収入、恋愛、健康…。そういった、R25世代の大きな関心事のひとつに挙げられるのが、転職。つまり「キャリア」です。

そんなキャリアについての“哲学”“本音”を著名な方にお伺いすべく、新R25が立ち上げたのが連載「キャリ凸」。

初回にお迎えしたのは、新R25にもたびたび登場いただいている田端信太郎さん。NTTデータ→リクルート→ライブドア→コンデナストジャパン→LINE→ZOZO→現在のフリーランス…と、時代を彩る企業を渡り歩いてきた田端さんは、転職のたびに話題となり、インタビューなどに応じることも多い印象です。

しかし! 新R25では、さらなる本音を深掘るべく、

「転職のたびにどれぐらい年収が上がったの?」
「ネガティブな転職ってなかったの?」
「なぜ、いろいろお騒がせ企業だったライブドアに行ったの?」

…など、読者が気になるであろう質問をぶつけまくってきました。

これまで語られてこなかった、田端さんの“キャリアの本音”を、じっくりお楽しみください。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉


【田端信太郎(たばた・しんたろう)】NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナストジャパン、NHN JAPANを経て、株式会社ZOZOコミュニケーションデザイン室本部長に就任。現在は退職

【NTTデータ→リクルート】“ネットビジネスのビッグウェーブに乗ろう”とした若手時代

天野:
今日は田端さんの「キャリアの遍歴」を、これまでにないレベルで追っていければと思います。

田端さん:
はいはい、どうぞ!

天野:
まず、新卒で入社したNTTデータにはどれぐらいいたんでしたっけ?

田端さん:
1年10カ月ぐらいかなあ。2年もいないよ。

天野:
みじかっ。転職したきっかけは何だったんですか?

田端さん:
昔、日経新聞の日曜版って求人広告がいっぱい載ってたんですよ。

外資系もあり、割とハイエンドな求人が多かったから見てるだけでも楽しかった。そのなかにあったのが、リクルートの次世代事業開発室の求人。

当時、2000年ぐらいは最初のネットバブルがいよいよ盛り上がってきてたころでね。「いっちょ、ネットビジネスのビッグウェーブに乗ってやろうじゃねえか」と思って、その部署に飛び込んでみようと思ったんです。



天野:
なるほど。その転職で年収はどれぐらい上がったんですか?

田端さん:
え?

天野:
年収です

今日はR25世代にとって有益なキャリアモデルを探るという意味で、転職によって年収がどれぐらい変化したかも聞かせてください。



田端さん:
む、昔の話ならいいけど、最近のは言わないからね!?


なぜかツンデレみたいな喋り方になる田端さん

田端さん:
NTTデータのころは、残業代とか住宅手当とか全部入れて年収450万円ぐらい…

リクルートに移って600万円ぐらいになったのかな。

天野:
23、24歳でかなりの高給取り…さすがですね…

田端さんのキャリアといえば、リクルートで『R25』の創刊に携わったことが大きなターニングポイントだと思うんですが、その功績で年収もかなり上がりました?

田端さん:
よく言われるんだけど、『R25』をやったから給料が大きく上がったかというと、全然そんなことなかったよ。

当時はとにかく一生懸命仕事することだけ考えてたから、そういうことも気にならなかったっていうのが近いかな。正直“給与明細を見てた記憶”があんまりないんだよね。

天野:
とにかく仕事に没頭してたんですね。

田端さん:
そう。リクルートにいた最後のほうは、800〜900万円ぐらいまで上がったと思うけどね…

ただ、そうやってクタクタになるまで電通と編集部の板挟みになって営業して、「そろそろやり切ったな」っていう感覚が出てきたんだよね。

天野:
『R25』の広告営業を務めて1年ほどで、2度目の転職をされてますよね。

これまたけっこう早いですけど…正直ネガティブな転職理由もあったんじゃないですか?


おそるおそるツッコんでみたら顔コワ

田端さん:
いや、ネガティブってほどじゃないけどさ…

フリーペーパーの営業をやっといてアレなんだけど、“結局、リクルートはインターネットの会社じゃないんだな”って思ってしまったんだよね。

天野:
というと…?

田端さん:
当時、「旅の窓口」っていうナンバーワン旅行予約サイトが売却に出るっていう事件があったんです。

リクルート社内のネット論者は“これを逃したら永遠に後悔する”っていうテンションで、買収のために、清水の舞台から飛び降りるような高額オファーを出したんだけど…

楽天がそれをはるかに上回る金額を用意して、あっさり持っていってしまったんだよね。それが今の「楽天トラベル」。



田端さん:
その瞬間、社内ではネットに興味がある人たちは「リクルート経営陣のネットへの理解度と、三木谷さんのそれが全然違う。これは勝てるわけがない!」って思ったんだよね。

天野:
最初の転職のきっかけが「ネットビジネスのビッグウェーブに乗りたい」だった田端さんからすると、ちょっと物足りないと。

田端さん:
そうそう。

僕は企業としてのリクルートは本当にすごい会社だと思うし、在籍していたことは誇りに思っているんだけど、少なくともそのときは、「ネットではなく紙の情報誌ビジネスの会社なんだ」…と思いました。


「でもその後、リクルートはじゃらんで巻き返した」とのこと。平成ネット史の1ページ…

【リクルート→ライブドア】堀江さんに惹かれた理由は「理解できなかった」から

天野:
そこからライブドアに移るわけですが…

給料はさらに上がったんでしょうか…?

