本来なら自殺率が低い30代だった三浦春馬さん

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CIA謀殺説も流布

 7月18日午後、俳優の三浦春馬さん(1990〜2020)が東京都港区の自宅マンションで首をつった状態で発見され、病院で死亡が確認された。それから1週間が経過したが、SNS上では「信じられない」との悲鳴が今も書き込まれている。

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 ツイッターから、一部の投稿をご紹介しよう。(註:改行を省略したり、デイリー新潮の表記法に合わせたりした:以下同)。

《三浦春馬さんの自殺は、まだ信じられない(略)実感がないというのが正直な所です。自殺するとは思えません。他殺では?》(7月26日)

《Mステも曲出すのも決まってて数日前にドラマの宣伝のインスタも更新して、本当に自殺なのかなってレベル》(7月24日)

《やはり自殺は信じられないと強く感じます。何か深く悩んでいたとしても、自殺するような人ではない。誠実で、才能と生きる力にあふれ、他人に力を与えることのできる人》(7月23日)

 更に「三浦春馬 他殺」と検索してみると、ツイッターで「三浦春馬、CIA謀殺説」を筆頭に、他殺説がそれなりに拡散していることが分かる。

本来なら自殺率が低い30代だった三浦春馬さん

《三浦春馬さんは自殺ではなく他殺。CIAに殺された。っていう記事を見つけました。確かにクローゼットの中で自殺って不自然ですよね》(7月19日)

《三浦春馬くんって自殺じゃなくて絶対他殺だよね。。芸能界じゃありえそうな話》(7月23日)

《ドラマの撮影で日々頑張っていた人が、自殺は絶対にあり得ない。三浦春馬の体重は非公表だけど、身長178cmだから推定で65kgはあるはず。クローゼットの耐荷重量は? 首吊り自殺では絶対に耐えられない。》(7月18日)

自殺した芸能人84人を分析

 現実を認めたくないファン心理が、陰謀論に傾倒させているようだ。やはり「30歳の前途有望な売れっ子俳優が自死する」なんていうことは、通常あり得ない。ニュース速報を目にした時、誰もが「信じられない」と思ったはずだ。

世代別に見る自殺した芸能人

 まずはウィキペディアに記載されている「自殺・自決・自害した日本の著名人物一覧」を見てみよう。

世代ごとの自殺者:割合と人数

 ここには346人の氏名が記載されている。そのうち政治家や作家、スポーツ選手などを除外し、俳優、歌手、芸人、ミュージシャンといった“芸能界”で活躍した人々を抽出してみる。

 また生年月日が不詳だったり、薬物の過剰摂取など自殺か事故か曖昧だったりするケースも除外すると、84人が残った。

 この84人の男女比を計算してみると、男性が66・67%(56人)、女性が33・33%(28人)となった。

 念のため警察庁が2020年3月に発表した「令和元年中における自殺の状況」を見ると、19年の自殺者数は2万169人。うち男性が69・80%(約1万4000人)を占め、女性は30・19%(約6000人)、残り0・01%が性別不詳という内容だった。

 ウィキペディアから抽出した芸能人の場合でも、男女のパーセンテージはほぼ同じと言っていいだろう。

一般社会と芸能界では異なる傾向

 警察庁がネット上で公開している最も古い自殺者数の統計は1978年。2006年までは世代ごとの自殺者数を、「0〜19歳」、「20〜29歳」、「30〜39歳」、「40〜49歳」、「50〜59歳」、「60歳以上」の6カテゴリーに分類している(07年からは10歳ごとに80歳代まで細分化された)。

 先に集計した自殺した芸能人を、同じ6カテゴリーで区分し、人数の多い順に並べてみると、以下の表のような結果になった。

 芸能界では30代の自殺者が最も多いことが分かる。だが、これは一般的な傾向とは全く違うのだ。

 2015年から19年まで5年間で、自殺者の世代割合はどのようになっているのか、先に見た警察庁の資料から表を作ってみた。

 日本全体の場合、一貫して60歳以上が自殺者のワースト1位を占めていることが分かる。三浦春馬さんが分類される30代は常にワースト4位で、自殺者に占める割合でも1割台だ。

2012年から自殺者は減少

 そもそも市井の人間にとって、身内や身近な人々が自ら死を選んだというケースは非常に稀だ。

 厚生労働省が公開している人口動態統計によると、2017年の場合、日本人の死因トップはがんで27・9%。2位が心疾患で15・3%、3位は脳血管疾患で8・2%となる。この3つのパーセンテージを足すと51・4%と過半数に達してしまう。

 一方、自殺は9位で1・5%だ。日本は自殺者の多い国とされ、自殺者を減らすことが重要な政策課題であることは事実だろう。しかし、日常茶飯事として目にすることではないことも確かなのだ。

 ここ30年における自殺の傾向を見てみると、まず1998年が特異な年だったことに気づく。97年の自殺者は2万4391人だったのだが、98年に突然、3万2863人に跳ね上がってしまった。

 98年7月、当時の橋本龍太郎(1937〜2006)首相は参院選に敗北し、小渕恵三(1937〜2000)内閣が誕生した。

 98年と99年は名目経済成長率がマイナス。時事通信が選んだ98年の10大ニュースのうち、2位が「完全失業率過去最高」、5位が「日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破たん」だった。

自殺と無縁の世代

 厳しいデフレ経済に日本人が苦しんだ姿が浮き彫りになった。こうした不景気が自殺者を増加させた可能性があるだろう。

 小泉純一郎氏(78)が首相だった2003年に自殺者は3万4427人に達するが、この後、徐々にではあるが減少傾向を示していく。

 特に2012年12月に安倍晋三首相(65)による第2次安倍内閣が発足すると、自殺者は2万人台に減少。19年は2万169人となった。自殺問題について詳しい編集者が解説する。

「警察庁の統計で明らかになっていますが、自殺の動機1位は『健康問題』で、その主な病気は鬱病です。統計からは、60代以上の方々が病苦を理由に命を絶っているケースが多いことが分かります。ただし、自殺の動機は1つだけではなく、様々な要因がからみあい連鎖し合っていて、最終的には鬱病が引き金となって自殺に至るケースが多いことも判明しています。12年以降、自殺者が減少した理由としては、人口比率で最も多い団塊の世代が65歳以上となり仕事を辞めたために、仕事や職場での精神的ストレスが軽減したことを理由に挙げる分析もあります」

 いずれにしても、自殺者はもっぱら60代以上であることは間違いない。社会全体でも自殺者は減少している。

 そんな中、突然に絶大な人気を誇る三浦春馬さんが自殺した。特に60代以下の世代で、家族や知人が自殺したという経験を持つ人は少数派だ。強いショックを受けて当然だろう。

芸能界はストレス蔓延!?

 特にファンともなれば、気持ちの整理がつかず、「CIA殺害説」が流布するのも仕方ないのかもしれない。

 それにしても、警察庁の統計では12%台と決して高くない30代の自殺者割合が、芸能人の場合は28・6%でトップだ。

 更に、本来であれば10%前後のはずの20代でも、芸能界では14・3%に達する。一般的にはワースト1位である60歳以上と肩を並べるほどの高率という事態は、やはり興味深い。

 芸能界は20代や30代にとって、強いストレスを与える特殊な世界なのだろうか。今後、芸能人からどのような声が出てくるのか、やはり注目すべきだろう。

週刊新潮WEB取材班

2020年7月31日 掲載