関連画像

写真拡大

新型コロナウイルス感染がふたたび拡大傾向にある中、国がスタートさせる観光支援事業「Go To トラベル」によって、生命や健康が害されるおそれがあるとして、東京都在住の女性ら3人が7月16日、国に実施しないようにもとめて、民事保全法にもとづく仮処分を東京地裁に申し立てた。

申し立てたのは、都内在住の女性と栃木県在住の夫婦の3人だ。

新型コロナ感染が拡大傾向にある中で、7月22日からスタートする「Go To トラベル」によって、生命や身体、健康に回復不可能な危険を与えるおそれがあるとして、「少なくとも現段階でおこなうことは時期尚早であり、おこなわれるべきではない」と主張している。

そのうえで、(1)「Go To トラベル」の利用申請書の受付をおこなわないこと、(2)受け取った利用申請書に基づいた支払いをおこなわないこと、(3)ツーリズム産業共同事業体に(1)と(2)を遵守させること――をもとめている。

●代理人「今回の申し立ての意義は大きい」

3人の代理人をつとめる藤本一郎弁護士は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「今回の申し立ての意義は大きい」と話す。

「運動論的には、『Go To トラベル事業』に対する疑問を異なった角度から示すことで、結論は別にして、その問題点を明らかにすることに役立ちます。結果として、『Go To トラベル事業」の矛盾や問題点をみなさまにより明確に知ってもらえると考えます。

法的には、まず、人格的生存権を侵害する『行為』はいったい何なのかということがポイントになるように思います。日本では、特措法においても緊急事態宣言においても、『GoTo トラベル事業』があってもなくても、自由に旅行することが可能です。多少の政策で『違法行為』になることはないかもしれません。

しかし、政府の今回の政策は、巨額の予算を背景に、いわば『お墨付き』を与えるもので、事実上の力を超えたものがあり、これによって健康被害が広がる蓋然性があるとすれば、違法な行為を言い得るのではないでしょうか。

原発の設置や稼働と比較しても、今回の『政策』がそのような違法行為に該当するといえるか、それは容易ではないかもしれませんが、可能な範囲で明らかにしたいと考えています。

また、法律実務家としては、この種の争いごとについて、民事保全という手法をとることの是非について、より多くのみなさまと一緒に考えることができたらとも思っています。万一不適法却下だということであれば、それはそれで別途考えもあるのですが、またそのときにお話できたらと思います」

●個人の生命や健康は「重大な保護法益」

申立書は、裁判例を引用しつつ、「Go To トラベル」によって、侵害されるおそれがある権利について、次のように説明している。

・個人の生命や身体、健康という重大な保護法益が、違法に侵害されたり、そのおそれがある場合は、現におこなわれている違法な侵害を排除し、または将来生じる違法な侵害行為を予防するため、人格権(人格的生存権)にもとづいて侵害行為の差し止めをもとめることができる(広島高裁令和2年1月17日決定)

・個人の生命や身体、健康という重大な保護法益が、現に侵害される具体的危険がある場合には、その個人は人格権にもとづく加害排除(予防)請求として、侵害行為の排除(予防)を請求することができると認められている(大阪高裁令和2年1月30日決定)

●「Go To トラベル」は混乱がつづいている

「Go To トラベル」は、新型コロナで大きな打撃のあった観光業を支援するために、国内の旅行代金の最大半額を補助するという事業だ。1兆3500億円という予算が投じられることになっている。当初は8月からとされていたが、7月22日に前倒しとなった。

しかし、「Go To トラベル」をめぐっては、新型コロナ感染がふたたび拡大する中、地方自治体の首長や国民からも批判・困惑が高まっており、あとから、東京発着の旅行が対象外となったり、若者・高齢者の団体旅行が割引対象外の方針とされるなど、混乱がつづいている。

・「Go To トラベル事業」の概要(観光庁・7月15日時点版)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001351403.pdf