田端さん:
え、え〜…

まあ昔の話だからいいか…。900万円から1200万円に上がりましたね。


なんか、すみません(赤面している…)

天野:
ライブドアの面接は、「堀江さんに会えるならっていうミーハーな気持ちで受けた」って言ってましたよね?

田端さん:
リクルートにいた先輩がライブドアに移っていて、「田端来いよ」みたいに誘われたのよ。それで、会ってみたら面白い人だなと思ってね。

天野:
堀江さんと会って、どんなところに惹かれたんですか?

田端さん:
一言でいえば、理解不能なところですよね。

僕は、上司っていうのは言ってることが理解不能なほどいいと思ってて。

天野:
そうかな…? ちゃんとロジカルに説明してくれる人のほうが、納得して働きやすくないですか?

田端さん:
俺は、会社の上司にそれを求めてないんだよね。

仕事をしていたら、上司と意見が100%一致することなんて絶対ないじゃん。で、普通のサラリーマンは「あの人はわかってねえ」って焼き鳥屋でグチる。



田端さん:
でも、本当にすごい上司って、言ってることが理解できなくても「この人の意見は理解できないけど、きっと俺には見えない何かが見えてるんだろうな…」って思える人なんですよ。

僕は、堀江さんからそういうところを感じ取ったんです。本質的にそう思えるリーダーって少ないですよ。

天野:
ああ…わかる気がします…

田端さん:
「この人についていったら、自分が思ってもいなかったような場所に連れてってくれるんじゃないか」ってね。リーダーってそういうことだと思う。

たとえば藤田さん(藤田晋。サイバーエージェント社長)は素晴らしい経営者だと思うけど、俺、藤田さんがやろうとしていることは基本的に理解可能なんですよ。

すごく忍耐強くていねいに事業をされてる方だと思うけど…面白くはない


「藤田晋面白くない説」を力説する田端さん。ノーリアクションにつとめました(新R25はサイバーエージェントの子会社によって運営されています)

田端さん:
そういう人が経営する会社は、株を買うんだったら最高なんですよ。

株主として出資したいリーダーと、サラリーマンとして仕えたいリーダーってのは全然違うんです。

天野:
な、なるほど…!

たぶん、そこを一緒にして「理解可能な人がいい上司」って思ってるR25世代が多いような気がします。

田端さん:
投資家や顧客の視点で見たら、セブンイレブンとかトヨタみたいに、すべて説明可能な“改善”を続ける企業のリーダーは素晴らしいと思うよ。

ただ、自分が働くとなると…「すでにじゅうぶんおいしいこの冷やし中華を、ロジカルに改善していく仕事」がしたいかって言ったら、1ミリもしたいと思わない(笑)。

天野:
経営者や人を見て転職先を決めることってけっこうあると思いますが、そこめちゃくちゃ大事な軸かもしれないですね…

田端さん:
もし本当に、「すごいキャリアを作りたい」と思うんだったら、ちゃんと理解できる会社に勤めるより、とてもじゃないけど理解不能なリーダーについていくほうがいいと、俺は思うよ。


じゃあ藤田社長のもとで働くのはよくないんですか?ってきこうかと思ったけどいったん考えるのをやめました

当時“お騒がせ企業”のイメージがあったライブドアに、よく飛び込みましたね?

天野:
ただ当時のライブドアって、悪く言うと“お騒がせ企業”ってイメージでしたよね?

田端さん:
そうね。2004年に近鉄騒動(※1)があって、2005年の2、3月にニッポン放送の事件(※2)があって、あのころはニュースをつければライブドアの話題で大騒ぎだった。

そんななかで僕が行ったのが2005年の4月だからね…


※1 プロ野球・大阪近鉄バファローズの身売りに際し、ライブドアや楽天が球界参入を表明。球界史上初のストライキを経て、結局新球団楽天が誕生した

※2 ライブドアがニッポン放送に敵対的買収を仕掛け、子会社であるフジテレビを含めた影響力を手中に収めようとした。両社の業務提携というかたちで決着

天野:
そこに転職するっていうのはどういう心境だったんでしょうか?

田端さん:
面白いことになりそうじゃないか!」。そういう感じですよ。



天野:
普通は転職するときに「危ない会社じゃないか」と安定性を求めると思うんですよね。

田端さんはあえてリスクを取ったんですか…?

田端さん:
いや、それは全然リスクじゃないんだよね…

僕がキャリアに関していい話だな〜って思ってるエピソードがあって。

篠山紀信さんって、“いいカメラマンの条件は、写真の腕じゃないんだ”って言ってたらしいのね。

天野:
ほう…どんな条件なんでしょう?

