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 かつては野球界で「巨人以外のチームならレギュラーなのに……」と惜しまれるような選手が、毎年のように存在していた。

 巨人は優勝をなかば義務づけられた人気球団であり、積極的な補強をするため常に選手層が厚い。それゆえ、高い能力を秘めながら控えに甘んじる選手も多かった。

 圧倒的な選手層という意味では現在ソフトバンクに水を開けられた感はあるものの、それでも巨人の選手層は変わらず厚い。そんな巨人が近年は積極的にトレードを行ない、血の入れ替えを図っている。


高梨雄平とのトレードで巨人から楽天に移籍した高田萌生

 今季は楽天との間で、ゼラス・ウィーラーと池田駿、高梨雄平と高田萌生(ほうせい)の2件のトレードが成立した。とくに高卒4年目と若く、近未来の先発ローテーション候補と目された高田のトレードには驚かされた。

 高田は尊敬する松坂大輔(西武)を参考にした投球フォームが印象的な本格派右腕で、2018年にはイースタン・リーグで11勝2敗、防御率2.69、勝率.846と投手三冠を獲得している。それでも、近年は期待されながら停滞が続いており、殻(から)を破れない印象が強かったのも確かだ。

 昨年のキャンプイン直前、高田は一軍の壁をこんな風に語っている。

「一軍にはスタンドの人数だけじゃない、独特の雰囲気がありました。あの雰囲気のなかで一軍のバッターに対して力を出し切れていれば、もっとやれたと思います」

 だが、結果的に高田は自分の力を出し切る境地には至っていない。今季は開幕からファームで過ごし、イースタン・リーグではわずか1試合の登板で、防御率27.00という惨憺たる数字が残っている。

 ひとつのチームに長くいることは弊害もある。ある元プロ野球選手が語っていたことだが、たとえば首脳陣に一度でも「精神的に弱い」「送球が悪い」などとネガティブな印象を持たれてしまうと、覆すのは難しい。新しい環境に飛び込めばフラットな視点で評価してもらえるうえ、新しい指導者、同僚から今までになかった価値観を授けられ、大きな刺激を受ける可能性もある。

 巨人のような選手層の厚いチームが出場機会に恵まれない選手をトレードに出すことは、球界の人材活性化という点から見ても歓迎すべきことだろう。

 巨人から移籍して大化けした代表例は大田泰示(日本ハム)である。2008年に2球団の競合の末にドラフト1位で意中の巨人に入団した。だが、ファームでは結果を残しながらも、一軍では厚い選手層に阻まれた。自転車で転倒してケガするなど、自己管理の甘さを指摘されることもあった。

 8年間在籍した巨人では、一度もレギュラー定着を果たせず。2016年オフに大田、公文克彦と吉川光夫(現・日本ハム)、石川慎吾の2対2の大型トレードが成立した。

 すると、栗山英樹監督の辛抱強い起用も後押しして、大田の才能が開花。積極的な打撃スタイルで右に左に強烈な打球を飛ばし、守備でも身体能力の高さを生かせるように。2018年以降は「犠打をしない攻撃的な2番打者」としての役割を与えられ、水を得た魚のように活躍している。

 日本ハムはかつて主力の糸井嘉男(現・阪神)をオリックスにトレードしたように、必要とあらばフレキシブルにトレードを活用してきた。そのため大田に限らず、前出の公文や、昨季にトレードで獲得した宇佐見真吾と元巨人組が働き場を得ている。

 公文は左腕から繰り出す150キロ前後の快速球は高く評価されていたものの、安定感に欠け一軍定着を果たせずにいた。大田とともに日本ハムに移籍すると、巨人時代後期から取り組んできたサイドスローが馴染み中継ぎ陣に定着。セットアッパーに宮西尚生という球史に残る鉄腕がいるため、大事な場面を任される頻度は多くはなかったが、移籍後の3年間で159試合に登板。7月11日に黒星を喫して途絶えたものの、入団以来182試合連続無敗というNPB新記録を樹立した。

 宇佐見は、巨人編成陣のミスとも言えるドラフト戦略でだぶついてしまった強打の捕手だった。城西国際大からドラフト4位で入団して2年目の2017年に、21試合の出場ながら打率.350、4本塁打とブレークの兆しを見せていた。

 だが、巨人は同年のドラフト3位で大城卓三を指名。年齢もポジションもプレースタイルも宇佐見と被った。しかも、2位で当時21歳と若く有能な岸田行倫も指名。ドラフト会議の時点で巨人編成陣は打撃のいい大城を野手として期待していた節もあるが、結果的に宇佐見はあぶれる形になった。

 しかし、昨年6月に2対2のトレードで日本ハムに加入すると、捕手や指名打者として出場機会を与えられている。守備面は昨季の盗塁阻止率.400と健闘したものの、打撃面はいまだ本来の実力を発揮しているとは言えない。それでも、その豊かな才能の一端を見せつつある。

 FAで選手を獲得することが多い巨人は、人的補償で図らずも有望な若手を失うこともある。

 2013年オフには広島からFAした大竹寛を獲得したものの、一岡竜司を人的補償で失った。一岡は隠し玉的な存在だったアマチュア時代を経て、巨人が手塩にかけて育ててきた逸材だった。

 藤蔭高(大分)では故障に悩まされ、大学・社会人からの誘いがないまま専門学校の沖データコンピュータ教育学院に進む。同学院3年時に都市対抗野球大会でJR九州の補強選手に選ばれ、全国大会のマウンドを経験。それでも、華々しい実績とは無縁の素材を巨人は3位と好順位で指名している。2年間はおもにファームで登板機会を積ませ、プエルトリコのウインターリーグに派遣するなど英才教育を施した。

 それだけに、プロテクトから外したとはいえ開花寸前の時期に広島にピックアップされたのは痛恨だったに違いない。一岡はリリーフとして即戦力になり、2016年からのリーグ3連覇に大きく貢献している。

 2017年1月には、DeNAからFAとなった山口俊(現・ブルージェイズ)の人的保障として、高卒3年目を終えたばかりの平良拳太郎が指名された。

 かつての大エース・斎藤雅樹を彷彿とさせるサイドスロー右腕は、新天地で順調に成長。2018年、2019年と2年連続で5勝を挙げ、初めて開幕ローテーションに入った今季はもっか絶好調だ。4試合に登板して2勝1敗、防御率1.08(リーグ1位)という驚異的な成績(7月15日現在)を収めている。

 トレードと人的保障では移籍の意味合いが変わってくるが、いずれにしても巨人が質の高い選手を育成していることには違いない。「トレード=放出」という図式は、もはや時代遅れだ。トレードは、選手がより適した環境を見つけるための前向きな手段なのだから。

 巨人から楽天に移籍した高田の新たな門出を祝福し、豊かな潜在能力が目覚めることを祈りたい。