コロナを機にJR東日本は時間帯別運賃の検討を始めている(撮影:尾形文繁)

コロナ禍における外出自粛要請で人の移動が制限され、鉄道業界は大きな打撃を受けた。

資金繰り確保のため、設備投資の先送りや社員の一時帰休を余儀なくされた会社も少なくない。中期経営計画の中止を発表した会社もある。業界最大手のJR東日本も収入が毎月1000億円減っているという。

しかし、深澤祐二社長は「20年後、30年後を念頭において作った中期計画をコロナの影響によって、より早く実行しないといけなくなった」と話し、成長投資やイノベーション投資は減らさない方針を示した。

時間帯別運賃の検討、ITを活用した効率的な運行管理、さらには都市や地域の再開発まで、深澤社長がアフターコロナ時代における鉄道のあるべき姿を語った。

生活に合わせて運賃制度を変えていく

――コロナ後の鉄道需要をどう喚起しますか。

短期、中期という視点に分けて考えないといけない。短期的には、安心して電車に乗ってもらうための取り組みをいろいろと行っている。多くの人に移動してもらう旅行商品として、価格面だけではなく、1人でも過ごせるといったニーズに合わせた商品を提供しなくてはいけない。

難しいのは「3密」を避けることだ。たくさんの人が集まりそうな企画は今のタイミングでは出せない。来年の3月まで実施するなど、意識して期間を長く設定した企画を作っている。

中期的にはビジネスの基本的な部分の変革が必要だ。現在の運行ダイヤや運賃は従来の生活スタイルに合わせて定められてきた。通勤電車の利用のピークは朝の出勤時と夜の帰宅時にあったが、現在は朝のピークの山が従来の半分くらいになり、その前後の時間帯が増えて、台形のような形になっている。

夕方も終電ぎりぎりまで多くの人が乗っていたが、より早い時間帯に利用がシフトしている。こうした生活スタイルの変化に合わせて運賃制度を変えていきたい。例えば、定期ならピークの時間帯よりもピークの前後に乗るほうがメリットのある商品を検討している。

車両や要員も、その多くは利用のピークに合わせてそろえている。一方で満員電車に乗る利用者は大変つらい思いをして通勤している。軽井沢や那須塩原などから新幹線で遠距離通勤している人は、平日は都内で仕事をして週末に自宅でゆっくりと過ごしていた。それがコロナ禍で、都内で仕事するのは週に何日かとし、あとは自宅や最寄りのサテライトオフィスで仕事をするという例も見られる。

満員電車で通勤していた人が、もっと遠くに移住して新幹線で通う動きもこれからは増えてくると思う。毎月の利用が少ない人にとって通勤定期は割高となるので、こうした長距離通勤者向けに週何日かだけ使えるような商品を検討していく。

検討を重ねてきた時間帯別運賃

――定期券だけですか。

今のピーク時間帯は定期の利用者が多く、(新商品の検討は)まず定期でと考えている。最近はポイント制度も使えるようになってきているので、ポイントとの組み合わせも考えていく。


ふかさわ・ゆうじ/1954年生まれ。1978年東京大学法学部卒業、日本国有鉄道入社。1987年JR東日本入社。投資計画部長、人事部長、副社長などを経て2018年から現職(撮影:尾形文繁)

――時間帯別運賃は今回初めて出たアイデアですか。

今までも検討は重ねてきた。海外の導入事例もある。だが世界的に見ても日本ほど鉄道が使われている国はない。その非常にボリュームの大きい利用者に合わせて運賃の仕組みが作られていたため、なかなか手をつけられなかった。

今回、それを根本的に変えたい。われわれ自身がフレキシブルに物事を考えていくきっかけにしたい。

――時間帯別運賃を導入し、ピーク時の運賃を高くすると、「値上げ」と考える人もいるのでは。

在宅勤務などで鉄道の利用が減って、かつ運賃が下がると収入全体が減ってしまう。どういう仕組みにするのかはしっかりと議論しなくてはいけないし、利用者の理解を得ながら進めていきたい。

(検討期間は)1〜2年というスパンで考えている。ダイヤ改正は年1回(通常は3月)行っているが、そのタイミングに合わせるためには、どのようなことをやるのか。早めに決めなくてはいけない。


コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

――JR東日本単独で実施するのですか。

ダイヤ改正の場合は始発や終電での接続もあるし、相互直通している私鉄各社との関係もある。どのような取り組みをするかは各社それぞれに考えていくことだが、このような商品はどこも出していないので、事前に「こういうことをやります」という話はしていく。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では、「Suicaの今後の展開」「駅を中心とした再開発のあり方」「成長やイノベーション投資に対する考え方」についても語っている。