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 7月18日、なでしこリーグはリモートマッチ(無観客試合)という形で、約4カ月遅れの開幕を迎えた。

 開幕ダッシュに成功しつつある浦和レッドダイヤモンズレディースは、2連勝を挙げて首位に立っている(7月31日時点)。開幕戦では前半に攻撃陣が爆発し、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに勝利。第2節は、アルビレックス新潟レディースに2点のビハインドからの大逆転で2勝目。勢いと粘りのあるサッカーを見せるそんな浦和の中でも、新たなプレーでサポーターを楽しませているのが猶本光だ。


なでしこリーグの開幕戦から勝利に貢献した猶本光

 浦和からブンデスリーガ(ドイツ)のSCフライブルクへ完全移籍したのは、2018年6月。世界屈指のハイレベルなスピードサッカーに揉まれ、研鑽を積んだ猶本は、今シーズンから古巣の浦和へ復帰を果たした。

 彼女がSCフライブルクで戦っている間に、浦和の指揮官には森栄次監督が就任し、プレースタイルはつなぐサッカーへと変わった。フィジカル面でも準備が整い、3月の開幕に向けてチーム力を上げていこうというタイミングで新型コロナウイルス感染症の蔓延により、リーグ開幕が延期になった。

 ただ、多くの活動が制限されるこの期間も、猶本は自分のトレーニングができると前向きに捉えていたという。

「近くの公園でランニングしたり、坂道でスプリントをしたり、芝生のあるところでボールを蹴ったり、いろいろ工夫をしてトレーニングをしていました」

 どれだけ真剣に取り組んできたのかは、プレーを見れば一目瞭然だ。「自粛期間が明けてからもコンディションは上がってきている」と言い、それについて話を振ると実に猶本らしい答えが返ってきた。

「調子がいいと思っていると、そこが限界みたいになっちゃうことってあるじゃないですか。だから"今"(の状態)を最低限のパフォーマンスと考えることで、もっと自分の調子を上げていけたらいいなって思うんです」

 森監督がこのチームで猶本に託したポジションは、トップ下。これまで担っていたボランチとは違う動きでありながら、しっかりとはまっている。トップの菅澤優衣香、中盤、サイド、サイドバックに至るまで、猶本はあらゆるポジションの選手と絶妙なバランスで絡むのだ。しかし、ここへ到達するまでには苦難の道のりがあった。

「ボランチだと試合中にゴール前まで出ていけるのは1シーンか2シーン。何より攻撃しているときも守備のリスクマネジメントのことを考えちゃうんです。トップ下は、GKと1対1のときはどこを狙うのか、こういう局面はどういうシュートが打てるのか、こうしたら相手DFはどう反応してくるのか、と考えながらプレーするのですが、最初は自分にそういった引き出しがなかったんです」

 では、猶本はそれらの課題をいかに克服したのか。答えは森監督ならではの練習にあった。

 重要視したのはゲーム形式だ。フルコートでの紅白戦や、ペナルティエリア内でのミニ
ゲームもある。実戦を選手たちに意識させ、ミックスしていく。そのスタイルで練習することにより、試合に必要な経験値を重ねることができた、と猶本は言う。

 そしてもうひとつ彼女を大きく動かしたのは、ドイツで生まれた"ある感情"だ。SCフライブルクでもトップ下を担っていたが、そこで求められていた仕事は今とは異なるものだった。ドイツでは、スピードを持つ選手たちに囲まれていると、ゴール前で誰もがラストパスを欲しがる。自らのシュートを選ぶよりも、どの選手に打たせるかを考えながら常に、パスを選択している猶本がそこにはいた。

「自分はシュートに自信もないし、周りの選手も動いてくれている。だから『そこにパスを出しちゃった方がいい』って思ってました。でも同時に、『自分がトップ下をやってるのに』『"10番"をやってるのに』というもどかしさもありました」

 そして帰国した猶本に任されたのが、ドイツでもどかしさを感じていたトップ下だったのである。

「今度はゴールを決められる選手を目指したい、と思いました」

 猶本にとって、これはリベンジでもある。その決意が明確に現れているのがシュートだ。

 彼女のその変化を目の当たりにしたのは開幕戦、猶本の初ゴールのひと振りだった。水谷有希がドリブルから中へ送ったボールを柴田華絵が軽くはたくと、合わせて動き出していた猶本がすぐさま左足を振り抜いた。相手DFがひしめく中央の狭いスペースで仕掛けながら、最後のパスを受けてシュート。

