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開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン・治療薬にはどのようなものがあるのか、どこまで進んでいるのか、実用化に向けたハードルと予想期間と共に、実用化されると人々の生活はどこまで回復するのか、コロナの危険度はどこまで下がるのか、などについて考察する。

■なぜ新型コロナウイルスにはワクチンが必要なのか?

重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-1)や中東呼吸器症候群 (MERS-CoV)など、過去に流行したコロナウイルスではワクチンが開発されなかったにもかかわらず、新型コロナウイルスでは治療薬とワクチンの両方が必須とされているのはなぜか?

SARS-CoV-1はアジアを中心に感染が拡大し、ほとんどの感染者に自覚症状があったため、比較的感染拡大を防止しやすく、MERS-CoVの主な感染源は動物で人から人への感染がまれであった。これに対して新型コロナウイルスは人から人へと感染し、自覚症状がないまま日常生活を送っている感染者(無症状病原体保有者)も多いため、感染の拡大を防止することが難しいとされている。

■日本でも国内初の治療薬が承認取得

現在開発が進んでいる治療薬は、世界中から注目を浴びている「アビガン(富士フイルム富山化学)」や、日本でも国内初のコロナウイルス治療薬として承認を受けた「レムデシビル(米ギリアド・サイエンシズ)」、「カレトラ(米アッヴィ)」など、既存の抗ウイルス薬を転用するものが主流である。

その一方で、「高度免疫グロブリン製剤(武田薬品工業・米CSL Behring)」など、新規治療薬の開発も活発化しており、今後も続々と登場すると期待されている。

しかし、藤田医科大学の研究では、アビガンは新型コロナウイルス感染症に対しての明確な有効性が確認できなかったとされており、今後の臨床研究の結果が待たれるところとなっている。

■難航するワクチン開発

しかし、ワクチンとなると話は別だ。病気を引き起こすウイルスや細菌ごとに免疫反応が異なるため、それぞれに対応するワクチンが必要となる。前述の通り、コロナのワクチン開発は未開の領域である。

豪クイーンズランド大学医学部のイアン・フレーザー教授いわく、コロナウイルスは人間の免疫防御力が脆弱な上気道に感染を引き起こすため、安全なワクチンの開発が困難だ。

上気道は体の内部にあるにもかかわらず、予防接種の分野では体の外部に存在するものと見なされる。バリア層に守られた皮膚のように、上気道の細胞の外層がバリアの役割を果たし、ウイルスなど外部からの侵入を防御する。そのため、体の「外」でウイルスを中和する方法を見つける必要がある。フレーザー教授の言葉を借りると、「皮膚の表面のウイルスを殺すためのワクチンを、開発しようとしているようなものだ」。

■ワクチン・治療薬の開発状況は?

そもそも新薬の開発は、研究・開発に始まり、前臨床実験(フェーズ0)からフェーズ3まで、承認されるまでの道のりが非常に長い。

WHOの報告によると、2020年5月5日の時点で108種類のワクチン開発が進められており、そのうち少なくとも17種類のワクチンが臨床試験の段階にあり、このうち8種類が中国で開発されているという。

カンシノ・バイオロジクス(康希諾生物股分公司)と北京研究所バイオテクノロジー(BIB)のワクチンはすでに臨床試験で良好な結果が出ており、中国国内ではすでに使用対象を軍要員に限定した形で摂取することができる特殊な承認を得たと発表されている。

また、米イノビオ・ファーマシューティカルズのDNAワクチン「INO-4800」やシノバック・バイオテクノロジー(科興控股生物技術)の不活性ワクチンなどはすでに臨床試験の段階に入っており、各国総力をあげてワクチン開発に取り組んでいる。

■オックスフォード大学 オランダで世界初の抗体発見?

欧州初の臨床実験は4月23日、オックスフォード大学が開始した。独自に開発した弱毒化チンパンジー・アデノウイルスワクチン「ChAdOx1」を、550人の志願被験者に注入するというものだ。

一方、オランダのエラスムス医療センターとユトレヒト大学、中国のバイオ医薬品企業ハーバーバイオメッド(HBM)の研究者は、世界で初めてSARS-CoV-2の感染を阻止する抗体を発見した。これはウイルスが培養細胞に感染するのを防ぐ「完全ヒト型モノクローナル抗体」で、新型コロナの治療薬やワクチンの開発に役立つ偉大な発見だと期待されている。

■ワクチンが世界中にいきわたるのは2036年?

ワクチン開発競走が激化する中、具体的にいつ頃完成するのかが気になるところだ。

現時点では、最短で1〜1年半後にはワクチンが完成しているとの意見が多いが、著名ジャーナリストのスチュアート・トンプソン氏は、まったく新しいタイプのコロナワクチンを開発している事実と過去の事例を比較すると、「少なくとも4年は必要」との見解を示している。

有望なワクチンが開発された後には、実用化に向けて各国の審査機関や政府機関から販売承認を受ける必要がある。例えば米国では米食品医薬品局(FDA)がその役割を果たしているが、過去のデータによると臨床実験後に承認を取得できた新薬はわずか1割にも満たない。

さらに承認を受けた後には、生産および流通ルートの確保などに相当の時間を要する点を考慮すると、世界中にいきわたるのは2032〜2036年になる可能性もあると言う。

■ワクチン開発で平穏は取り戻せるのか?

さまざまな困難を乗りこえてワクチンが実用化された後、あるいはSARS-CoV-1やMERS-CoVのように、時間の経過とともにある程度ウイルスが沈静した場合、世界は平穏を取り戻せるのだろうか。

新型コロナウイルスは既に世界経済から政治、人々の生活まで広範囲にわたり大きなダメージを与えている。治療薬とワクチンの両方が世界中に行きわたれば、感染への心配は緩和され、経済活動も劇的に活発化するだろう。しかし多くの人々が生まれて初めて体験した、目に見えない恐怖や不安、そして失われた命のことを考えると、皆が平穏を取り戻すためには相当の年月を必要とするのではないだろうか。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)