半沢直樹」のヒットで、主人公の妻を演じる上戸彩さんにも注目が集まっています(写真:ゲッティ/共同通信イメージズ)

7年ぶりの続編となる「半沢直樹」(TBS系)がスタートしてから早2週間が経過。第2話の世帯視聴率は今年トップとなる22.1%を記録したほか(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、銀行から証券会社に出向させられた半沢直樹(堺雅人)の奮闘が早くもネット上の話題を独占する勢いを見せています。

物語の本筋は、IT企業の買収をめぐる攻防と、それに関連する子会社と親会社の熾烈なバトルであり、序盤から前作以上に力の入ったシーンが続出。また、香川照之さんが演じる大和田暁の「施されたら施し返す。恩返しです」「お・し・ま・い・DEATH!」というセリフがホットワードになるなど盛り上がっています。

そんなシリアスかつパワフルな物語の中でアクセントとなり、半沢直樹と堺さん、さらには視聴者を癒しているのが上戸彩さん。上戸さんは前作に続いて半沢の妻・花を演じ、「ほとんど男だけの物語に女性目線を入れる」という役割を担っています。

人気作ゆえに花という役柄と上戸さんの演技には賛否両論がありますが、否定的な声の大半は誤解によるものでした。とりわけ上戸さんの仕事や生き方に向き合うスタンスは、性別を超えてビジネスパーソンが参考にしたいところがあるのです。

半沢直樹・花の夫妻は正反対の性格

まず花の登場シーンを振り返ることで、否定的な声の誤解を解いていきましょう。

第1話、第2話とも花の出番は一度ずつ。第1話は半沢と電話で話すシーンで、「来れない? 来れないってどういうことよ。今日は結婚記念日なんだよ。あのレストラン予約するのどれだけ大変だったか知ってる?」と不満を漏らしました。

しかし、花は話しながら気を取り直し、「まあいいわ。今さらおじさんとおばさんで祝うってのも何だしね。それにその仕事、かなり大きいんじゃない? 声聞けばわかるもん。けっこう張り切ってるんでしょ、直樹。何か銀行にいたときみたい。じゃあこっちはお花の教室の友達誘うから、直樹はどうぞお仕事頑張って。でも若いときみたいに無理しないでよ。もうおじさんなんだから」と笑って電話を切りました。

第2話は半沢が花の手料理を食べているシーン。テーブルには、豆腐と三つ葉の味噌汁、かつおのたたき、豚の角煮、冷奴、お浸しなど、「おじさん」の年齢を踏まえて、かつてよりもヘルシーなメニューが並び、半沢は満足げな表情を浮かべています。

そこに「お花の教室の奥様たち、『どの株が上がるのかしら。お宅のご主人詳しいんでしょ』なんてしつこく聞かれて困ってるの。ねえ、どの株が上がるの?」と花が声をかけました。

半沢が「それは俺が聴きたいな」といなしつつ、「株の値段には金額だけでは表せない人の思いが詰まってる。儲かるかどうかじゃなくて、好きになるかどうかで選んだほうがいいよ。ラブレターを送りたくなるような会社をね」と熱弁すると、「良く言うよ、ラブレターなんてもらったことないくせに……(無反応の半沢を見て)エッ?あるの?ラブレターだよ。ねえねえ、どんな内容?」と思わず嫉妬してしまうほほえましいシーンでした。

どちらも「花は思ったことを率直に話し続け、それを半沢が素直に聞き入れる」というシーンであり、「正反対の性格だからこそ相性がいい」という夫婦像が見えてきます。

半沢直樹が唯一勝てない相手が花

どちらも証券会社や銀行とは、ほとんど関係のないシーンであり、だからこそ半沢にとって花の存在は癒しであり、視聴者にとってはひと息つけるタイミング。仕事中は険しい顔の半沢が家に帰ると穏やかな顔になり、上司を呼び捨てにする半沢が「花ちゃん」と目尻を下げていることからも、夫婦の時間に癒されている様子が伝わってきます。制作サイドは、「夫婦のシーンで半沢の人間味やパワーの源を感じてもらおう」としているのです。

たとえるなら、シリアスなビジネスのシーンは剛速球のようなもの。しかし、豪速球でも投げ続けていると目が慣れて凄さが薄れてしまうように、シリアスなシーンも続けるほど視聴者がそれに慣れてハラハラドキドキしなくなってしまいます。

だからこそドラマにはひと息つけるスローカーブのようなシーンが必要であり、他の作品でも主人公が立ち寄る居酒屋、バー、カフェなどのシーンをはさむのが定番。「半沢直樹」では半沢と花のやり取りが、そのスローカーブに当たり、「このシーンはいらない」と否定的な声をあげている人も、それを見ることでシリアスなビジネスのシーンをより楽しめていることに気づいていないだけなのです。

