俳優・山本裕典(32)をはじめ、キャストやスタッフ、観客らが新型コロナウイルスに感染した舞台「THE★JINRO−イケメン人狼アイドルは誰だ!!−」(※以下「THE★JINRO」)。舞台は小劇場・新宿シアターモリエールで6月30日から7月5日まで上演され、7月15日現在で確認された感染者数は59人、濃厚接触者は850人に及ぶ。事態を重く見た小池百合子知事は徹底的に調査をする姿勢を表明している。

【画像】クラスター発生の舞台が上演された新宿シアターモリエール

 波紋を広げるこの“舞台クラスター”については、連日のように「出演者とファンがハグや握手をしていた」「観客が配布されたフェイスシールドをしていなかった」「体調不良の出演者がいたのに舞台を強行した」といった内情が報道され、業界内外から批判と困惑の声が上がっている。


山本裕典(「THE★JINRO」特設サイトより)

 7月14日、劇作家の鴻上尚史氏(61)はTwitterに「主催者の方のおっしゃる『できるだけの感染防止対策』では何がまずかったのかどういう状況だと観客全員が濃厚接触になるのか、詳しく知りたいです」と綴っている。

 なぜ“舞台クラスター”は発生してしまったのか。「THE★JINRO」に出演し、新型コロナに感染した俳優・A氏に電話で話を聞いた。

「『何が悪かったのか』って毎日考えています」

 A氏は甘いマスクで多くの女性ファンの支持を集めるイケメン舞台俳優だ。「THE★JINRO」の千秋楽を7月5日に終え、後日PCR検査を受けたところ、感染が発覚。現在は都内の病院に入院中だが、取材をした7月14日の時点では「体温は36度台で食欲もある」という。

「感染がわかって最初の2、3日間は倦怠感が多少ありましたが、今は体調もよくなりました。毎日のように僕らの舞台について報道されていますが、僕も『何が悪かったのか』って毎日考えています」

 A氏曰く、舞台運営にあたっては「できる限りのことはやっていた」のだという。

会場が二転三転したのはなぜか

「公演や稽古ではこまめに換気をしましたし、体温チェックや初めと終わりの消毒も徹底していました。水道の前で並んで、俳優みんなでうがいもした。僕らの身のまわりを世話してくれるスタッフさんもマスクやフェイスシールドをつけていましたし、一番危険視されていた楽屋も3つに区切ったりしていた。

 当初は恵比寿や渋谷の劇場で公演する予定でしたが、感染防止策を守ると30〜40人程度の観客しか入れられないことがわかり、(会場については)二転三転しました。結局は『100人までなら観客を入れられる』と言ってくれた新宿シアターモリエールに決まったんです。それなら(観客減の)赤字分をグッズ販売で補えそうだと。

 出演者が約20人もいる中で、どうしたらソーシャルディスタンスを守れるかって、演出も工夫していました」

 しかし、劇場がすぐに決まらなかった理由については、7月15日付けの「日刊スポーツ」がこう報じている。

《主催のライズコミュニケーションも、当初予定した別の小劇場に出した上演案では、ガイドラインに沿ったソーシャルディスタンスなどが保てないと難色を示されたため、急きょシアターモリエールに変更したことも判明。あやうい公演実態だった可能性が浮上した》

 14日には、新宿シアターモリエールが業界のガイドラインに沿った感染防止策を徹底していなかったことも明らかになっている。

「握手しないと家までついてきちゃう」

 また、舞台運営だけではなく、「演者が客席に降りてファンと抱擁していた」「出待ちに握手などで対応していた」など、ファンへの対応にも批判の矛先は向けられている。しかし、A氏は過剰なファンサービスは「一切ない」と主張する。

「確かに“イケメン系”の舞台ではそういうファンサービスが当たり前のように行われてきました。でも今回はまったくしていない。一番お金になる握手会やツーショット撮影会などの接触行為も中止していましたし、僕らはグッズ販売にも参加していません。お客さんには “出待ち禁止”をお願いしていたんです」

 しかし、こうも語るのだ。

「でも……、お客さんに対しての認識には甘いところもあったかもしれません。スタッフも限られているので、ファンの方が監視の目をすり抜けて劇場の出口付近や駅に潜んで(出待ちして)いることもありました。熱心なファンの方は握手しないと家までついてきちゃうので、仕方なく対応した演者もいたとは思います。それはダメだったんだろうなと反省しています」

尾上松緑がブログで強く批判

 なかでも特に批判を集めているのが、体調不良を訴える俳優がいたにもかかわらず、舞台出演を強行したのではないか、という報道だ。7月12日には、歌舞伎俳優の尾上松緑がブログを更新し、その対応を強く批判している。

