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多くの企業が社員へ成長を求めています。そのため日々さまざまな企業が、社員研修・OJT・業務を通じたチャレンジの機会などを提供しています。しかし、それが企業の成長に結び付く組織と、そうでない組織があります。両者の違いは一体何なのでしょうか?

本稿では、企業が継続して発展し続けるために必要な、組織に成長文化を根付かせる理論とその実践を記載します。

■違いは経験から学べる組織かどうか

ビジネスパーソンの成長にとって、「経験」がとても重要な財産であることは、多くの方が周知している事実です。またそれは、国内外の研究者によっても定説となっており、有名なものでは、アメリカの人事コンサルタント企業ロミンガー社による、ビジネスマンの能力開発の7・2・1の法則というものがあります。

社会人の能力開発の7割は現場での経験から、2割が上司や先輩からの学び、残りの1割が本や研修から、ということを示す法則です。

しかし、ただ単に経験を積めば良いものではないことも確かです。経験から学べるかどうか、何を学ぶかは人によって異なります。

企業でも、同じ経験年数なのに経験値が豊富で色んな持論を持ち、応用を効かせて働いている人もいれば、経験から学ばず同じことを同じまま繰り返しているだけの人もいるでしょう。

あわただしい日々の中で、ともすると「経験して終わり。すぐに次の経験へ」という繰り返しになりがちですが、社員が成長し発展し続けられる企業とそうでない企業の差は、業務を通じた経験を「知」に昇華させ、次に応用していくという循環の風土があるかどうかということになり、そこが企業の人材育成の要となります。

「うちは若手がなかなか育たない」「中堅社員の成長が停滞している」など、人の成長に問題を抱える場合は、自社の社員が経験から学ぼうとしているか、また、管理職は日々そういった育成を行っているか、経営陣はそういう価値観を根付かせているか、という事に焦点を当ててみてください。

■(参考)経験学習ができない人、組織の具体例

 ☐仮説を持たずに仕事に取り掛かかる
 ☐日常的に経験の棚卸と振り返りを行わない
 ☐失敗と成功、両方の検証を行わない
 ☐他者からフィードバックを求めない
 ☐失敗し、落ち込んで、立ち直り、それで終わりになっている
 ☐社員の相互学習に必要な信頼関係がなく、忖度の文化が根強い
 ☐上司の行うサポートの大半が、教える指導になっている
 ☐場当たり的な対処が多い
 ☐目の前の業務遂行や目標達成のみが目的となり、能力向上という目的を持てていない 

■経験学習モデルとは

では、経験を学びに変えるには、どのようにすればよいのでしょうか。この章ではそのプロセスを記載します。

経験を学びにつなげるプロセスとして、「コルブの経験学習モデル」という理論があります。これはアメリカの組織行動学者のデービッド・コルブ氏が提唱した、経験を活かした学び(気づき)を獲得するプロセスを体系化した学習モデルのことです。

このモデルでは、経験を単なる経験としてではなく、学び(気づき)へ昇華させ、概念化し、次の行動に活かすところまでを「経験」→「省察」→「概念化」→「実践」という4つのプロセスで定義しています。

経験から学ぶというのは、このプロセスを回すことと同義語です。このプロセスを経て初めて、学習の深化を図り、限定的な経験を汎用的な知に昇華することが出来るのです。

育成方針として、とりあえずやってみさせる、経験をたくさん積ませるということも大切ですが、企業の人材育成を機能させるには、むしろ、経験を積む前の仮説設定(試行)と、その後の省察や概念化プロセスをしっかりフォローし、次に活かせる学び(気づき)に結び付けていくということが必要です。

成長が早い人は、セルフマネジメントでこのプロセスを回しています。部下育成が上手な人は、このプロセスの中で部下がつまずくポイントを知っており、そこをサポートしています。

経験学習モデルを回せているか否かで、同じ1年を過ごしてみても、経験の質によって何年分も差が開くという事が起こります。

■経験学習モデルの実践編

とはいえ、毎日多忙な現場では、経験以外のプロセスは後回しにされがちです。その問題はどう解決すればよいのでしょうか。ここでは、経験学習モデルをいかに現場に根付かせるか、実践的な取り組み例を記載します。

■経験学習の場としての1on1ミーティング

多忙な現場では、経験学習モデルでいう経験のみとなり、他のプロセスが実施されないということが起こります。また、上司が部下の経験学習を、日常のコミュニケーションの中で促進しようとしても、多忙な日常では話が業務や目標の方にフォーカスしがちです。

