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はじめに マクラーレン620Rとは

text:Wataru Shimizudani(清水谷 渉)

7月31日。マクラーレン・オートモーティブは、オートモビルカウンシル2020の会場で、「マクラーレン620R」を日本初公開した。

このモデルは、昨年の12月にワールドプレミアされている。

マクラーレン620R

マクラーレンのラインナップには、究極のアルティメット/中核のスーパー/入門用のスポーツという3シリーズ、さらに「GT」が設定されているが、この620Rはスポーツシリーズの最新モデルだ。

2017年に発表されたレース専用モデルの570S GT4をベースに開発された、いわばレーシングカーの公道バージョンといえる。

570S GT4は世界中のGTレースなどで、プライベーターのジェントルマンレーサーたちに数多くの勝利を与えてきた。

そんな570S GT4をベースに、公道での走行を楽しみながらサーキットに向かい、そのままレーシングカー並みの走りを味わえるという新モデル「620R」の概略を紹介していこう。

マクラーレン620R 外観&エアロダイナミクス

620Rの外観は、ボディサイズが全長4557×全幅1945×全高1194mm、ホイールベースが2670mm。

570S GT4をベースにしているが、公道走行の承認基準を満たすために、いくつかのモディファイがなされている。

マクラーレン620R

もっとも特徴的なポイントは、カーボンファイバー製のリアウイングだろう。よりクリーンな空気の流れを実現するため、ボディから32cmも上に装着してダウンフォースを増大させる。

このウイングは3段階の角度調整式で、ブレーキランプも内蔵している。角度を強めれば、リアのダウンフォースは最大で185kgになり、より高速でのサーキット走行が可能になる。

フロントのバンパーやスプリッター、そしてボンネットも570S GT4からリデザインされている。スプリッターの特徴的なエアロブレードとカットアウトは570S GT4からそのまま残されているが、カーボンファイバー製のボンネットにはダウンフォースの増大および車両上部のエアフロー除去のために、ノーズ部分にツインホールが設けられている。

フロントにおけるダウンフォースは、コース上の路面に低圧空気の渦を作り、さらに車体側面で空気の流れを加速してブレーキ冷却も向上させるダイブプレーンによって増大される。このダイブプレーンは、フロント全面のエアロパッケージがもたらす、65kgのダウンフォースのうち最大30kgの発生に貢献する。

マクラーレン620R 内装

サーキット走行を目的に生まれた620Rは、必要でない装備は可能な限り省略されている。

足もとにフロアカーペットはなく、助手席の前にはグローブボックスもない。エアコン、カーナビゲーション、オーディオといった快適装備も標準では設定されていない。ただし、これらは追加費用なしのオプションとして選択することはできる。

620Rの車内には、超軽量のカーボンファイバー製レーシングシート+6点式シートベルトが標準装備。

その代わり、超軽量のカーボンファイバー製レーシングシートや、6点式のシートベルトは運転席・助手席ともに標準装備。

ステアリングの12時の位置には、センターを示す赤いマークが入れられ、シートベルト着用時にドアを閉めるためのドアプル・ストラップも備わる。

また、長いシフトパドルやステアリングホイールのスポーク、センターコンソールにはカーボンファイバー製のパーツが用いられ、レーシングカーのキャビンにいるという感覚を高めてくれる。

さらに、サーキット走行でのデータを記録するために、マクラーレン・トラック・テレメトリー(MTT)システムも標準装備されており、センターダッシュ上の7インチ・タッチスクリーンに表示することができる。

マクラーレン620R シャシー

620Rにも、570S GT4と同じシングルピースのカーボンファイバー製「モノセルII」シャシーが採用され、これが強度と軽さのベースとなっている。乾燥重量の目標値は1282kgだ。

サスペンション形式は前後ともダブルウイッシュボーンだが、コイルオーバー式モータースポーツ用ダンパーを採用。

マクラーレン620R

このダンパーは手動で2通りの調整が可能で、コーナーあたり32段階の減衰力が選択でき、ドライバーが自分の運転スタイルやコースコンディションに合わせてカスタマイズできる。しかも通常のスポーツシリーズのモデルより6kgの重量削減を実現にしている。

ウイッシュボーンやアップライトは軽量のアルミニウム製。アンチロールバーとスプリングは通常のスポーツシリーズよりハードなものを採用し、ラバートップのマウントはステンレス製に換えられている。これにより、ステアリングのコントロールとフィードバックは顕著に向上。

ブレーキも、サーキット指向の設定ならカーボンセラミック製ディスクやアルミニウム製キャリバーが装着され、ハードなサーキット走行にも耐えられる。タイヤは、ピレリ Pゼロ・トロフェオRというセミスリックが標準装備となる。

マクラーレン620R パワートレイン

ミドシップされるパワーユニットは、570S GT4のものと同じ3.8LのV8 DOHCツインターボのM838TE型。

だが、レースのレギュレーションによる制約がなくなっため、エンジンのECUとターボチャージャーのマネージメントを再調整することにより、最高出力は620ps/7000rpm(570S GT4は570ps/7400rpm)と、スポーツシリーズでは最強の数値となった。

マクラーレン620Rのリアウイング

最大トルクも63.2kg-m/3500rpm(同61.2kg-m/5000ー6500rpm)を発生している。

このハイパワーにより、0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/h加速は8.1秒を達成。最高速度は322km/hに達する。

より硬度に優れたパワートレインマウントも採用し、加速中にドライブトレインにかかる力が軽減されるため、高負荷時の慣性効果が最小化される。

組み合わされる7速シームレスシフト・ギアボックス(SSG=DCT)が変速時間を超高速化し、さらにトラックモードではマクラーレンの慣性プッシュ技術によってフライホイールの運動エネルギーがさらに上がるため、シフトアップの瞬間にトルクが爆発的に高まる。

マクラーレン620R 装備

内装のページでも紹介したように、マクラーレン620Rは公道も走れるGT4マシンというコンセプトであるから、サーキット走行に必要のないものは可能な限り省略されている。

その代わり、サーキット走行に必要とされるものは標準で装着されている。

ストックの状態でサーキットまで走って行き、そこでオプションのフルスリック・モータースポーツ用タイヤに交換すれば、そのままの状態でサーキット走行を楽しむことができる。メカニカルな調整なしで公道走行車がサーキットを走行できるように開発されたのは、これが初めてだという。

620Rは350台の限定生産なので、センターコンソールには識別番号の入った専用プレートが取り付けられている。

また、すべてのマクラーレン車と同様に、ボディカラーやインテリアの素材などのチョイスで世界に1台だけのカスタマイゼーションも可能だ。マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)では、パーソナライゼーションのためのさらなるオプションを各種用意している。

マクラーレン620R 価格

マクラーレン620Rは、世界で350台の限定生産。日本での販売価格は、消費税込みで3750万円からとされている。

なお、日本向けの導入枠はすでに完売しているという。

マクラーレン620Rのデザインスケッチ

マクラーレン620R スペック

価格:3750万円〜
全長×全幅×全高:4557×1945×1194mm
ホイールベース:2670mm
乾燥重量:1282kg
エンジン:3799cc 90度V8ツインターボ
最高出力:620ps/7000rpm
最大トルク:63.2kg-m/3500rpm
トランスミッション:7速DCT
タイヤサイズ:前225/35R19、後285/35R20

マクラーレン620Rのデザインスケッチ