《僕が苛付くのは日本国内で初めて舞台での新型コロナウィルス集団感染が発生した公演主催者が“体調不良の出演者が居るのを知っていながら上演を強行した”しかも、何の手も打たずに最終日まで全行程 そして“罹患している可能性が有り、それを分かっていたのに出演し続けている者が居た”と云う事実だ》

《はっきり言おう こんな奴等は劇場サイド、主催者、出演者、スタッフに至るまで、どいつもこいつも素人の集まりだ》

体調不良で舞台に出演した俳優

 報道や批判を受け、主催者である「ライズコミュニケーション」は7月12日に公式サイトでこう釈明した。

《一部報道では「体調不良の出演者がいながら上演を強行した疑い」とございます。当社としては、公益社団法人全国公立文化施設協会等の定めるガイドラインに即し、出演者に対し、稽古及び舞台中に37.5度以上の熱が出たり、体調不良を覚えたりした場合には、直ちに制作スタッフに申告していただくようお願いしておりました。7月4日に1名の方から申告をいただきましたが、抗体検査の実施の結果、陰性であったことと、検温の結果がガイドラインの規定の範囲内であったことから、ご本人とご相談の上、ご出演となりました。7月5日にも1名の方から、検温の結果が平熱より高い旨の申告をいただきましたが、出演者の方と出演者が所属する事務所の方々から、持病に起因する可能性が高いとの医師の診断があった旨のご説明を受けたことと、検温の結果がガイドラインの規定の範囲内であったことから、ご相談の上、ご出演となりました》

 A氏が当時の様子を語る。

「最初にスタッフに体調不良を訴えたのは若手舞台俳優のBでした。7月4日の公演後の夜にBが『体がだるい』と報告したので、運営の指示で抗体検査をおこないましたが結果は陰性。熱はなく味覚もあったので、大丈夫だろうと翌日の千秋楽公演にも出演しました。

 体調不良を訴えた段階で、代役を立てようとすればできたと思います。ただ、Bは主要キャストでもあったし、主催者側にも出演してほしい気持ちがあった。それでB自身も無理をしてしまったところはあると思います」

 B氏以外にも、体調不良であるにもかかわらず、舞台に出演した俳優もいた。

なぜ彼らは体調不良を申し出なかったのか

「千秋楽では別の出演者Cも体調不良を訴えました。実はCは数日前から体調が悪かったようなのですが、周りに迷惑をかけるかもしれないし、ということで黙っていた。でもBが4日に体調不良を訴えたことを聞いて、5日に自分も体調が悪いとスタッフに相談したそうです。そして千秋楽後にCがPCR検査を受けたところ、6日に陽性反応が出てしまった。僕たちがそのことを知らされたのは7日です。他の演者やスタッフも『マジか!!』『ヤバイよ』『そういわれてみれば自分も……』となって、病院へ駆け込んで検査を受けたところ次々にコロナ感染が発覚した。僕もその中の1人です」(A氏)

 BやCはもちろんのこと、なぜ彼らは体調不良を申し出なかったのか。

「実は……僕も千秋楽後に気だるさがありました。なんていうか、めっちゃ眠いんですよ。めっちゃ眠いし、とにかくだるかった。でも、体調が悪いのは舞台の疲れからきているものだと思っていました。今回の『THE★JINRO』は2部制で、1部は20分の演劇で、2部は人狼ゲームを60分するんです。普通の演劇よりも頭を使うので、終わったときはいつもヘトヘトで……。言い訳になるかもしれませんが、まさかコロナに感染しているだなんて思いもしなかったんです」(A氏)

「僕らには赤字に耐えられるような収入がない」

 A氏はじめ主催者側は「気をつけていた」と主張する一方、認識が甘かったことにも気付きつつあるようだ。

「尾上松緑さんが僕たちのことを批判するブログを書かれていましたが、警備や感染対策など、僕たちなりに努力はしました。でも、かけられるお金にも限界があります。握手会や撮影会ができないこの状況だと物販にも期待できませんし、僕らには赤字に耐えられるような収入だってない。宝塚や歌舞伎と同じレベルでの感染対策はできません。

 舞台に出演するアイドルたちは今も小さなライブハウスやイベント会場でファンミーティングを続けていますし、演劇だけで食べていけない俳優の中には『夜の街関連』でバイトする子もいます。僕たちにお金を遣ってくれるファンの方にも『夜の街関連』で働く人も多い。みんなどこで感染しているかわからない。もう僕たちみたいな俳優は舞台に出るなってことなんですかね……」

 今回の集団感染を受け、萩生田光一文科相は会見で「あらゆる舞台に関わる皆さんがガイドラインをしっかり守って安全な公演をしていただくことを期待している」と語った。だが、A氏は「安全な舞台なんてないですよ」と深いため息をついていた。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))