しかし、省察には日常から離れ、自分を客観的に振り返る環境が必要です。また、経験学習を促進するためのコミュニケーションは、業務や目標ではなく社員個人にフォーカスし、社員の経験や考えを解きほぐしていく必要があります。

そのためにも、日常とは別に、社員の経験学習を促進するための機会である1on1ミーティングが有効とされています。

このように、やった方が良いこと、緊急ではないが重要なことは、個人の裁量に依存せず、企業の体制として遂行していくのが、着実に成長風土を根付かせる秘訣です。

■育成者のコーチングスキル強化

経験学習の促進で鍵を握るのが、物の見方の視点を変え、そこから学び(経験)を生むための、良質な問いかけです。全員が自分自身へ問いかけを行い経験学習のプロセスを完結できる状態がベストですが、様々な観点で経験を捉えていく過程では、第三者の客観的な視点が助けになる事でしょう。

その際、経験学習なのに上司が教えてしてしまうと意味がありません。逆を言うと、上司が問題解決策を持ち合わせていなくても問題ありません。上司の役割は、部下の経験学習のプロセスに介入し、良質な問いかけによってプロセスを促進する手助けをするだけです。

部下育成が上手い人は、問題解決策を沢山持ち合わせているのではなく、問題解決に必要な物の見方、考え方、視点のバリエーションが豊富にある人です。

また、4つのプロセスの中でも、人によって得手不得手が異なるため、部下に合わせたサポートが出来ることで、育成がより機能します。

例えば、「経験」の部分が苦手な部下には、今出来ていることに焦点を当てて自信を持たせたり、大きな目標も細分化して現実的なものにする等、背中を押すアプローチをしたり、

省察が不得意な部下には、「何をしたのか?」「これまでと違う点は何か?」「特に熱中できたことは何か?」「どんな感情を抱いたか?」など、振り返りのガイドとなる問いかけを行う、といった具合です。

相手から引き出し、相手に学び(気づき)を与え、行動を促す関わり方がコーチングといわれるものです。VUCAの時代では、前例の無い中でも、セルフマネジメントで問題解決できる人材へと育成する必要があります。

そのため、育成を行う側の人材には、旧来型の「教える・答えを示す指導」から、「相手を信じて待ち、自分で気づかせる」というコーチングマインドを培い、それを実践していけるコーチングスキルを習得してもらうことが、組織の経験学習を底上げするのに有効です。

■現場と座学をつなぐ研修プログラムのデザイン

7割が経験からの学びと前述しましたが、本や研修など、座学からの学びが不要なわけではありません。むしろ、一個人が直接的に経験できることは限られているため、環境変化に適応するには、直接経験からの学びだけでは不十分です。

自分がどのように環境の変化に適応すべきかに気づいたり、自分が持ち合わせていない観点に気づいたり、経験できない領域や、到達していない水準の世界を学ぶためには、本や研修などを通じて、間接的に他者の経験から学ぶ必要があります。

ただ、多くの社内研修は「研修をして終わりになっている」「実務にいかされていない」といった問題を抱えています。そこで、この経験学習モデルの4つのプロセスをセットで提供するような研修プログラムのデザインが有効です。

例えば、研修内容を実践してみる機会をコミットしたり(経験)、その振り返りを確実に行うため、研修対象者の上司を巻き込んで場をセットしたり(省察)、そこからどんな教訓を得たかを共有し合う場を設けたり(概念化)、そこで共有した教訓を仮説に、また仕事で実践する機会をコミットしたり(実践)という具合です。

■まとめ

松下幸之助は著書の「道をひらく」の中で革新についてこう述べています。

「とにかく考えてみること、工夫してみること、そしてやってみること。やり直してダメなら、もう一度工夫し、もう一度やりなおせばいい。

同じことを同じままにいくら繰り返しても、そこには何の進捗もない。先例におとなしく従うのもいいが、先例を破る新しい方法を工夫することの方が大切である。

(中略)失敗することを恐れるよりも、生活に工夫のないことを恐れた方がいい。

(中略)昨日と同じことを今日は繰り返すまい。どんな小さなことでもいい。どんなわずかなことでもいい。きのうと同じことを今日は繰り返すまい。」

どんな小さなことでも良いので、経験学習モデルを回しましょう。回す仕組みを作り、その価値観を自社に根付かせましょう。そのような企業風土が、運に左右されず連続的な成長を遂げるための、強固な経営基盤となっていきます。

大切なのは「理論を知り、それを試行してみる」という経験学習モデルを、自分を起点に回し始めるという事です。是非、成長する企業文化づくりにあなた自身から取り組んで下さいね!