■コロナで豹変した「無能」な経営者

新型コロナウイルスへの感染の恐怖や在宅勤務など出社制限下での働き方の変化が、コロナ後の職場環境を一変させている。その職場内で「えっ、彼(彼女)って、こんな人だったの?」と思わせる異常な言動や本性をあらわにする人、あるいは仕事ができる人だと思っていたのに無能さをさらけ出す人もいる。

写真=iStock.com/Zephyr18
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zephyr18

その典型は「社員こそ会社の宝」とうたい、誰にでも愛想よく振る舞っていたはずの経営者たちの変貌ぶりだろう。たとえば従業員が微熱でもあると、コロナに感染していると思い込み、手の平を返したような仕打ちをされた人も多い。

労働組合の連合の労働相談(3月30〜31日)にはこんな相談が寄せられている。

「微熱が出て、保健所や病院に相談し、処方された薬を飲み、念のため2週間休んだ。体調も良くなったので出勤すると言ったら、新型コロナに感染していると疑われ『病院からコロナに感染していないという診断書を持ってこなければ会社に出るな』と言われた」(正社員・男性)

おそらく病院はPCR検査の必要なしと判断したのだろうが、経営者は「陰性証明書」を持ってこいと、理不尽な要求をする。あるいは派遣先で微熱あった派遣社員の50代の男性は「派遣先から『コロナウイルスの可能性があるので解雇する。帰れ』と言われ帰宅したが、一方、派遣元に連絡したら『なぜ派遣先から帰ったのか』と言われ困っている」という相談を寄せている。

■コロナに感染したらクビにするぞ

コロナ感染を防止したい気持ちはわかるが、明らかな過剰反応だ。こういう時期だからこそ従業員の生活や健康を大事に考えてほしいもの。しかし実際は、組織やわが身を守るためになりふりかまわずに排除する経営者に豹変(ひょうへん)する。

筆者の近所にも会社を60歳定年後、再雇用の有期契約社員として働く男性がいる。勤務先の社長に「コロナに感染したらクビにする」と言われたと、男性の妻から聞いた。それ以来、男性は出勤以外、一歩も出ることなく自宅にこもり、月1回家族そろって出かける外食も、男性だけ自粛しているそうだ。経営者が神経過敏になると、真面目な従業員は日常生活でもストレスフルな生活を余儀なくされる。

■在宅勤務でメンヘラになる上司

経営者に限らない。在宅勤務が続き、部下の仕事ぶりが見えない不安から異常な行動に走る上司もいる。サービス業の課長は部下が在宅勤務になってもほぼ毎日出社。朝から個々の部下のやるべき仕事をメールで発信するだけではなく、定期的に電話をかけてきては進捗状況を確認しているという。それ以外に全員との朝礼と終礼をオンラインで毎日行っている。

同社ではグーグルカレンダーやアウトルックを使って部下の動向や仕事の進捗管理を行うように周知しているが、それだけでは不安なのだろう。さすがに部下からは「上司から監視されているようでたまらない。しかも必要のない電話や朝礼などに時間を割かれ、仕事がはかどらない」という不満の声も出ているという。

ちゃんと仕事をこなしている部下からすれば「仕事を妨害する上司」以外の何者でもない。迷惑千万な話だ。在宅勤務中の社員のヒアリングを実施した同社の人事部長はこう語る。

「日頃から部下とのワンオンワンのミーティングなどコミュニケーションを密にとっている上司は在宅勤務でも支障なく、部署の仕事をこなしている。逆に日頃から部下の面倒をあまり見ることなく、適当に仕事を任せっぱなしにしたり、部下との信頼関係が構築できていない上司ほど焦って、頻繁に連絡を取るなど時間を奪って部下を追い込んでいる。結果的に部署の成果も上がらないどころか、残業時間も増えるなど、上司のマネジメント力が組織成果に歴然と表れている」

コロナ禍の在宅勤務が管理職としての資質を炙り出している。同社は管理職層に「リモートワークのマネジメント術」といった研修も検討しているそうだが、はたしてそれで変わるのかどうか疑問だ。

■若手社員「ITリテラシーが低すぎる…」

コロナ禍ではITリテラシーの低さや新しいことに挑戦しない社員も炙り出した。中堅の外食業では緊急事態宣言後の自粛要請で2021年卒の採用活動がストップした。大手企業がオンライン説明会や面接に切り替える中、同社ではオンライン面談に切り替えることに反対する社員が多かったという。若手の人事担当者はこう語る。

「年輩の社員を中心に『オンラインの面接で学生を見極められるわけないだろう、何を考えているんだ』という意見が多かった。というより、今までZoomを使ったことももちろんないし、エクセルやパワポすらできない。ITリテラシーが極めて低い人たちだから、そもそもオンライン会議がどういうものかも知らないし、イメージすらわかない。こんな人たちが会社の上層部にいること自体、がっかりしました。それでもライバル他社がオンラインに切り替えるなかで、実施までに2カ月かかり、完全に出遅れました」

例年なら大手に先行して4月には内々定を出していたが、事実上6月再開となり、新卒獲得に苦戦しているそうだ。

■つかえない奴に在宅勤務は無理

じつは日頃から仕事に消極的な姿勢が目立つ、いわゆる働かないオジさんや、職場の人間関係がうまくいっていない社員の在宅中の仕事の成果が上がっていないことも炙り出した。物流会社の人事部長はこんな事実を吐露する。

「管理職のなかには、信頼する部下に重要な仕事を振り、締め切りを守らず人間的に信頼できない部下には重要ではない仕事を振る人がいる。また、煙たい存在の年上の部下にはルーティンの雑務と後輩のフォローをやってくださいと言っているだけだが、在宅勤務になったら信頼できない部下はますます仕事をしなくなった。年上の部下にいたっては後輩と連絡をとることもなくほとんど何も仕事をしていないようだという話も聞いている。家でゴロゴロしているか、適当に顧客に出向いて雑談をしているぐらいではないか。管理職にも大いに問題があるが、彼らには在宅勤務なんてほとんど無理だということもわかった」

在宅勤務は、成果を上げる社員とそうでない社員をリトマス試験紙のように見分ける効果もあるようだ。

■働ける人と働けない人の選別が始まる

似たような話もある。自粛期間中の在宅勤務を長期の休暇と勘違いしている社員もいるらしい。IT企業では出社制限が緩和され、出社した直後に部長席に歩み寄り、熱心にプレゼンまがいの話を始めたらしい。近くにいた課長はこう語る。

「在宅中は何の仕事をしているのかわからなかったのに『自分はこういうことを考えていた』と盛んに部長にアピールする。だったら会議室でやればいいじゃないかと思うが、本人は周囲にも聞かせたいらしい。しかも中身は夏休みの宿題をギリギリになってやっつけた程度のものでスカスカ。本人にすれば仕事をしていなかった負い目があるのかもしれないが、墓穴を掘っているとしか思えなかった」

同社は今後もリモートワークを継続していくことにしているが、同社に限らずリモートワークを新しい働き方として定着させていこうという企業も少なくない。そうなるとますます目に見える成果が問われることになる。

成果を生み出すには管理職のマネジメントスタイルも大きく変わるだろう。同時にITリテラシーはもちろんのこと、効率よく生産性を上げる自律的な働き方ができる人とできない人の選別がこれから始まるかもしれない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)