい文字に横線を書き込むか、指定したい範囲を丸で囲むだけ。これで、文字が範囲選択された状態になり、「カット」や「コピー」といったメニューが表示される。タッチで同じことをしようとすると、大体の場所をタップ、もしくはダブルタップしたあと、範囲選択のバーを動かして正確に範囲を選択しなければならなかった。スクリブルを使えば、線を引くだけと操作もシンプルになる。コピペや文章の差し替えといった編集作業をしたいときに、重宝するはずだ。

文字を削除したいときは、ジグザグの波線を文字の上に重ねるように書いていけばいい。一気に文字を消すことが可能なため、キーボードで1文字ずつ削除していくより素早く操作できる。こちらも、日本語で利用できるため、メモやメールを書いているときに活躍する。手書きや絵を描くために必須だったApple Pencilの役割が広がり、iPadの一部操作にも使えるようになったというわけだ。

ほかにも、スクリブルでは、文字列を挿入したり、文字と文字の間を統合するといった操作を行える。ただし、文字列の挿入は、その後すぐにスクリブルで文字を書いてテキストデータに変えることが前提になっている操作のため、日本語に非対応のままだと少々使いづらい。

英語とは違い、単語と単語の間にスペースを開けない日本語では、文字の間にスペースを入れたり、スペースを削ったりする「統合」も出番は少ないだろう。そのため、まずは範囲指定と削除の操作を覚えておくようにしたい。

3.電話番号のメモに便利、メモアプリから直接発信も

英語と中国語のみの対応となるスクリブルだが、数字に関しては万国共通。日本語に設定したままでも、数字は正確に読み取って文字データに変換してくれる。そのため、電話番号や証券コード、日付などの数字だけをメモに取りたいときには、スクリブルを活用することができる。中でも便利なのが、WWDCでも紹介されていた、電話番号をメモするケースだ。

iPhoneで電話中に、電話番号をメモするシーンを想像してみてほしい。通常なら、iPadでメモを取って、後からその電話番号に電話したいときは、iPhone側で電話アプリを起動し、数字を1文字ずつ入力していく必要がある。スクリブルを使うことで、この操作を一気に短縮することが可能になる。

電話中に電話番号をメモしなければならくなったときには、まずApple Pencilを持ち、iPadの画面をタップしてみよう。すると、自動的にメモが立ち上がる。画面下には、ペンや定規などのツールが並んでいるはずだ。ここでは、「A」と書かれたペンを選択する。これがスクリブルに対応したメモだ。

あとは電話番号を手書きでメモすると、自動的にその数字が文字データに置き換わる。必要に応じて、ペンを切り替え、名前や用件などをメモしておいてもいいだろう。そのメモを開くと、電話番号に下線が引かれていることが確認できるはずだ。この状態で電話番号をタップすると、メニューが表示される。


電話番号をスクリブルで書き、iPhone経由で発信することが可能だ(筆者撮影)

ここで、「iPhoneで○○○に発信」を選ぶと、iPhoneのモバイル通信を経由して、メモを取った電話番号に電話をかけることができる。iPhone経由で電話を発信したいときは、あらかじめ「設定」の「FaceTime」にある「iPhoneから通話」がオンになっているかを確認しておくようにしたい。発信時には、iPhone、iPadともに、同じWi-Fiに接続している必要がある。

ここまで見てきたように、スクリブルはiPadにおけるApple Pencilの役割を、さらに広げるものだ。買ってはみたものの、意外とApple Pencilの出番が少なかった人にとっては、うれしいアップデートだ。まだパブリックベータ版ではあるが、アルファベットや数字の認識精度は想像以上に高かった。正式版のiPadOS 14が配信された暁には、ぜひ試してみてほしい機能といえる。