 そこに至るまでのスピードには驚かされた。これまでのシュートと比べ、タイミングが桁違いに速かったのだ。当然、相手のブロックは間に合わず、崩しからフィニッシュまですべてが完璧で、猶本が見せた力強いガッツポーズも頷ける会心のゴールだった。


今回オンラインでのインタビューで目標を語った猶本光

"シュートのタイミングを速める"ことを頭で理解していても、それを実行するまでには相当の努力と時間を要するはずだ。実際、猶本はかなりシュート練習をしていた。

「これまでの狙い方だと、シュートが自分の調子にすごく左右されていると感じていました。そこで、軸足の位置や助走を決めて、自分の動きをあえて機械的にしたんです。そうすることでシュート練習をしていても、同じところに蹴ることができて、どこがダメだったかもわかるようになりました。そのおかげで今は正確さが増した気がします。ゲーム練習でも対人的な局面はいっぱいあるので、引き出しも確実に増えてきました」

 このシュート練習がセットプレーでも効果を発揮していた。特に猶本が担当する右CK(コーナーキック)で蹴り出すボールは非常に精度が高い。

 ゴール前で待ち構える菅澤や南萌華、長船加奈、清家貴子はいずれも空中戦に強い選手たちだ。誰がターゲットになっても、タイミングがピタリと合っている。初戦でも猶本のCKから清家と菅澤がゴールをモノにしている。このクオリティを高めていけば、今シーズンの浦和にとって大きな武器になる。

「シュート練習が効いてるのだと思います。セットプレーがすごく安定してきたんですよ。『こういうタイミングで入ってきてほしい』ということも、場所ごとにみんなと話し合いました。イメージ的には、ボールに合わせてもらうんじゃなくて、走り出した人にボールをぶつけていく感じです」

 自分のイメージに近いボールを蹴られていることが、ゲームを見ている側にも伝わるのだから、当人の実感は大きいだろう。

「でもそう感じることができたのは、最近なんですよ(笑)」

 そうであるならば、彼女のキック技術は今後さらに高まりを見せてくれそうだ。

 ところで本来であれば、今頃はオリンピックが開催されている時期だった。猶本はそこに照準を合わせ、帰国を決めて浦和に復帰を果たしたが、それでも今の状況を前向きに捉えているという。

「延期になったのは仕方ないです。全然プラスに捉えてますよ!」

 ここへ来てさらなる成長を見せている猶本は、この1年で何を積み上げるのか。

「代表に行くと、たぶんボランチの位置に入ると思うので、今のポジションとはちょっと違うと思うんです。でもゴール前でさらに仕事をできるイメージが持てるように、今はゴール前のプレーを伸ばしていきたいです」

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 猶本が試合ごとにトップ下の感覚を磨いていけば、なでしこジャパンでも必然的に猶本を活かす戦い方が見えてくるかもしれない。コロナ禍という状況でどう向上していけるのか。選手たちは真の意味で試されている。チャンスがあるからこそ、まずは目の前の戦いに集中することが大事だ。

「狙うのはもちろんリーグ優勝です。皇后杯もあるけど、やっぱりリーグタイトルを狙いたい。みんなでリーグタイトルを獲りたいです」

 スタートしたばかりの今季のなでしこリーグで、浦和は課題を見つけながら勝利を重ねている。森体勢で臨む2年目のシーズンはそれぞれのポジションで昨年の課題を今まさに乗り越えようとしている選手が多い。そこに絶賛成長中の猶本が加わったことで、浦和はチームとしての新境地を切り拓こうとしている。目標はただひとつ。この融合の先にはきっと悲願達成のゴールがあるはずだ。プロフィール
猶本光(なおもと・ひかる)
1994年3月3日生まれ。福岡県出身。
2012年に浦和レッズレディース所属し、2018年にはドイツ・ブンデスリーガのSCフライブルクに移籍。今シーズンより再び浦和レッズレディースに復帰を果たしている。なでしこジャパンでは2014年に召集され、現在も東京五輪出場を目指している。