田端さん:
本当にすごいカメラマンの条件は、その時代に一番面白い人間がいる場所に“いる”ことなんですって。

偶然でもいいから、そこに“いる”こと

それでバチーン!と一発シャッターを押すヤツが、すごいカメラマン。



田端さん:
なるほど、写真の腕というのは一定レベル以上だったら、そこまで差がないのかもしれない。

ビジネスパーソンのキャリアもそういうもんじゃないのかな。

一番面白い場所に“いる”ことが何より大事。

天野:
面白い場所にいること…

個人の能力とかスキルじゃないんだ。

田端さん:
シリコンバレーでも「right time, right place」と言われますよね。人生の成功の99%は、正しいときに正しい場所にいることでもたらされると。

いいサーファーだって、波がなかったら何もできない。すごい波が来たときに、そこにいるヤツがすごいサーファーなんですよ。

天野:
田端さんにとっては、当時いろんな話題のど真ん中にいたライブドアが「right place」に感じられたんですね。

田端さん:
そうそう。その会社にいるだけで、アツい取組の“土俵の砂かぶり席”に座れるなら、逃す手はない

ネットビジネスに関わりたいっていうのも同じ気持ちだし、その時代時代で一番アツい業界や会社に入るべきだっていうのが持論なんだよね。



ライブドア事件を経験した田端さんが教える「会社を辞めるべきタイミング」

天野:
ただですね…、そこから「ライブドア事件」(※3)が起きるじゃないですか。


※3 2006年1月に証券取引法違反(偽計、風説の流布)の疑いで、堀江貴文氏含め複数人が逮捕された事件

田端さん:
そうなんだよね…(笑)。

ライブドア事件が起きてから、知り合いに「辞めないの!?」って言われ続けたんだけど、結局4年以上も辞めなかったんだよなあ〜。


この人…本当に強いな…

天野:
「世間体が悪いな」みたいなのはなかったんですか?

田端さん:
まあ、そういう人もいたよ。

結婚する相手のお父さんが警察官だから…とか、そういうことで辞めていく若い人もいて、申し訳ない感じがあったね…

当時、ライブドアはマスコミからホントひどい叩かれようでさ。「あんな実体がない会社、倒産するに決まってる!」みたいな。

天野:
憶えてます。めちゃくちゃ「虚業」って言われてましたよね。

田端さん:
俺は天邪鬼だからさあ。そんなに言われると「いや、そこまでひどいもんか!?」って思っちゃって(笑)

天野:
辞めなかった理由はそれですか!?

田端さん:
あとは、「賭けとして悪くないな」と思ったんだよね。



田端さん:
世間からそれだけ評判が悪いと、もし会社が潰れたとしても、まあ俺は悪くない(笑)。

ところがもしライブドアが再生できたら、「俺の手柄」として人に言えるじゃないですか。

つまり、株でいえばこれ以上下がりようのない“底値”になっているわけですよ。

天野:
そのあと上がったら上がったぶんだけ得をする…!

田端さん:
その経験をして思うんだけどさ、キャリアって、みんなが逃げ出していくような会社にこそ、残るべきなんだよ。

逆に、もし会社を辞めて転職するんだったら、みんなが「なんであんないい会社を辞めるの?」というタイミングで辞めるべき



天野:
おお…

田端さん:
今、たとえば銀行とかから人が辞めまくってるって言うじゃないですか。そういうときに、みんなと一緒に辞めていくのは一番もったいないんだよね。

戦艦大和ノ最期』って小説があるんだけど、それは実際に戦艦大和が沈没するまで乗ってた人が書いてるからこそ、歴史的名作と言われてるわけ。

そこから会社が立ち直れば功労者になれるし、ダメになっても凄味のあるコンテンツを手に入れられる。それぐらい貴重な経験を手放すなんて損だよ。

天野:
めちゃくちゃわかります…

つまり、「こんな会社はやく抜け出そう」っていうタイミングで辞めることは、底値で株を売っちゃうようなことなんですね。

田端さん:
こういうこと言うと怒られるかもしれないけど、この記事が公開されるころには、コロナの影響で経営が危ない会社がいろいろ出てくると思うんだよね。

そういうときに若い人は、「会社がつぶれたからってこの世の終わりが来るわけでもないし、『ナニワ金融道』みたいにヤクザに追われるわけでもない」と考えてみてほしい。

“その人なりの面白いキャリア”っていうものは、みんなと同じような求人に飛びつくことじゃなくて、そういう経験から生まれてくるんじゃないのかな。



…申し訳ありません。

田端さんの経歴をさらうつもりが、まだ3社目のライブドアまでしかたどり着いておりません(汗)。

田端さんがさらなるブランド人になる「コンデナストジャパン」、ネット業界で一躍名を上げた「LINE」、そしてTwitter中が大騒ぎした「ZOZO」でのお話は、8月4日(火)公開の後編で、たっぷりとお届けします!

楽しみにお待ちください!

それにしても…話が濃すぎて前半だけでお腹いっぱいだ…。

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉

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