●「ファクタリング」とは何か

テクノロジーによって企業の財務・会計業務を効率化したり、資金繰りを支援したりするフィンテック分野では、ベンチャー企業を中心にさまざまなサービスが開発され、導入企業にとっては企業経営のデジタルトランスフォーメーションの選択肢のひとつとして検討されてきた。しかし、これまでは経理業務や資金繰りの効率化を目的に考えられてきたフィンテックは、新型コロナウイルスの感染拡大によってその意義を変えてきたのではないか。

つまり、ビジネスを取り巻く社会環境の急激な変化によって生じる資金繰りの悪化などに対応するために、そしてこうした変化を乗り越えて企業の持続可能性を担保するために、“Withコロナ”時代の企業経営においてフィンテックは、“選択肢”ではなく“不可欠”な存在になるのではないか。コロナ禍によって財務・経理分野のデジタルシフトが急速に進むのではないかというのが、筆者の考えだ。

そこで、マネーフォワード傘下で法人向けファクタリングサービス「MF KESSAIアーリーペイメント」を提供するMF KESSAI株式会社の代表取締役社長である冨山直道氏に、コロナ禍によるフィンテックに対する市場ニーズの変化や今後の見通し、そして今後企業向けフィンテックの拡大が予想されるなか健全な市場成長のために同社ではどのようなマーケティング戦略を考えているかなどについて、オンラインインタビューにてお話を伺った。

MF KESSAI株式会社 代表取締役社長の冨山直道氏(写真は過去に開催されたセミナー登壇の様子)

○売掛金を元に資金調達を行い、運転資金需要に対応できるファクタリング

まず、話の前提としてフィンテックのひとつである「ファクタリング」とは何かについて、「MF KESSAIアーリーペイメント」を例に説明しよう。

ファクタリングとは、企業の売掛金=売上の請求書や取引契約など“入金が予定されている売上”を担保にして資金調達ができる法人向けサービスのこと。売掛金は、取引先企業から請求金額が振り込まれることで初めて自社の運転資金として活用することができるが、企業間取引では売掛金が発生してから振り込まれるまでの間に1カ月から数カ月のタイムラグが生じる。その間の運転資金を確保するために、発生している売掛金を元に資金調達をすることで急な運転資金の需要に対応できるのが、ファクタリングというものだ。

そして冨山氏によると、このファクタリングでは資金調達の原資とした売掛金を回収する方法に2つのパターンがあるのだという。ひとつは、売掛先企業から回収する方法(3者間ファクタリング)、そしてもうひとつがファクタリングを利用した企業が回収する方法(2者間ファクタリング)だ。前者ではファクタリングを利用する時点で債権者が変更されるため、売掛先企業の許諾や、場合によっては債権者変更の手続きが必要になる。しかし、後者ではファクタリングを利用した企業が回収した売掛金を元に返済するためシンプルな取引スキームになる。MF KESSAIアーリーペイメントでは後者の2者間取引を採用しているという。

「2者間ファクタリング のほうが、売掛先企業にファクタリングの利用を知られたり、請求スキームを変更したりすることなく、早期に資金調達できる。事前に所定の審査が必要だが、MF KESSAIでは債権譲渡の申込から最短2営業日で資金化することが可能だ」と冨山氏は説明する。

MF KESSAIアーリーペイメントにおけるファクタリングのスキーム

加えて、ファクタリングはすでに発生している売掛金を担保に資金調達をするため、金融機関の事業性融資が受けられない企業でも利用できるのが大きなポイントなのだと冨山氏は説明する。

「ファクタリングは、例えば会社の業績が浅かったり、売上規模が小さかったり、担保にできる資産がなかったりといった理由で金融機関からの資金調達が難しい中小企業、ベンチャー企業の課題を解決できるソリューションだと考えている」(冨山氏)

●コロナ禍によって、成長企業の資金繰りも窮地に

このMF KESSAIがサービスを開始したのは、2019年8月。その後、堅調に契約数を増やしていたというが、コロナ禍の影響から最近では問い合わせ件数が急増しているという。今年2月と比較して3月は144%、4月は161%とのこと。こうした動きに対して、冨山氏は「MF KESSAIはもともと成長が見込まれる中小企業、スタートアップ企業の運転資金支援を念頭に置いて開発された。現在も、企業の審査ではビジネスの成長性を重視した審査を行っている。しかし、3月から5月にかけては成長企業も資金繰りに苦労している。成長のためではなく、企業存続のための資金ニーズが増加している」と語る。

中小企業、特に成長を目指しているベンチャー企業などでは、中期的な経営計画を前提に人材の採用や設備投資を行っているケースが多い。そうした矢先にコロナ禍の影響を受けたことによって世の中の需要が冷え込み、資金繰りが悪化してしまっているのだ。

「企業の問い合わせなどから、事業計画に対して成長が止まってしまった中小・ベンチャー企業が多いと感じている」(冨山氏)

また冨山氏によると、ファクタリングサービスを利用する企業のなかには、飲食業や卸売業など非デジタル領域の業種も増加しているという。

「飲食業ではクラウドファンディングで資金集めを行い、その支援金を早期に資金化したいというニーズで利用しているケースがある。また食品の卸売業では、飲食店向けの取引低迷からBtoCのネット販売を始めている場合があり、その売上を決済プラットフォーマーから支払われる前に早期に資金化して、生産者に早く支払いたいというニーズで利用するケースもある」(冨山氏)

