地球外知的生命体探査における問いは、突き詰めてしまえばひとつしかない。「みんな、いったいどこにいるんだ?」

「地球外文明は、宇宙にいくつある? その探索を難航させている「ある変数」の存在」の写真・リンク付きの記事はこちら

この問いは、ノーベル賞を受賞した物理学者エンリコ・フェルミが70年ほど前にランチの席で同僚たちに投げかけて以来、ずっとエイリアン・ハンターたちを苦しめている。

銀河系には太陽類似星が何十億とあり、そのほとんどの周囲を惑星が回っている。だが、何十年にわたる探査にもかかわらず、天文学者たちはいまだに生命のありそうな星を見つけていない。

これが、「フェルミのパラドックス」である。銀河系には地球外の文明が数多く存在していていいはずなのに、実際にはまったく見つけることができない。

「地球外文明は36以上」という新たな推定

地球外知的生命体探査(SETI:Search for Extraterrestrial Intelligence)の研究者たちは長年、フェルミのパラドックスへの回答をいくつも考えてきた。そのなかで最も説得力があり、最も当たり前な答えは、「おそらく地球外知的生命体は、わたしたちが考えたよりずっとずっと少ないのだろう」というものである。

だとすれば、どのくらい少ないのか? 多くの科学者たちが、この悪名高い難題に答えようと試みてきた。その結論をまとめると、天の川銀河に存在する地球外文明の数はゼロから1億の間ということになる。推定の範囲としては、あまり役に立ちそうなものではない。

だが、英国のふたりの物理学者が新たな試みによって、驚くほどはっきりした結論に到達した。『アストロフィジカル・ジャーナル』誌に6月15日付で掲載された論文によると、銀河系にはコミュニケーションをとれる地球外文明が少なくとも36は存在するはずだという。

大きい数字ではないし、なんだか少しがっかりするような結果も含まれていそうだ。この論文によると、われわれが地球外文明を見つけるまでには数百年かかり、最も近くにいる隣人は約17,000光年の距離にいそうだという。

「これまでは宇宙には生命体がいるはずだとかなり強気に考えられていましたが、最近はだんだん悲観的な見方もされるようになりました」と、ノッティンガム大学の天体物理学者で、この論文の共同執筆者のひとりであるクリストファー・コンセリスは言う。

「それも自然なことでしょう。でもいま、わたしたちの手元には、ほかの惑星上ではどのように生命が形成されうるかを合理的に推定するために必要な情報がだいたい揃っているのです」

知的文明数を算出するための方程式

銀河系において知的生命体が存在する確率を推測する試みは、現代のSETIが始まった当初から続けられていた。

1961年、世界初の無線による地球外生物(ET)の探査が完了したほんの数カ月後、天文学者のフランク・ドレイクがSETI活動の未来について、あるいはそもそもSETI活動に未来があるかどうかについて、米国の主要な科学者たち数名を集めて話し合った。

会合にあたり、ドレイクはこの探索が成功する勝算を見極めるための問いのリストを作成している。このうちのいくつか、例えば1年間で銀河系に誕生する恒星の数や、惑星系を有する恒星の割合などは、ファーストコンタクト前に答えが出せる問いだった。

一方で、惑星で知的生命が発生する割合や、ひとつの知的生命体が通信しうる期間などの問いについては、推定するしかない。ドレイクはこれらの問いの答えをかけ合わせれば、銀河系における知的文明の数をざっと見積もれると考えた。これが「ドレイクの方程式」として知られる計算式だ。

そしていま、天文学者たちは「ドレイクの方程式」の問いのいくつかに自信をもって答えることができる。例えば、惑星系を有する恒星の割合(ほとんど)や、1年間で銀河系に誕生する恒星の数(ごく少数)といった具合だ。

さらに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの新世代の太陽系外惑星観測用望遠鏡が稼働すれば、これらの惑星のうちどれだけの数が、その恒星周辺の生物が居住可能な場所に位置しているかについても理解が深まるだろう。居住可能な場所とはつまり、わたしたちが知る限り生命の存在に不可欠とされる液体の水が、惑星の表面に存在できる位置ということだ。

小さすぎるサンプルの問題点

だが、この「わたしたちが知る限り」という点が、まさに「ドレイクの方程式」の問題点でもある。銀河系におけるコミュニケーションをとる地球外文明の数は、統計的な推定値だ。つまり、すべての統計的推定値と同様に、推定に使用した仮定によって大きく変わってくる。

「ドレイクの方程式」では、未知の項目のうち約半数は地球外文明に関するものだ。われわれは地球外生物については何も知らないのだから、天文学者たちも推量するしかない。

コンセリスの共同執筆者であるノッティンガム大学のエンジニアのトム・ウェストビーも、今回の論文で「ドレイクの方程式」を再考するにあたり、ふたつの大きな推量をしている。

まずふたりは、知的生命体を生み出したとはっきりわかっている唯一の惑星、つまり地球に注目し、それを地球外知的生命体がいる可能性がある全惑星のモデルとして使用した。地球人が出現し、宇宙に電波を送り始めたのは、地球が誕生してから約45億年後のことだ。そこでコンセリスとウェストビーは、地球に似たほかの惑星も同様だろうと仮定した。

それだけではない。ふたりはさらに、恒星の周辺の生物が居住可能な範囲にある、すべての地球に似た惑星が約50億年後に知的生命体を生み出すと仮定したのだ。

「すべての地球に似た惑星が知的生命体を生み出すとは大きな仮定であり、大きな問題をはらんでいます」と、カリフォルニア州の非営利SETI研究機関でシニア・アストロノマー(天文学者)を務めるセス・ショスタクは言う。