また、「花は銀行マンや証券マンの妻には見えない」という声もありますが、それこそが制作サイドと上戸さんの狙い。花は優しく背中を押すタイプではなく、明るく背中を叩くタイプの女性であり、あまり考えずに言いたいことを言ってしまう天性の明るさが半沢の救いになっているのです。
頭が良く弁の立つ半沢が唯一、「かなわない」と思っているのが花。ステイタスの高いビジネスパーソンたちと戦い、必ず勝利を収める半沢にも「実は勝てない人がいる」ことが人間味を感じさせるなど、妻が夫の魅力を引き出しているのです。

実は続編ドラマの原作小説『ロスジェネの逆襲』に花は登場しません。それでもわざわざ脚本に組み込んだ理由は、「作品のバランスを考えたから」「半沢とのやり取りが好評だったから」の2点。小説よりも見る人の幅が広く、数も多いドラマでは、シリアス一辺倒にならないバランス感覚が重要であり、多少のアンチを気にするよりも既存ファンの期待に応えようとする姿勢が求められます。

あえてビジネスパートの台本を読まない理由

次に演技を含む上戸彩さんの仕事ぶりに対する誤解を解いていきましょう。

上戸さんの演技を疑問視し、「1人だけ浮いている」と指摘する声がありますが、彼女も演出家も、あえて物語の中から浮いたキャラクターを作っているのです。前述したように、花の登場シーンはシリアスなビジネスシーンを際立たせるためのアクセントであり、半沢が唯一かなわない人。つまり、浮いているくらいのほうがフィットするのです。

しかし、この「1人だけ浮いている」というキャラクターの演技は、視聴者が思っている以上にそのさじ加減が難しいもの。やり過ぎても物足りなくても、「邪魔」「中途半端」などと言われがちな役柄であり、演じるのが上戸さんでなくても批判の声は挙がっていたでしょう。

上戸さんはそんな実は難しい役を演じるにあたって、花の視点を大切にするために、「台本は自分の出番だけを読んで、ビジネスパートを読まないようにしている」そうです。専業主婦の花は半沢の仕事詳細を知らないだけに、上戸さんは同じ状態で撮影に臨み、だからあのような明るく元気で能天気なキャラクターを迷いなく演じられるのでしょう。

そんな明るく元気で能天気な花を上戸さんは、「自分に凄く似ている」とコメントしていました。実際、上戸さんは演技の技術以上に、天性の明るさや元気を視聴者に伝えられる稀有な女優。それらを伝えられるのは、「全力で演じたい」と口グセのように話すなど、スタッフや視聴者の期待に応えようとする一生懸命さがあるからで、演技力以前の姿勢で引きつけられる女優なのです。

あらためて上戸さんの女優業を振り返ると、15歳の2000年に出演したデビュー作「涙をふいて」(フジテレビ系)では、父を火事で失い、母は意識不明の重体となる中学生という複雑な役柄を演じました。しかも同作は「もう1つの『ひとつ屋根の下』」と言われる隠れた名作。主演の江口洋介さん、内田有紀さん、いしだあゆみさん、いかりや長介さんらに加えて、兄弟役に二宮和也さん、神木隆之介さんなど、デビュー作から名優たちと共演していたのです。

その後、2001年の「3年B組金八先生」(TBS系)で性同一性障害の生徒役、2003年の「高校教師」(TBS系)で余命わずかだと思い込み教師に恋をする女子高生役、2007年の「暴れん坊ママ」(フジテレビ系)で当時22歳にして後妻かつ継母役、2008年の「セレブと貧乏太郎」(フジテレビ系)でホテル王の令嬢で世間知らずのわがままセレブ役、2010年の「流れ星」(フジテレビ系)で借金の肩代わりに肝臓移植のドナーとなるイメクラ嬢役、2013年の「いつか陽のあたる場所で」(NHK)で昏睡強盗の罪で7年間服役して家族から絶縁された女性と、世間のイメージ以上に難しい役に挑み続けてきました。

1970年代の名作漫画ヒロインを演じた2004年の「エースをねらえ!」(テレビ朝日系)、2005年の「アタックNo.1」(テレビ朝日系)も含めて、無茶振りのようなオファーが多かったにもかかわらず、スタッフや視聴者の期待に応えようと逃げずに向き合ってきたのです。

しかも2015〜2016年に産休・育休をもらうまで上戸さんは働きっ放し。なかなか家に帰れず、ほとんど寝られないハードな日々が続き、「逃げ出したい」という思いを振り切って、ひたすら演じ続けてきました。これまで数千人の芸能人を取材してきましたが、「長年に渡って期待に応え続ける」というプロ意識で上戸さんは芸能界屈指。実際インタビューしたときも上戸さんは、「せっかく期待してもらえているので頑張りたい」「初心を忘れずにいただいた仕事と向き合いたい」などと脱力した笑顔で話していました。

