増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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・未来から20世紀に送り込まれたターミネーター
世界を支配するIT企業が開発した世界の軍事機能を統括するAI統治ネット機構は、21世紀の世界で生き残った人類を抹殺するための改良型アンドロイド試作に成功した・・・・・(映画「ターミネーター」あらすじより)

現在2020年の今、IT企業にもAIにも支配も殲滅もされずに済んでいることに一安心ですが、SFの世界の21世紀はロボットやコンピュータが支配者となるストーリーがよくありました。昭和の子共だった私は未来にあこがれつつも、大人になる過程で日々の生活に追われ、いつの間にかそんな妄想を考えないようになっていたのでした。

しかし近年のAIの飛躍的発達、シンギュラリティ到来!など、かつての昭和の子共(現かなりのおっさん)を怯えさせるに十分なインパクトがあります。日ごろ指導している、最先端のAIやロボティクスの研究をしている大学院博士後期課程の学生には、教員という立場を利用して「ねえねえ、ほんとうにぼくたち機械にせいふくされちゃうの?」と聞くことがあるのですが、そもそも機械が勝手に暴走する訳ではないらしいことを諭されます。

・AIが面接!?
人による恣意的な面接ではなく、正にビッグデータやAIこそ面接効率を上げるのだ!ということで、人間の表情を読み取るAIや、面接を評価してウソまでも見抜く??とか何とかいうさまざまなシステムが出てきました。これこそ全能の「人事の神」出現なのでは?

面接官トレーニングなどを通じて戦略的採用を指南するコンサルタントの私としては、なんとしてもぶっ潰さなければ商売あがったりです。しかし相手は人類を殲滅できるAI。(違います)相当ポンコツ化が進む昭和脳で、ショットガンでも倒れないターミネーターに対抗できるかはなはだ疑問もあります。(本当です)

採用支援システムについていろいろなニュースやリリースを斜め読みしてみますと、どうやら判断基準などパラメーターの設定で、採用において重視するポイントなどを傾向値などで測るというような説明があります。全部を見た訳ではないので、AI面接システムが完璧とも、無意味とも判断できる材料を持っていませんが、私が最も気になるのは「判断基準」です。

キカイが判断できるためには人間が行う際の判断基準の明確化が前提のはず。人間が判断基準を明確化できずに、機械がそれを生み出して下さるとしたら、すでにAIの世界支配は可能なはず。現時点はまだシンギュラリティは来ていないのであれば、人間、つまりシステム導入者がその基準をインプットしない限りシステムは機能しないはずです。

・問題は人間にあった!!
つまりシステムが良いの悪いのいう以前に、面接を機械化、AI化、外注化したいと考える企業は、そもそも採用基準を明確化できているのでしょうか。もし既に明確な採用基準があり、その基準に沿った選考ができているのであれば、社員の定着率も高く、人事管理もすばらしいものなのでしょう。(皮肉でいっています。そんな会社がこの世にそうそうあるとは思えないので)

そうではなく、ちゃんと社長や取締役事業本部長自ら面接したのに全然ダメだったということはないのでしょうか?(絶対あるに決まってると思って、皮肉でいってます)つまり、元の人間による選考自体が上手く行っていなかったのではないでしょうか?

そうだとすれば、繰り返しますが機械は正解を下さる全能の神ではありません。
「オレは目の光を見ればわかる」
「(仕事できそうな)オーラがある」

こんな面接官が意思決定している限り、現状のAIがどれだけ優秀でも結果は見えています。当たり前ですがインプットを超えるアウトプットなどあり得ません。つまり採用面接の戦略策定もできず、判断基準も数値化や明文化できない採用は、AIだとて質を上げようがありません。

・コンピテンシーこそ採用の柱
私の理解では、現状でもしっかりした戦略観に基づき、一定の数値化・客観化できる採用基準があり、何よりもその採用する職務で求められるコンピテンシー(成果の再現性)と照らし合わせた面接ができている。しかしそうした選考ができる面接官の人手が足りないという組織であれば、AIはきっと役に立ってくれるのではないでしょうか。容貌や雰囲気、良くも悪くも学歴などで惑わされがちな人間と違い、機械学習で採用基準を学び取り、その基準とのかい離を補正してくれるのかも知れません。

応募者の表情から笑顔や発言の真偽を見抜く手法があり、AIだけでなく取り調べ経験のあるコンサルタントの面接指導サービスなどもあるようですが、面接でウソほんとを見分けて何の意味があるのかと思います。緊張して笑顔がひきつる人、無表情で機械的な接客を好む顧客、ビジュアルより書類の精度や段取りを重視する業務が、こんな表層的な基準だけでわかるはずがありません。

業務で成果があったかどうか、応募者が「成功した」と言ったかどうかなど何の意味もない質問です。コンピテンシーを問うには、事実や真偽より、どうやってその仕事を成功させたのか、その段取り、苦労・失敗、予定通りに進まなかった時の判断といった、当事者でなければわからないであろう「思考」を見ることが面接です。

いまだに面接で「あなたはコミュニケーション能力がありますか?」と聞いているような会社は、ターミネーターを持とうが、液体金属でできた改良型モデルだろうが、多分宝の持ち腐れと化すことを懸念してやみません。