「われわれの太陽系内で居住可能な範囲には火星もありますし、科学者によっては金星もそうだと考える人もいます。どちらも地球と同じくらい長く同じ位置に存在していますが、知的生命体は存在していません」

統計学者が数の多い未知の母集団について調べるときは、小さなサンプルから大きな集団について推測する。コンセリスとウェストビーがこの論文で選んだのは、まさにこの方法だ。

だが問題は、彼らがたったひとつのサンプルから推測した点にある。それはまるで、国政選挙の結果をたったひとりの考えを聞いて予測するようなものだ。サンプルのサイズが小さければ、結果はより大きく分散することになる。

これこそ、「ドレイクの方程式」による推定の結果が大きくばらつく理由でもある。コンセリスとウェストビーの論文には、その点がはっきり表れている。

カギは「文明の寿命」にあり

コンセリスとウェストビーは、論文でふたつの仮説を提示した。強い仮説と弱い仮説だ。

強い仮説では、地球に似た惑星は誕生から45億年から55億年たったころに知的生物を生み出すはずだと考えられる。地球はこれに当てはまり、人類は地球誕生後約45億年たったころにテクノロジーをマスターし始めている。

弱い仮説では、そのタイムフレームをゆるめて、地球に似た惑星は50億年たったあとのどこかの時点で生命を生み出す可能性があると考える。天の川銀河系内の恒星の平均年齢が約100億年であることを考えれば、より多くの地球外社会がいまも存在している可能性があると考えられることになる(この仮説では、地球外社会は50億年の長さにわたっては続かない短命なものとされている)。

強い仮説によれば、銀河系には少なくとも36の地球外文明が存在するという推定になるが、誤差の幅は非常に大きい。研究者たちは強い仮説の下限として、天の川銀河系には4から211の地球外文明があるとしている。

一方で、弱い仮説はもっと希望がある。地球外社会の数は少なくとも100から3,000は存在するという推定だ。

ずいぶん幅が広いわけだが、最も楽観的な下限の予想である3,000にしたところで、天の川銀河系の大きさを考えれば、かなり小さいといえる。天の川銀河系に2億5,000万ある恒星のほとんどが惑星をもっていて、しかもそのうちある程度の割合の惑星が居住可能だとすれば、そこには数百万という文明があると考えてもいいのではないか? それなのに、強い仮説と弱い仮説のどちらも、どうしてそれほど少数を推定しているのだろうか? 

これはすべて、「ドレイクの方程式」のひとつの重要な変数に由来する。その変数とは「L」、つまり、ひとつの知的生命体が通信しうる期間である。

「地球外知的生命体の寿命、つまりその文明が通信する状態にある期間の長さが、この問題の最も重要なポイントなのです」と、ショスタクは言う。「『ドレイクの方程式』のほかのすべての条件は、どれほどの数の社会が生じるかについてのものですが、それらの社会はそれほど長くは通信する状態にないかもしれません。無線を発明すれば、まもなく水素爆弾を発明し、自滅してしまうからです」

実際に有名な話だが、ドレイク本人が自分の名前の付いた方程式を「N=L」に短縮している。つまり、銀河系における文明の数は、それらの文明の寿命に等しいということだ(ドレイクはこの等式を自分のクルマのナンバープレートに記していた)。

ある知的な種の寿命が長ければ長いほど、その種を見つけられる可能性は高くなる。人類が無線技術を獲得したのはほんの100年ほど前のことであり、のちに核戦争や気候変動など、自らの存在を脅かすものもつくり出している。

人類の文明は、あとどのくらい存続するのだろうか。それは、われわれが自分たちに突きつけている危険にどのように対処するかにかかっている。

思考実験の域を出ない推定

コンセリスとウェストビーは論文のなかで、第2の大きな仮定について悲観的な見方をしている。強い仮説と弱い仮説のどちらにおいても、どの地球外文明であっても、自分たちの存在を銀河系に向かって発信するのは人類が無線技術を所有しているのと同じ期間、つまり約100年にすぎないと仮定しているのだ。

これはつまり、われわれ人類はすでに絶滅に瀕していると仮定していることになる。だが、推定される地球外文明の寿命として違う数字を選べば、それもまた完全に恣意的なものになってしまうだろう。

知的文明は500年存続するのだろうか。それとも、10,000年存続するのだろうか。その答えを確実に知りたければ、知的文明をひとつでもいいから見つけるしかない。

「人類がテクノロジーを手にした期間は、銀河系の年齢から見れば極めて短いものです」と、バークレーSETIリサーチセンター所長のアンドリュー・シェミオンは言う(コンセリスらの研究にはかかわっていない)。

つまり、われわれ人類が地球外社会と接触できたときには、その社会はわれわれ人類よりもはるかに古い可能性が高いということだ。「テクノロジーを使う文明が長く続くことは可能だと証明して、われわれを勇気づけてくれるでしょう」と、シェミオンは言う。

シェミオンは、過去最大のSETI実験である「ブレイクスルー・リッスン」プロジェクトのリーダーでもある。ロシアの大富豪ユーリ・ミルナーが1億ドル(約107億円)を提供したこのプロジェクトは、地上で最も強力な電波望遠鏡を数年間使って、生命の兆候を求めて宇宙を探ってきた。

われわれ人類が地球外生命体を見つけられるとすれば、それを実現するのはシェミオンたちのグループである可能性が高い。シェミオンは、地球外生命体が存在する可能性の推定は面白い思考実験だが、実際に接触できるまではどの推算がほかの推算より正しいかを決めることは不可能だとしている。

「演繹的議論は、実験プログラムの代わりにはなりません」とシェミオンは言う。「この疑問に答える唯一の方法は、地球外知的生命体の探求を続けることだけなのです」