代表作の1つとなった「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」(フジテレビ系)では不倫に溺れる女性を好演しましたが、これも、迷い戸惑いながらも、「『不倫は絶対にしたくない』と思っている上戸さんに演じてもらいたい」という熱烈なオファーに応えた結果。上戸さんは今年で女優デビュー20周年を迎えますが、期待に応え続けることで求められる役柄も、演じられる役柄も、徐々に広がっていったことがわかるのではないでしょうか。

もし上戸さんが自分のやりたい仕事を中心に活動していたら、ここまで役柄の幅が広がることも、人気を保つこともできなかったかもしれません。最近は20代前半の早い段階から、「自分で出演作を選びたい」という俳優も少なくありませんが、上戸さんは“プロとして他人の期待に応えること”の大切さを教えてくれているのです。

育児との両立に見るブレない姿勢

現在の上戸さんを語る上で欠かせないのは、家族と子育て。彼女は2012年9月14日、27歳の誕生日にEXILE・HIROさんと結婚し、2015年8月に長女、2019年7月に長男を出産しました。

上戸さんは結婚以前から何度となく「家族がいちばん大事」と話し、出産後は「子育て第一」という言葉を語っています。また、あれだけ多くの仕事をこなし続けてきた上戸さんが第一子出産後は1年間の休みをもらっていました。それ以外でも、基本的に仕事を家に持ち込まず、「セリフは子どもが寝てからか、移動中に覚える」など、仕事と育児をしっかり両立。普通はここまで「子育て第一」と明言してしまうと、人気者でもオファーが減ってしまうものですが、上戸さんへのオファーが絶えないのは、そのスキルと人柄が評価されているからにほかなりません。

もともと上戸さんは女優を目指していたわけではなく、子ども時代からの夢は保育士。「芸能活動をはじめてからも保育士の夢はあきらめられず、女優業を辞めることも考えた」と何度も語っていました。しかし、現実や責任などを考えた上戸さんは、その夢をあきらめるための区切りとしてチャイルドケアのライセンスを取得。「やりたいこと」と「求められていること」の整理ができるという点では、一流のビジネスパーソンに通じるところがあります。

現在の「子育て第一」という姿勢を支えているのが、CM女王としての顔。女優デビューからの20年間で積み重ねたCM出演数は女性芸能人トップクラスであり、「子育て第一」の今も、短時間の撮影で終わるCM出演のオファーは受けやすいのです。

これを所属事務所の目線で見たら、「短い撮影時間で高額を稼げるCM出演は生産性の高い仕事」であり、それが多い上戸さんは極めて優秀なタレント。「子育て第一」のスタンスでもCM出演で稼げるのなら、何の問題もないのです。上戸さんが所属するオスカープロモーションはこの一年間で、米倉涼子さん、草刈民代さん、忽那汐里さん、ヨンアさん、長谷川潤さん、岡田結実さん、富岡佳子さんなど多くの所属タレントが退社する衝撃に見舞われました。その理由はさておき、上戸さんは子育てに追われる現在も所属し続け、最大限の生産性を発揮し続けることで、恩義のある同社に貢献しているのです。

“女優・上戸彩”を客観視できる強み

上戸さんは発売中の雑誌『FLASH』の巻頭グラビアを飾り、変わらぬ美しい姿を各メディアが一斉に報じました。また、「半沢直樹」続編の放送開始直前に、2013年の前作が特別総集編として放送されましたが、立て続けに見ても7年過ぎたとは思えない姿に驚きの声があがっていました。その間、2児を出産し、子育て第一の日々を送りながらも、その美しさをキープしてきたことがプロ意識の高さを物語っています。

かつて上戸さんは“女優・上戸彩”と自分自身を混在させず、どこか別の人間のように客観視していることを明かしていました。さらに、批判の声についてどう思うか尋ねたときも、「自分だけど、自分ではない感じもあるので、批判も意外に受け止められるんですよ」と語っていました。

自分を客観視できている上戸さんなら、批判ばかりではなく、それ以上に愛されていることに気づいているはずです。だから、もし現在の否定的な声に気づいても、彼女なら前向きな気持ちで花を演じられるのではないでしょうか。

制作サイドは、原作小説に登場せず、本筋の物語とは関連のない花を第2話・第3話の予告映像に2カットずつ登場させるなど、その重要性をわかりやすい形で示しています。今後はどのような脚色で花の活躍を描き、上戸さんはどう演じていくのか。原作小説を読んだ人もわからないパートだけに、最後までその姿は話題を集めるでしょう。