千葉という立地がどう作用するか(写真は東京ディズニーランドで2月撮影、ロイター/ISSEI KATO)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、壊滅的な需要減に見舞われた観光業界の活性化を狙って、国が打ち出した「Go To」キャンペーンが大混乱している。

政府は7月16日、22日から全国を対象に実施するはずだったGo Toについて、新型コロナ感染者が急増している東京都を発着する旅行について当面対象外とする方針を決めた。具体的には他府道県から東京都を目的とする国内旅行のほか、東京居住者の国内旅行が対象外となる。

Go Toは宿泊や日帰りの国内旅行代金の半額相当が補助される。旅行費用(宿泊費やパッケージツアー料金など)の35%が直接割り引かれ、残り15%は旅行先で使える地域共通クーポンとして還元される。もともとは8月中旬に始める予定だったが、政府が7月22日に前倒し。ところが、東京を中心に新型コロナの感染者が再び拡大する中で、各方面から慎重な意見が出ていた。

日本で最も人口が多く、観光資源も豊富な東京の発着がGo Toの対象から外れる一方、注目されるのが東京観光のランドマーク的存在である「東京ディズニーリゾート」を目的とした国内旅行だ。

ディズニー旅行、千葉県内宿泊なら適用

東京ディズニーランド」「東京ディズニーシー」を擁する東京ディズニーリゾート(以下、ディズニー)が位置するのは千葉県浦安市。つまり、東京都発着には該当しない。とはいえ、東京都民以外がディズニーへ遊びに行く国内旅行をすべてGo Toの対象にできるかというと、微妙な場合がある。

それはホテルの場所だ。ディズニーがある浦安市をはじめ、千葉県内のホテルに宿泊するならGo Toの対象となるが、東京都内のホテルに宿泊してディズニーへ行く場合はGo Toの対象外となってしまうのだ。目的地が千葉県でも宿泊場所で変わることから、7月22日以降、Go Toを活用する予定で都内ホテルを予約してディズニーへ遊びに行く予定だった場合は千葉県内のホテルに変更しないと割引が受けられなくなってしまう。

浦安市内だけでなく、JR京葉線を使って20分弱でアクセスできる幕張地区のホテルを利用する人も増えそうだ。9月以降の地域限定クーポン発行時までは35%の補助が受けられるGo Toの割引上限は1泊1人当たり1万4000円の割引だが(宿泊単体もしくは交通機関+宿泊がセットのパック商品)、もし宿泊が東京都になれば割引は一切ない。

とはいえ、ディズニーは東京観光のランドマーク的な場所であり、実質「東京」に分類され、ディズニー目当てに東京へ訪れる人も多い。


Go Toで羽田空港の利用はどうなるか(筆者撮影)

実際、毎年夏休みになると羽田空港のディズニー行きのバス乗り場には長い行列ができるほか、東京駅から新幹線で地方へ戻る車内ではディズニーのお土産を持った人が多く見られるなど、地方からの場合は成田空港発着のLCC(格安航空会社)便などを利用しない限り、東京を経由しないでディズニーには行くことができない。経由するだけなら一定の理解はできるが、地方からの旅行者の多くが、ディズニーの前後に東京都内で食事やショッピングを楽しんでおり、Go Toの恩恵を受けながらも東京を出入りすることになる。

またディズニー以外でも地方から東京を訪れる場合に、ホテルを神奈川県・千葉県・埼玉県などにすることでGo Toが利用できてしまうことから、東京都に加えて、川崎市・横浜市・浦安市など東京隣接に宿泊する人が増えるだろう。Go Toの割引を受ける旅行者に対しては、東京都内における食事やショッピング、観光を楽しむことについて自粛を徹底する必要があるだろう。

地方では歓迎の声も

東京発着以外の旅行においては、Go Toは予定通りに22日から実施することになったが、実施を強行した背景には、地方の宿泊業界や観光業界が悲鳴を上げている状況がある。

地方の観光業の多くが融資を受けて生き延びており、倒産寸前やすでに倒産・廃業を決めた宿泊施設もあるなかで、「コロナ感染者は首都圏が中心で、地方の感染者は少ない。首都圏以外の人には夏休みに旅行に来てもらってお金を落としてほしい」という切実な願いが多く、県内および周辺エリアだけでもGo Toの対象にしてほしいというものだった。

また地方だけでなく、首都圏でも神奈川県、千葉県、埼玉県の3県ともに感染者が多く出ているのは東京近郊エリアが中心で、箱根・房総半島・銚子・秩父などの観光地における感染者は少数であり、Go Toで除外するのは東京都関連だけにするべきとの声があり、東京以外の首都圏観光地はセーフとなった。

国内旅行では3月から新型コロナウイルスによる影響が出始め、4月7日の緊急事態宣言発令から6月19日の県をまたいだ移動自粛解除までの2カ月半は壊滅的な状況で、人件費や施設維持のための固定費を持続化給付金の200万円や雇用調整助成金などで賄える額ではなく、Go Toによる集客に期待するしかない状況だった。

そこで地方選出の国会議員などが政府や自民党に対し、8月ではなく、本来オリンピックの開会式が予定されていた7月の4連休に間に合わせて実施してほしいと要望。7月22日に前倒しになったが、都内の感染者数拡大で軌道修正を余儀なくされることになった。

旅行会社や宿泊予約サイトでもGo Toの特設サイトを開設し、旅行需要の取り込みに力を入れているが、Go Toの事務局に JTBなどの旅行会社も名を連ねたことも7月22日開始に前倒しできた要因だろう。

今後、考えなければならないのが、Go Toの適用除外となった東京都民や東京の宿泊施設、観光施設等に対するサポートだ。まず、都民および地方から東京へGo Toの割引があることを前提に旅行予約した人がキャンセルする場合にかかるキャンセル料の負担は誰になるのかである。

飛行機とホテルがセットになったパッケージツアーをキャンセルする場合、20日前から8日前までは20%、7日前から2日前までは30%のキャンセル料が必要となる。

例えば4連休初日の7月23日に出発する2泊3日の沖縄旅行で、旅行代金8万円のケースを想定してみよう。キャンセル料は2万4000円、本来は後日申請することでGo Toで35%分の2万8000円が戻される予定が、旅行を強行する場合にはこの2万8000円が戻らなくなり、中止した場合でも2万4000円の損になってしまう。どちらにしても損することになる。

一時的に対象外となる都民に対しての配慮も必要

この点については、観光庁が7月10日(金)に急遽22日(水)から実施することを明らかにし、7月26日までの予約については旅行後に事務局へ申請することで戻されるというルールを公表したことで、予約の急増につながった。

感染者が増えたことで東京発着を除外した点は理解できるが、感染者が増えた場合のリスクについての説明をしていない以上、利用者にキャンセル料の負担を求めるのは酷だろう。何らかの対応が必要であるなか、キャンセル料を国が負担することはないことを17日午前の会見で赤羽国土交通大臣は明らかにした。22日以降の旅行がGo Toの対象となるという発表をしておきながら一転、対象外にしたことの責任を放棄する格好で、国の準備不足に旅行者が振り回される形になってしまった。


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Go Toの本来の趣旨は、政府が日本国民に対して安心して旅行に行けるような状況になった段階で全国規模での補助をすることで国内旅行を促進し、観光業をサポートするというものだ。

除外となった東京都民に対し、感染者が減少した段階でGo Toの割引を予算が少なくなってしまった際に優先的に受けられるようにするなどの対策も必要である。開始を急いだことによる見切り発車をしたことで、国民も受け入れ側ともに混乱した状況がしばらく続くことになりそうだ。