このように、コロナ禍の困難な状況を乗り切り事業を継続させようと尽力している企業があるなか、そこから“Withコロナ”時代のビジネスを占う兆候も見られるという。それがデジタルを活用している企業の成長だ。冨山氏も最近の企業の財務状況について「BtoCの店舗ビジネスは非常に厳しい状況にあるが、デジタル企業は成長し続けている」と指摘する。そして、そこからわかる“Withコロナ”の時代におけるビジネスの在り方については、次のように語っている。

「オフラインからオンライン、オフラインとオンラインの効果的な併用へといったビジネスのチャネルシフト、またBtoC専業からBtoCオンライン販売へのビジネス拡大といった形で、社会情勢に合わせて柔軟にビジネス戦略を転換できる企業が、これからは生き残っていけるのではないか。一方、製造業、観光業などビジネスの方向性を転換することが困難で苦しんでいる企業がいることも大きな課題だ」(冨山氏)

コロナ禍による企業の資金繰り悪化を救う役割として、フィンテックはこれからも大きな役割を果たしていくことが期待される。冨山氏も「技術力、柔軟性、スピード感、AIなど先端技術の活用などによって、金融機関にはできないサービスを提供しながら、企業の財務を陰で支えることがフィンテックの役目だ」と語った。

●Withコロナ”の時代におけるフィンテックのあるべき姿

では、MF KESSAIは今後どのようなマーケティング戦略でビジネスを推進していくのだろうか。冨山氏は、この点について「ファクタリングについての正しい知識を啓蒙し、中長期的なビジネスパートナーとしてMF KESSAIを選んでくれることを目指している」と説明する。

ここで普通ならば「企業の利用を促進するために、中小企業の経営者にリーチできるマーケティングを展開していく」と答えるところだが、そうではなく冨山氏は「ファクタリングについての正しい理解を促す」ことをマーケティングの命題として掲げている。この言葉の背景には、ファクタリングをめぐる「手数料」の課題があるのだという。

ファクタリングの取引では、売掛金を元手に資金調達をする際、売掛金の一部を手数料としてファクタリング事業者に支払う。MF KESSAIは月あたり1%〜4%という低水準で手数料を設定しているのだそうだが、ファクタリング事業者のなかには10%以上という非常に高い手数料を設定しているケースもあるのだそうだ。ファクタリングを利用しようとする企業は、運転資金の確保で急を要しているとも言える。見方次第では、その切迫性に付け込んでいるのではないかとも捉えられる。

こうした状況に対して、冨山氏は「高額な手数料で1回限りのファクタリング取引を行い、“このあと御社のビジネスがどうなるかは知りません”というスタンスでは、ファクタリングというビジネスそのものが成長しない。MF KESSAIは企業の中長期的なパートナーとして、継続的な資金繰り支援ができる形を目指している」と語り、こうしたスタンスを業界全体に浸透させたいともしている。

「MF KESSAIだけがそういうスタンスでも、業界全体は健全に成長しない。他社とも協議しながら業界全体でどのような方法が必要かを考えていきたい」(冨山氏)

加えて、ファクタリングに対する正しい考え方を経営者に啓蒙するという活動も重視しているという。具体的には、経営者にリーチできる経済紙にファクタリングの正しい知識を認知・啓蒙する目的の広告を展開するなど、ファクタリングそのものの理解、ブランディングを目標とした広告展開を行っているのだそうだ。

例えば、ファクタリングを理解する上で重要なのは、“ファクタリングにも限界がある”ということを知っておくことだという。ファクタリングは将来の入金が約束されているもの=売掛金を原資に資金調達をするが、当然それだけでは事業資金が十分ではない場合もある。今後の売上見込み次第では、再び資金繰りは深刻な事態を招いてしまうだろう。加えて、その際に高額な手数料が掛かれば将来の運転資金が大きく目減りしてしまう恐れもある。そうした際には、ファクタリングがベストな選択肢にはならないかもしれないのだ。

この点について、冨山氏は「コロナ禍の状況にあっても、早い段階で中長期的な資金計画を立て、今後の状況に応じて見直していくべきだ」と語る。ファクタリングは手元の債権を早期に資金化できる一方で、目先の資金繰りだけを見ていては中長期的な事業の継続や成長は見通せない。企業経営者にはそれを理解してもらった上で、戦略的にファクタリングを活用してもらうことが重要なのだ。

最後に、冨山氏はコロナ禍が続くなかMF KESSAIの今後のビジネスについて、「金融機関がまだサポートしきれない部分をフィンテックが担っていくことは、コロナ禍以前も、これからも変わらない。金融機関による事業資金の支援やエクイティ・ファイナンス(増資によるVCなどからの資金調達)などと並んで、ファクタリングをはじめとするフィンテックが企業にとって資金繰り支援の選択肢となるように、MF KESSAIではこれからもさまざまなファイナンスニーズをカバーできるようなサービスを生み出していきたい」と締めくくった。